上半身裸の漁師たちの写真をあしらった「漁師カード」が話題に! 青森県で始まったこの取組みは、これまで漁業や魚に興味がなかった人も魅了しているとか。地域の枠を超えて漁業全体のイメージを変え、業界に革命をもたらたそうとしている熱い男たちの取組みを、おさかなコーディネータのながさき一生さんがレポートします
青森県職員が始めた漁師カードが女性や子どもに人気
漁師カードは、その名の通り、漁師たちの写真をあしらったカードです。つくったのは青森県の職員。「もっと青森県の水産業に興味を持って欲しい」との思いで、2019年に青森県全域の漁師たちや水産業に関わる人たちをカード化したとのこと。この上半身が裸の漁師が登場する漁師カードは、青森県内の魚をPRする「あおもりの肴」関連のイベントで、魚を買ってくれた人に配布していました。するとこれが、女性や子どもたちを中心として大人気に。そして、漁師カードはメディアでも取り上げられ、さらに多くの人に知られるようになったのです。
漁師のポスターを欲しがる女性がいたことがきっかけに
今回、漁師カードの「中の人」であり「マグロ解体ショーもできる県職員」の異名をもつ、青森県庁水産振興課の木村紀昭技師にお話を伺いました。
まず、漁師カードをつくったのはなぜでしょうか。これには、漁師カードの前身ともなる漁師ポスターが関係していたといいます。
「全国で青森県の漁業や魚をPRする際に、上半身裸の漁師のポスターを貼っていたところ、欲しいという女性が複数いまして。意外と人気があるのだなと思いました。で、配りやすいようにカードにしてしまえと」
「漁師には怖いイメージがありますが、実際にはいい人が多いです。それを青森の漁業の魅力とともに、遊び心で伝えようと思いました。」と話す木村さんも、最初はここまで人気になるとは思っていなかったそう。
90種類以上あるカードはすべて手づくり
予想以上に人気となった漁師カード。その秘密は、遊び心にあります。まずトレーディングカードさながらのデザイン。さらに、組合長ならLR(レジェンドレア)、普通の漁師ならUR(ウルトラレア)、といったようにレア度が設けられ、カードの種類も90種類以上あります。あまりにも立派なデザインなので、「どこかでつくらせているのですか?」と木村さんに聞くと、「全部手づくりです。予算限られているので(涙)」とのこと。でも、それが逆に、漁師カードが醸し出す独特な愛着を生んでいるのかもしれません。
漁業のイメージを変える、意外な効果も
最初は遊び心で始めた漁師カードでしたが、活動を続けているとさまざまな効果が出てきました。まず、「単純に魚の売上が増えている実感があります」。これは、漁師カードそのものが目当ての人が現れ、来場したり、買い物をしたりしていくからだといいます。最初は魚のおまけだったものが、今やカードそのものが目当てにもなり、漁業や魚への関心が薄かった人たちにも知ってもらうきっかけになっているそう。そして、「漁師の怖いイメージやキツイだけのイメージを払拭することで、漁業への就業についてもいい効果が出ているように感じています。」とのこと。漁師カードの効果ってすごいですね。漁業のイメージを変えるのに一役買っている漁師カードは、そのうち漁業自体も変えてしまうくらいのパワーを秘めているようにも思えます。
そんな漁師カードも活動開始から早1年。「青森といえば漁業」というイメージを定着させたいという木村さんですが、その思惑は着々と進められています。「協力的な漁師さんが多く、漁師カードは90種類を超えましたが、これからも漁師を脱がしに回り、まずは目指せ100人切り!ということで、100種類達成を目指します!」と意気込んでいました。
ますます人気が高まりそうな漁師カード。今後の動向と影響に注目です。
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。