―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(53)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分との県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、村のNPO法人や協議会活動についてレポート。
村のNPO法人が映画上映会を開催
コロナ禍や人口の自然減少など、さまざまな要因で地域の集まりの機会が減り、一度減ったものはなかなか元には戻りません。産山村でも「あの地区の婦人会がなくなった」といった話は耳にしていましたが、現在村内に残っている婦人会はたったひとつ。
婦人会に限らず、新規入会者が増えずメンバーの高齢化が進むと、会を保てず解散するしかなかったり、また、経理をはじめ細かい作業が求められるので、積み重なると負担になり本業との兼務が難しくなったり。
そんな縮小傾向にある村内の集まりのなかでも、メンバーや周りの人々の努力によって元気に続いている会もあります。
それは「NPO法人・産山守り人の会」。森林関係の取り組み、小さな図書館「ブックワーム」創設、移住定住のお手伝い、そして小さな映画上映会。この会は参加・不参加は別として、移住してきた方がメンバーのだれかしらに誘われて最初に顔を出す会と言っても過言ではありません。私もあまり役には立っていませせんが在籍しています。
村民に人気の映画上映会ではここ数年、作品選びから上映方法まで試行錯誤してきました。ドキュメンタリー作品を中心に娯楽映画やアニメ映画なども上映、場所は基幹集落センターが主ですが、コロナ禍ではドライブインシアターにもチャレンジ。
2023年は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『長崎の郵便配達』、アニメ『銀河鉄道の夜』、『カレーライスを一から作る』、スペイン人映画監督ホルヘ・スアレス・キニョネス・リヴァス氏が産山村で撮影したドキュメンタリー作品『産山の夏』、医師・中村哲さんの映画『荒野に希望の灯をともす』、アニメ『夜のとばりの物語』など7作品もの上映がありました。
7作品中4作品はドキュメンタリー映画。里山の小さな村で良質なドキュメンタリー映画が見られるとは、なんてぜいたくなことなのでしょうか!
年齢も職業もさまざま。村で生まれ育った人、移住してきた人、Uターンしてきた人など本当にいろいろな方が参加し、それぞれができる形でつくり上げている産山守り人の会。この会がこれからも元気に存続することを一村人として願っています!
前向きな理由で食育改善推進協議会を解散
活動の存続は難しい…。かくいう私も、会長を務めていた「食育改善推進協議会」(通称、食会)を令和5年3月末で解散。会員みんなで話し合って決めました。
理由はいくつかあるのですが、いちばん大きいのは、会員のみの活動に限定されている点かもしれません。
山菜などを勉強しながら天ぷらにして食べたり、みそづくりをしたり、梅仕事をしたりなど食にまつわる活動自体は継続したい。でも、移住してきた方、移住希望の方、村外の方など会員以外の人々とも一緒に活動したい。ですが、食会は「会員のみの活動」という制約があるのです。
これまで、全国の食会と比較すると規模も小さく、内容も少し異なる活動をしてきた産山村。さて、もっと自由にもっと会員以外の人を巻き込んだ活動をするにはどうしたらよいのだろうか? と考えました。
そこで、さまざまな方に相談やご協力をお願いした結果、産山村役場健康福祉課が管轄していた食会を、これからは企画振興課が管轄する「うぶやま未来ラボ」の里山の食のイベントとして一緒に取り組んでいこうと動き始めることに。
「食べる里山(仮)」と題して1年間、季節をとおして取り組む予定です。小さな里山の食の楽しみが、たくさんの人に広がるきっかけになるようがんばります!
【折居多恵さん】
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。