桜島の火山灰で熟成させる干物が絶品。しっとり、濃厚、くさみなし

年に200回以上噴火している鹿児島の桜島。噴火による火山灰は雨のような感覚という鹿児島市には、火山灰を有効利用する干物があります。現地で活動する食育トレーナー、吉澤裕加さんがリポートします。

降灰を利用した「桜島灰干し」

船から眺めた桜島

 鹿児島県のシンボルとして有名な桜島には約6400人が生活しており、農業や漁業、豊かな観光資源をいかしたサービス業などが盛んです。薩摩半島、大隅半島に挟まれた錦江湾の中に位置する、もともとは海に囲まれた島でしたが、1914年の大正噴火で流れた溶岩によって海峡が埋まり、現在は大隅半島と陸続きになっています。周囲は36kmあり、1時間程あればクルマで1周できます。

 鹿児島市民にとっては市内のフェリー乗り場からわずか15分程で行くことができる、とても身近な場所でもあります。フェリーは24時間運行している公共交通機関で、大隅半島や宮崎県への交通路としても大きな役割を果たしています。

噴火している桜島

 桜島といえば噴火を想像する人も多いかと思います。実際に約60年間、1年も休むことなく爆発しています。ここ数年の年間噴火合計回数は200回以上で、鹿児島市民にとっては、噴火や降灰は雨のように当たり前のものでもあります。火山灰には黒雲母(くろうんも)や角閃石(かくせんせき)などの有色鉱物が多く含まれ、黒っぽいことも特徴です。

灰が積もった車

 各家庭には克灰袋(こくはいぶくろ。火山灰を集めて捨てるための袋)が配布されたり、天気予報に降灰予報(小さな噴石が及ぶ範囲をシミュレーションした情報)があったり、桜島の存在により、ほかの地域にはない特有の習慣もあります。

 通常は火山灰は自然と雨に流れたり、人の手によって集められ捨てられることがほとんどですが、じつは利用されることもあります。火山灰の中で熟成させる魚の干物、「桜島灰干し」をご紹介します。

灰の中で水分を抜き熟成させる

桜島の灰干し

「灰干し」という名前なので黒っぽいイメージをもたれるかもしれませんが、見た目はいたって普通の干物です。使われる魚はタイ、サバ、アジなど、一般的な干物と変わりありません。火山灰を使うことで観光客には大変珍しいと喜ばれ、鹿児島駅構内をはじめ、桜島灰干しが味わえるお店がたくさんあります。

 天日干しと異なり火山灰の中で直接空気に触れずに乾燥させるため、魚が酸化せず冷めても魚臭さのない、鮮度の保たれた干物に仕上がります。身はしっとりとして、塩だけでも濃厚な味わいが特徴。灰により余分な水分を抜くことでうま味を閉じ込められる特殊製法なのです。

 火山灰を使うといってもそのままというわけではなく、灰干しは灰づくりから始まります。よく水洗いした灰を20日間かけて天日干しにし、300℃のオーブンで1時間焼くことで吸水効果の高い殺菌された灰が完成。その灰とシラス(降り積もった火山灰の堆積物)を混ぜ合わせた上に「さらし」「特殊フィルム」「魚」「特殊フィルム」「さらし」「火山灰」の順番で重ね、ひと晩熟成させます。灰をつくる行程を含めると完成までには約1か月かかることに。

火山灰の有効利用で地産地消

雄大な桜島

 鹿児島県民にとって噴火は日常の景色とはいえ、火山灰が目に入ると痛いですし、噴火した日は洗濯物を外に干すことができないので、決して喜ばれるものではありません。そんな捨てるしかないような火山灰が食品の加工に再利用されるのは鹿児島に住む者としてもとても珍しく、地場でとれた魚を利用してつくるという点で最高の地産地消の品でもあり、今後の火山灰の有効利用への期待も高まります。

 噴火による土石流でできた土地は水はけがいいため、世界でいちばん大きな大根「桜島大根」や、世界でいちばん小さなミカン「桜島小みかん」などの特産品を生み出しています。鹿児島に観光に来られた際にはぜひ、雄大な桜島のエネルギーを感じ、桜島灰干しをはじめ、豊かな土壌が育む鹿児島ならではの産物を堪能していただけたらうれしいです。

<取材・文・写真/吉澤裕加>
<参考/鹿児島地方気象台、国土交通省九州地方整備局>

[地元の食文化から食育を考える]

吉澤裕加
鹿児島在住。キッズ食育トレーナー。管理栄養士。2児の母。「子どもがやりたい瞬間を逃さない」「子どもが自分の体に必要な食べ物を自然と身につける」をテーマに活動している。 (社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン鹿児島スクール主宰