福岡県北九州市を中心に栽培されている「大葉(おおば)春菊」は、葉に切れ込みがなく、茎までやわらかでクセがないのが特徴。2024年に「うまかろーま」というブランド名がついてからは、全国的に注目されています。生産者に話を聞きました。
北九州で栽培される、やわらかくて食べやすい「うまかろーま」
一般的な春菊は葉にギザギザの切れ込みがあり、茎がかたいものですが、北九州市特産の大葉春菊は葉が丸く芯までやわらかで、えぐみが少ない優しい味わい。サラダなど生でもおいしく食べることができます。
大葉春菊はほとんどが北九州市内で流通していましたが、2024年11月に「うまかろーま」というブランド名がつけられてからは、県外の需要が増加しているそう。生産農家の岡村資巳さんに話を聞きました。
岡村農園は自然豊かな福岡県北九州市小倉南区で300年以上続く専業農家。うまかろーまのほか、トマトや白菜などさまざまな野菜を育てています。大きなビニールハウス一帯を占めるうまかろーまは、葉が弱く暑さにも寒さにも影響を受けやすいので、温度管理を慎重に収穫時も葉を傷めないよう気を使っています。
「物心ついたころから春菊といえば大葉春菊のことだと思っていました」という岡村さんが一般的な春菊は違うことを知ったのは、大学で東京に行ってから。小倉南区では同じような人は少なくないのではといいます。
そんな大葉春菊をもっと知ってほしい、地域を超えておいしさを広めたい、若い世代や子どもたちにたくさん食べてほしい、という生産者の願いで、ブランド化を目指すことに。
ブランド名の「うまかろーま」は、大葉春菊がもともとイタリアから来た野菜という説から「ローマ」の愛称で親しまれていたことから、北九州の方言「うまか(おいしい)」と組み合わせて命名されました。
若い生産者がSNSで魅力をアピール
うまかろーまのPR活動は、若手の生産者の集まり「若手の会」がメインで行っています。デザインが得意なメンバーがポスターやチラシを作成したり、レストランや商店と連携して加工品の開発をしたり、「うまかろーま」という名前を提案したのも、若手の会です。
小倉南区ではベテラン就農者が積極的に若手の意見を取り入れ、若者が得意とするSNSもPRに取り入れることで、生産物の魅力を最大限にアピールしています。
「農業従事者の減少や高齢化はここでも大きな課題です。自分たちだけでは、インスタグラムとは何gなのか? と質問が出るようなレベル。今の時代に合わせた手法で若者にどんどん任せていきたい。効果も感じて、心強く思っています」と岡村さん。
自分たちのアイデアが受け入れられる環境があることで、若い農業従事者のやりがいもアップしているようです。
フグ鍋やおひたし、サラダでおいしく食べられる
じつはうまかろーまは、下関から北九州エリアの名物「フグ鍋」の定番野菜。クセが強くないのでフグの風味を消さず、加熱してもへたりすぎないことから、このエリアでの生産が広がったそう。
岡村さんのおすすめは、おひたし。ユズゴショウとポン酢しょうゆで食べるのが定番だとか。みそ汁や卵焼きにも入れるそう。近くの学校に通う小学生にも聞いてみると、サラダがいちばんと教えてくれました。レタス感覚で肉や魚の主菜と一緒に味わうのもさっぱりおいしいです。
全国で唯一、とれたてのうまかろーまが食べられる小倉南区のレストラン『Italian Bar B&W』では、うまかろーまをジェノベーゼのように使った「和ノベーゼパスタ」、バジルのようにピザ生地に乗せて焼いた「フレッシュうまかろーまとにじどれピザ」が人気。うまかろーまでつくった和ノベーゼソースはオンライン販売も。
市外から県外、海外にもうまかろーまを広めたい
うまかろーまをはじめ大切に育てた野菜は、収穫後、家族総出で選り分け、袋詰めします。娘さんは若手の会のメンバー。料理が得意な妻はInstagramでレシピの発信も。
「最近では、うまかろーまを横浜まで卸すようになりました。これからどんどん県外、海外にも広めていきたいです」と岡村さん。
若手もベテランも手を取り合い、農業を盛り上げようと奮闘している姿が印象的なうまかろーまの生産者たち。同じように若い人や新しい仕組みを受け入れる体制が各地に広がれば、農業就農者も増えるのではないかと思えました。
<取材・文/武田樹奈>