年末年始は、すしが食卓に並ぶことが多い時季。すしにも地域独特の文化が存在しますが、そんなローカルな食文化や嗜好に目を向けて、地域限定のネタにも力を入れているのが、回転ずしチェーン「魚べい」などを展開する元気寿司。地域ならではすしにはどのようなものがあるのか、おさかなコーディネーターのながさき一生さんがレポート。
日本各地のすし文化の違いに目をつけた魚べい
年末年始やお祝いごとに欠かせないすし。今や日本を代表する料理です。おすしというと、一般的に握りずしのことを指しますが、その発祥は江戸時代の江戸といわれています。そこから、全国、世界に握りずしが広がっていった結果が今。
しかし、握りずしが全国に広がる以前にも、押しずしやいなりずしといったおなじみのすしは存在していました。また、すしのネタとなる魚は、全国津々浦々で取れるものも違い、魚食文化も地域によってさまざまなものが育まれてきました。地域によるすし文化の違いは、そのような背景が関係しているものと思われます。
そして寿司文化の違いは、当然ながら嗜好や消費にも影響を及ぼします。その点に特に目を向けているのが、回転ずしチェーン「魚べい」を展開する元気寿司です。
地域限定のすしネタは現場の声から始まる
今回、栃木県宇都宮市にある元気寿司本社を訪ね、法師人尚史(ほうしと たかし)社長に、地域ごとのすし文化の違いや地域限定のすしネタ、またそれらがどのようにして誕生するのかを伺いました。
「地域ごとのすしへのニーズの違いは、全国展開をしているととても感じるところです。それらをくみ取るために、弊社では現場からのメニュー提案には積極的に耳を傾けているんですよ。」とのこと。
「例えば、北海道地域の季節限定ネタで『焼きたて!サーモンハラス』というものがあります。これが誕生したのは、私が北海道に行ったときのこと。車での移動中に同席していた北海道エリアの社員から、このメニューの提案がありました。じゃあ、早速やってみようと。そのままの流れで家電屋に寄って魚焼き器を買い、早速店舗で試作をしたところ、とてもおいしかったのでメニュー化にいたりました」。
このメニューが提案された北海道は鮭の一大産地です。きっと、舌も肥えている消費者が多い中、もっとも脂ののったハラスを焼きたてで提供するというアイディアは、地域の人を思って出たものだと思います。
各地域で人気の限定ネタ
魚べいにはさまざまな地域限定ネタがあります。「地域限定ネタの数はどの店にも負けていません」と豪語する法師人社長に、主なものを聞きました。
北海道地方
「山わさび鉄火巻」など、山ワサビをのせたメニューを通常のものと同じ価格で提供しています。季節限定メニューでも地域限定ネタは豊富で、各店舗で酢〆をする「自家製上〆さば」やその炙り、生の「真ほっけ」などが特徴的です
東海地方
全国の地域限定ネタの中でも人気No.1なのが、東海地方の「ジャンボえびフライ」です。メニュー写真にも乗り切らない大きさで1貫100円(+税)で特に好評です。
関西地方
地域の文化に合わせて、いなりずしの形を俵型でなく三角型にしているほか、押しずしが充実しており、サバ、焼きサバ、穴子の3種を提供しています。
九州地方
九州地方限定のネタといえば、「まぐろはらも炙り」。「はらも」は、おなかの下の部位で脂がのっています。しかも、店内切りつけで、肉厚のためほかの地域の人がうらやむほどです。
食べたいすしネタがあれば、スタッフに伝えてほしい
地域限定のすしネタは、普段そこにいると気がつかないものですが、さまざまにあることが分かりました。この年末年始にすしを食べる機会がありましたら、ぜひとも地域ならではの味を楽しんでいただきたいです。
今回の取材の最後に法師人社長からこんなひと言をいただきました。
「もし、メニューにないもので食べたいすしネタがあったら、魚べいのスタッフに伝えてください。これからも現場の声を大事にして、地域の皆様にご満足いただけるおすしを提供してまいります」。食文化は皆でつくりあげるもの。次の地域限定ネタを作り出すのは、あなたの声かもしれません
<写真・文/ながさき一生>
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。