新潟のブナのブランド化を目指す「スノービーチプロジェクト」

これまで家具や建材としては使いにくいといわれてきたブナ。新潟県ではブナの森を活用する取り組みを行っています。北魚沼に移住して、林業や木工に関わっている中川光嗣さんが紹介します。

身近なブナを活用するスノービーチプロジェクト

秋のブナの林

 冬迫る魚沼の森から、あるプロジェクトをご紹介します。

 新潟県では、5年ほど前からブナ林を持続的に管理して活用する取組みを「スノービーチ(SNOW BEECH)」と名付け、ブランド化を目指しています。新潟大学の森林生態学の先生を中心に県の協力のもと、製材業者や家具メーカー、クラフト作家、建築家など県内の関係者が参加してるプロジェクトです。

 一般の方にとって、ブナといえば世界遺産の白神山地、あるいは登山が好きな人であれば高山で見られるきれいなブナ林を思い出すかもしれません。北陸から東北の日本海側にかけての地域では、ブナは里山でも自生するため、山間の地域に住む人にとっては昔から身近な木として、まきや炭として地域経済を支える自然資源になっていました。

 漆器の産地の周辺では器の木地として今なお使われていますし、近代では紙パルプの原料として大量に伐採された時期もあります。

使いにくいブナを家具や建材として活かす

ブナを伐採する作業員

 一方でブナは変色や変形、腐りやすいといった理由から、家具や建材としては不向きとされてきました。しかし近年、乾燥技術の向上や加工、製品化の工夫によって欠点を補うことができるようになってきたのです。さらに間伐が行われてきたブナ林の木は、家具や建材として使いやすいし、それに向かない木はキノコ生産に欠かせない菌床の原料に。このプロジェクトでは、新たな視点でその価値を見出し、新潟の地域ブランド化を目指しています。

切り出されたブナの丸太

 この日は伐採現場に、私もメンバーの1人として立ち会いました。伐り出すための道を重機で切り開く際に、支障となる木を伐る作業です。この林は40年以上前から間伐されており、太く育った木もあるためチェーンソーで伐る作業には高い技術が必要でした。

ブナの森を次世代に引き継ぐ取り組み

ブナの林で働く人たち

 このプロジェクトでは約700haのブナ林を対象に、航空機やドローンを使った空中撮影、またボランティアによる現地調査も行っており、地元の森林組合によって調査された資源を適切に管理しながら収穫しています。ブナの寿命は200年程度。この広大なブナ林に毎年少しずつ道を延ばし、「間伐と区画伐」という木を選んで伐る方法によって、約100年で1回りのサイクルとなることを目指しています。

 ブナ林業のサステナビリティをどのように次の世代に引き継いでいくかとともに、林業に携わるステークホルダーに適切な利益を分配することが課題となります。そのためにはこの地域のブランド化されたブナが、付加価値の高い製品となって多くの人の手に届かなければなりません。

<取材・文/中川光嗣>
神奈川県湘南地方で育ち、大学で建築を学び、首都圏の建築事務所などで住宅建築や都市設計などに携わる。30代で新潟県十日町市に地域おこし協力隊として移住。その後、県内の魚沼市に移り、「小屋丸」の屋号で地元の木材を使った木工作品を制作している。