全国でも有数の竹林面積を誇る、福岡県北九州市の春の特産品「合馬(おうま)タケノコ」。やわらかさとえぐみのなさが人気で、高値で取引されています。今年は豊作だと聞き、取材しました。
地上に出てこないタケノコを見つけて収穫
合馬タケノコは、北九州市小倉南区の合馬地区で栽培されている孟宗竹(もうそうちく)のタケノコのことです。一般的なタケノコと比べてアクがほとんどなく、肉質が非常にやわらかいのが最大の特徴だといわれています。
なぜ、そのようなタケノコが栽培できるのか、合馬タケノコの生産者で清永ファームの園主の清永匡孝さんにお話を伺うと、合馬地区特有の赤い粘土質の土壌のおかげとのこと。
もともと保肥力にすぐれ、ミネラルや栄養分が豊富な赤土に、さらに独自の肥料を組み合わせて土壌を改良しているそう。その結果、アクが減り、やわらかい粘土質はタケノコが成長するのにストレスがかからないため、タケノコもやわらかく育つのだそうです。
鮮度がいいほどおいしいのは多くの食材にいえることですが、合馬のタケノコは先端(地元では「とんぼ」といわれる)が少しでも土から出てしまうとえぐみが出てきてしまうので、土の中に埋もれている状態から掘り起こすことにこだわっているそう。
ただし地上に出ていないタケノコを見つけるには、少しの地割れや土の盛り上がりを頼りにしなければならず、素人ではほとんど見分けがつかないとか。かすかなヒントから掘ってみて、小さい黄色い穂先が見えると、傷がつかないように丁寧かつ素早く掘り進めます。その技術はまさに職人技。そうして掘り出されたタケノコは鮮度がいいうちにできるだけ早く出荷されます。
ゆでたてのトウモロコシのような甘味
小倉北区のフレンチレストラン「エタンセールカワモト」の野中料理長に、合馬タケノコの調理についてお伺いしました。
こちらのお店では毎年、春を迎える頃になると合馬タケノコを使った料理を提供しています。朝とれたてのタケノコはとくにえぐみが少ないので、店に届いたらすぐに下ごしらえをして、おいしい状態を保つのだそう。
一般的にタケノコの下処理といえば、外皮を剥いで米糠と一緒に1時間以上ゆでるなど、少し手間のかかるイメージがありますが、合馬タケノコの場合は皮のまま水から30~40分ゆでるだけで、えぐみはほとんど感じないと言います。
ゆでている間も、すでにタケノコのいい香りが厨房中に漂い、なんとも食欲をそそられます。ゆでたてのタケノコの皮をはいてそのままいただくと、通常のタケノコより明らかにやわらかい食感。なにより驚くのはその甘味です。
ゆでたてのトウモロコシを食しているかのような甘味で、あと味にえぐみもまったく感じません。これぞ合馬タケノコ。お店ではほかの春野菜と合わせてリゾットやキッシュにも使われます。
家庭では、まずはゆでたてを刺身のようにいただくのがオススメ。ほかのタケノコと違うことがすぐにお分かりいただけると思います。あと味にもまったくえぐみを感じません。
直売所でも売り切れ必至の人気ぶり
合馬タケノコは、北九州市内外に数店展開する北九州農業協同組合(JA北九)の農産物直売所「大地の恵み」はじめ、合馬地区各所に点在する直売所で販売されています。合馬観光タケノコ園では全国発送にも対応しており、出荷がピークを迎える4月~5月は大きく成長していて肉厚でとってもおいしい時期。
価格は関西市場へ出荷されるものは1kgあたり1万円。出荷量や時期、生産者によってもピンキリのようですが、4月上旬からは、直売所では市場価格の3~4割程度で買えることもあるとか。朝どれの合馬タケノコがお得に手に入るため、訪れるお客さんも増えるそうです。
筆者が昼の12時過ぎに「大地の恵み」を訪れた際は、朝どれの立派な合馬タケノコがラスト1本! 約1.5kgを1800円で購入できました(時価販売)。お店の方の話では、この時季は午前中でほぼ完売してしまうほどだそうです。下処理不要の水煮も販売されていました。
購入した合馬タケノコで早速、ゆでたてをワサビじょうゆでいただいたり、タケノコご飯を堪能しました。合馬地区にはタケノコ掘りの体験や実際に味わえる場所もあります。この時季ならではの北九州の特産品「合馬タケノコ」で、春を感じてみるのはいかがでしょう。
<取材・文/野口ゆか>