山形県小国町に地域おこし協力隊として移住した岩手県出身の欠端彩乃さんが、町での体験などを発信します。今回は移住者が参加した「こんにゃくづくり」体験をレポート。
こんにゃくづくりには若い移住者たちが参加
山形県小国町で、雪が降りしきる日にこんにゃくづくりを体験しました。参加者は高校生から社会人3年目までの若い移住者たち。小国町での暮らしを体感したい! という希望から開催されました。
指導してくれたのは、町内で幅広く活動している横山信一さん・とよ子さんご夫妻。イモの栽培も含め1年をとおしてこんにゃくの製造や地元の商店への卸も行っている、こんにゃくづくりのプロです。
町中心部から車で20分ほどの山の中腹にある今回の作業場へ、雪が積もる山道を恐る恐る運転していきましたが、それも小国町らしい体験です。
スーパーなどで比較的安価で手に入れることのできるこんにゃく。ですが、その手軽さからは想像のできない手間のかかる作業工程がありました。
液体からゼリー状へ変化するこんにゃくにワクワク
こんにゃくイモはサルによる被害を受けないので、安定的に栽培ができる作物なのだそう。ただし、こんにゃくづくりに適した大きさのイモになるまで、3年もの期間が必要。栽培するだけでも時間と労力が必要な食材だと知りました。
さぁ、こんにゃくづくりの開始です! 今回は、下ゆでされたイモを用意してもらいました。1人当たりイモ500gに対し水1.3リットルをミキサーで液状にし、手でゼリー状になるまでかき混ぜます。
自分の手でつくることの実感がだんだんとわいてきて、「はじめての感触!」「楽しい! これからどうなっていくのかワクワクする」「変化がおもしろい」などと、参加者たちのテンションも上がります。時計回りにきっちり混ぜる人、空気を含ませながら混ぜる人など、混ぜ方に個性が現れていました。
どろどろとしていた液体は数分後、まるで洗濯のりのような質感に変化。あっという間に変化する人もいれば、なかなか状態に違いがみられない人も。かき混ぜ方が影響しているのかな? 速さかな? とその様子に大盛り上がり!
そこへ凝固剤を加えます。すると、透明だったものが薄茶色に色づき、プルンとした状態へ。それは、スーパーで売られているあのこんにゃくそのもの。
直径15cmの大きな玉こんにゃくをつくる
今回は、角こんと玉こんをつくりました。玉こんは、山形県のソウルフードで親しみのある郷土料理のひとつです。角こんは、手のひらですくって四角い容器にやさしく落とし、表面をなだらかに整えることがポイントだそう。玉こんは、スプーンで一口サイズにすくい、両手でコロコロと丸めて水の中へ落とします。
大きな塊でつくってみたいという声があがり、「どうなるかわからないけど、やってみよう!」と、トライすることに。そんな大胆な作業も、手づくり体験会ならでは。
いよいよ最後はゆでる作業。じつはこれがいちばん時間のかかる工程でした。その理由はゆで時間。量に応じて45分から50分ほど大きな鍋でぐらぐらとゆでる必要があるからです。ふきこぼれないように、火の番をしなくてはなりません。
とよ子さんと一緒に参加者もかわるがわるその様子を見守りました。ここまですでに1時間近くの作業。体験したからこそわかる労力の数々です。
こたつを囲み談笑しながら待つこと50分。参加者5人で手づくりしたこんにゃくはふくらんで、大きい鍋2つ分もできあがりました。心配していた直径15㎝ほどの大きな玉こんも見事に成功! 思いがけない成果となりました。
できたてを食べてみたいとワクワクした気持ちでいると、食べられるのは2、3日経ってからとのお話が…。水を張った容器にこんにゃくを浸し、水を交換しながら保管してアク抜きをしないと食べられません。できたてのこんにゃくはお土産としていただきました。ちなみに、手づくりこんにゃくの保存は冷蔵で1週間ほどだそう。
プリッとしてやわらかいこんにゃくを辛子じょうゆで味わう
「ゆっくりしていって」の温かい声とともに差し出されたのは、数日前につくってくれていたこんにゃく。食べる直前に熱湯にくぐらせ、刺身のように切ったものを辛子じょうゆで試食することに。この食べ方がいちばんおすすめだそうです。
驚いたのはその食感。市販の商品とはまったく違います! プリっと感はありながらもとてもやわらかく、どこかしっとりとしています。こんにゃく特有の生臭さはまったくなく、これが手づくりの味わいなのだとひと口で魅了されました。湯気の立つほかほかのこんにゃくは、おなかも心も温まる優しい味で、横山夫妻の穏やかな人柄に包まれ、その場もほっこり。
手づくり体験だけじゃなく、こたつに入っておしゃべりしたりと地域の方とともに過ごした時間に、参加者からは「日常を忘れて丁寧に向きあえた時間が幸せ」「非日常的なアクティビティ感があって楽しかった!」という感想が聞かれ、みなさん満足していました。
労力を必要とする手づくりの食材には、つくり手の温かい心という目には見えない価値が隠されていました。生産者の顔がすぐそばで見られる、それは地方暮らしだからこそ得られる幸せな経験です。
<取材・文/欠端彩乃>
欠端彩乃さん
岩手県盛岡市出身。山形県の大学で民俗学を専攻し、同県小国町地域おこし協力隊となり、町の歴史民俗資料館の立ち上げに取り組む。地域に息づく文化やそれらの人びとの思いに関心をもち、地域を超え次の世代へ受け継げたらと、発信している。