移住者が絶えない東京の「利島」。住民300人の島に美容業界が注目

東京都に属する11の人が暮らす島のなかで、もっともマイナーといわれる利島(としま)。この島がなぜ、マイナーなのかというと、観光でアピールする必要がないから。島で豊富に取れる椿油が雇用を生んで、多くの移住者を引きつけているのです。

椿を農業として産業として、もっと盛り立てたい

「東京宝島」と呼ばれる11島のひとつ、「利島」は知名度が低いのに移住者に人気という不思議な島です。その理由は椿産業や漁業が盛んなため、ほかの島とは違い、観光アピールをしていないということがあります。そして、日本一の生産を誇る利島の椿油が雇用を生んでいることで、移住した人たちにも仕事があるのです。

 では、利島の椿産業はなにがほかと違うのでしょう? 移住者の1人、加藤大樹さん(40歳)に移住した背景と、椿油産業についてうかがいました。

一面の椿
冬になると畑が一面、椿の花で覆われる

 埼玉県出身の加藤さんは、現在、奥様(41歳)と、小学校5年生のお嬢さんの3人暮らし。利島には、お子さんが小学校1年生になるタイミングで移住しました。加藤さんの移住前の職業は農業生産法人社員。その前は美容師で農業に携わりたいと思い、前職に就きました。そして、奥様の前職も美容師。現在は、おふたりとも東京島しょ農業協同組合 利島店(JA利島)の職員です。

 加藤さんは農業で地域に貢献できる仕事がしたいと思い、JA利島の求人に応募し、移住しました。

「それまで働いていた農業法人ではJAのサポートを受けていましたが、今度は自分が利島のJA職員になって、農家を積極的に支援したいと考えたんです」

 現在、島の椿の農家は40軒。高齢化が進み、生産量が下がってきているそう。そこでJA利島は、椿の農業や椿油産業を衰退させないよう、土地を借りて椿畑を管理し、苗の栽培を行っています。年間、新たに植えるための苗を1000本以上育て、10年近く経って成長した苗木を植えているのだそう。なかなか気の長い作業です。

「椿の木は永遠ではありません、良質な油をつくるためによい木を育てる必要があります。島全体では年間600~1000本伐採し、苗木を300本植えていますよ」

椿の苗木
椿の苗を島内のハウスで育てている

 利島以外の椿油の産地では、椿を農業としては行っておらず、防風林にしている椿の種を拾う場合がほとんど。農業として成り立っていること自体が珍しいそうです。

 江戸時代から続く利島の椿油は、国内の椿油の約5割、伊豆諸島の約7割を占めています。また、椿の商品を特産にしている島はほかにもありますが、利島の椿はユニークな点が多いそうです。

「椿油は“藪椿”からしか採れません。種を絞ってつくります。ほかの島と異なるのは、完熟した種を使っている点やオーガニック栽培であること、そして島内に工場があることです」

椿の種
他の島では手で摘んでしまうが、利島では完熟した種が地面に落ちるまで待つ
加藤さんと清水さん
加藤さん(右)と、製油センターの清水さん(左)。清水さんも渋谷区出身の移住者

美容業界が注目する良質なオイルの生産

 生産量が日本一(二位の年もあり)の利島の椿油は、美容業界から注目されています。椿油には、人の肌にもともと含まれているオレイン酸が多く、なかでも利島の椿油は、その数値が高いので、美容オイルとしてとても優秀だからです。

「利島には日本で唯一、椿油の前処理ができる工場・利島村椿油製油センターがあります。化粧品にする場合は、脱酸が必要になりますが、ここでは油絞りをし、脱酸・脱色・脱臭までできるのです。もちろん、椿油は商社や化粧品会社へも卸していますが、この工場があることで島内産の美容オイルの製造が可能になりました」

 椿関連の商品をいくつか製造しているなかで、とくにオススメなのが、美容オイルの『神代椿』。100%利島産藪椿種子油を使ったオーガニックオイルで、オレイン酸を約86%含んでいるため、肌にとても馴染みやすいそう。

神代椿
利島生まれの『神代椿-金-』(左)と『神代椿-銀-』(右) 

『神代椿-金-』と『神代椿-銀-』があり、『金』は椿油の成分や色、香りを大事に、トロッとした質感。『銀』は脱色・脱臭を施して精製した、サラっとした使い心地。いずれも、すぐに肌にすーっと馴染むため、ベタつきません。

この良質な椿油を加藤さんやご家族はもちろん、島の人たちも使っています。

「100%植物性なので子どもにも安心です。仕事中に手が乾燥したらつけて、お風呂上りに髪の毛や角質の固い箇所、ターンオーバーの鈍い場所にもつけています。加齢とともに肌の油分が低下し、水分保持できなくなり、乾燥が進む…そんな悩みを椿油は手助けしてくれるそうです」

椿の油
小さな種から採れる油はごくわずか

 利島の中で原材料から製品化までできているため、買いやすい価格に設定されています。大手化粧品メーカーで同じ品質を求めたら、この価格(50ml、税別1800円)ではちょっと難しいそう。

 椿は島中いたるところに種が落ちているので、小学生は生徒会費の一部にするために畑の外に落ちている種を拾って、JAに1kg約1000円で買ってもらうのだそう。子どもたちが集めた種が、良質な椿油の一部になっていて、それも島の産業を支える一端になっています。

JA利島の方々
JA利島の方々。ほとんどが移住者で、向かって左から二人が加藤さん夫妻

 最後に、利島への移住をすすめるか、加藤さんに聞きました。

「おすすめします! 来るもの拒まずに受け入れてくれ、他人なのに家族みたいになれます。都会では当たり前のものが島にはなくて、不便な点は多々あります。でも300人という少ない人口で、全国生産量1、2位を誇る椿の産業を行っている島はとても珍しい。それに関われることは誇りですし、そのことに共感して一緒に仕事ができる仲間が欲しいです」

 利島は、昔から続いてきた椿栽培とその産業に携わる移住者が、バランスよく成り立っている稀有な島です。唯一の欠点は、移住者を受け入れる住居がたりないこと。それを打開するために、今後は空家を利用できるような取り組みも考えているそうです。

●東京島しょ農業協同組合 利島店(JA利島) 
●東京都利島村ホームページ 

<撮影/小塩真一 取材・文/カラふる編集部>