新潟県の北側に位置し、粟粒のように小さいことからその名がついたとも言われる粟島。漁業と観光業が主要産業の粟島では、コロナによる観光客の激減で本土と島を結ぶ航路が存続の危機に直面しています。島民にとって生活を支えるインフラ、まさしく命の道ともいえる連絡航路の存続プロジェクトを、おさかなコーディネータのながさき一生さんがレポートします。
フェリーで1時間半、人口350人の粟島
粟島は新潟県の北側に浮かぶ離島で、東西4.4Km、南北6.1Km、周囲23.0Km。その粟島にある粟島浦村の人口は350人余り。島へのアクセスは、新潟県村上市にある岩船港からフェリーで1時間半強ほど。小さいながらも見渡す限りの大自然と、人々の温かさを売りに漁業と観光業を主要産業としています。
漁業では、なんといってもマダイが名物で、新潟県内でも「粟島のタイ」は有名。さらに、杉を曲げてつくった器「わっぱ」に、磯魚とみそを入れてお湯を注ぎ、真っ赤に焼いた石を落とした「わっぱ煮」という漁師料理も。観光では、釣り客や雄大な自然を楽しみたい人にはもってこいの島で、釣り、海水浴、磯遊びのほか、磯ダコ捕りツアーや漁見学なども楽しむことができます。
当然ながら、島であがる新鮮な魚介も味わえ、日本海に沈む絶景の夕日にも触れられ、自然を満喫できる島です。
島の小中学校で学ぶ「しおかぜ留学」も人気
そんな粟島は、教育の場としてもうってつけ。わが子に島で伸び伸びと育ってほしいといったニーズを応え、「しおかぜ留学」という取り組みを行っています。「しおかぜ留学」は、粟島浦小中学校に入学または転校を希望する児童・生徒を受け入れ、島民との交流などを中心とした豊かで個性的な教育体験ができるというもの。留学生は村が用意した寄宿舎で生活しながら、通常の学校生活に加え、山の仕事、海の仕事、民宿のお手伝いなどをすることで、自身が必要とされることの楽しさを学びます。また、島には馬も暮らしていて、動物の力を借りて生きることも体験できるのです。さらに島で収穫された食材を、なるべく多く利用。大自然の中で命の循環を感じながら、生き抜く自信を育めるのが「しおかぜ留学」です。
コロナでフェリー航路が存続の危機に
そんな粟島にとってコロナの影響は、島の経済だけでなくインフラをも揺るがす死活問題に。観光客数の減少に伴い、フェリーの利用者も減少。それによりフェリーの運航会社である粟島汽船は経営難に直面。島民にとっては、命の道である航路の存続そのものが危うくなっています。粟島汽船の運行には、すでに国や県、自治体からの資金が入っていますが、収入減による資金不足をさらに補う必要が。
この状況に対し、粟島浦村がふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施。粟島と関わりのある人たちを中心に支援を呼びかけ、目標額であった1000万円の寄付を集めることに成功しました。集まった寄付金は、主に直近のフェリー運行に必要なメンテナンス費用などに当てられるとのこと。しかし、再度の緊急事態宣言に伴い、先行きの見えない状況が続くため、次の目標額を1500万円に設定して、さらなる寄付を呼びかけています。
フェリー航路存続には関係人口が欠かせない
命の道の存続に向けて一歩踏み出せた粟島浦村。今回のクラウドファンディングを担当している粟島浦村役場総合政策室の竹内徹真さんは、ひとまずの目標達成を迎えて、「今回の寄付者の多くは、かつて島に住んでいた方や働いていた方、島に愛着を持っていただいている方など、島になにかしらの縁がある方がほとんど。大変ありがたいと思うとともに、関係人口の大切さをあらためて感じています。」と話していました。
経済への影響のみならず、生活のインフラにまで及んでいるコロナの影響。新たな日常への対応を考えていくとともに、地域外の関係人口の大切さについても見直す機会となりそうです。
*このクラウドファンディングは2021年2月19日まで実施しています。
<写真・粟島浦村役場 文・ながさき一生>
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。