父が残した織物を現代風の小物に。下諏訪の女性が小商いに挑戦中

―[しもすわで小商いヤッテミレバ]―

 地域おこし協力隊を卒業し、長野県下諏訪町でまちづくり会社を設立した今野由香里さんと綿引遥可さん。毎回、さまざまな小商いに挑戦する人を取り上げていますが、今回は自分の得意な小物づくりと父親から引き継いた機織りを両立させる女性を紹介。

父の織物を受け継いで、小物を制作

あざみ工房とふみえちゃん

「好き」「やりたい」が出発点の自分らしい働き方、小商いをみんなでかなえる「小商いヤッテミレバ!キャンプ」。ワクワクを形にする人が増えれば、町はもっと面白くなる! と思い、開催している連続講座はとうとう第3期がスタートしたところですが、今回はアクションを続ける、卒業メンバーの小商いをご紹介します。

 機織り布を使った小物製作と販売を行っている、キャンプ1期生のふみえちゃんと私たちが出会ったのは「ヤッテミレバ!キャンプ」開催より前のこと。ふみえちゃんは一流の機織り職人さんだったお父さんからお店を引き継ぎ、私たちchiokoの事務所と同じ御田町商店街に「あざみ工房」を構えているのです。

 とにかく「つくることが私のワクワク!」というふみえちゃんは、小さな頃から裁縫が得意で、「おさがりの洋服を使わないともったいない!」とボタンやフックを付け替えたり、丈を直してみたり…。大人になってからも、3人の息子の子育てと並行しながら、時代や流行を意識して布小物を手づくり。イベントへの出店やチャレンジショップでの委託販売などに挑戦したりと、10年以上アクションを重ねてきました。

織物を使った小物

 同時にお父さんの織った生地を使って、手に取りやすい小物の加工にも挑戦。小物はあざみ工房の店頭に並びます。勤めに出ようかと悩んだこともあったそうですが、家族を大切にしながらも自分らしくできることとして、ものづくりを続けてきたのです。

 小物づくりは得意ですが、家業の織物に関しては小物づくりほどの技量はなかったそうですが、事業承継を考えていた4年前、商工会議所協力のもと、お父さんの織物のブランド化を進めようとプロジェクトが立ち上がりました。地元企業が扱う蚕が繭をつくる際に最初に吐き出す糸「きびそ」に注目。
「きびそ」を使った商品を更にアピールできるように試作を重ねていた最中、お父さんが志半ばで体調を崩し、闘病の末に亡くなってしまいました。

生前の村上さん

 お父さんを亡くし計画も頓挫してしまいましたが、まずは気持ちをすっきりさせようと思い立ち、お父さんの職場の荷物整理をすることに。長年制作を続けてきたお父さんの荷物は膨大でしたが、少しずつきれいになった工房で残った織り機を試しに使ってみたそうです。本を読みながら見よう見まねで動かしてみたところ、「自分でもできるかも?」と感じたそうですが、当然のことながら指導がなければ分からないことも多々ありました。幸いなことに下諏訪町のお隣、シルク文化が盛んな岡谷市に絹工房という織りを学べる工房があったので、織りから加工まで自分でできることを目指し、本格的に織りを習い始めたのです。

キャンプに参加し新しい価値観に出会う

キャンプ参加中の様子

 

 そうしてお店を引き継いだふみえちゃんは、ワクワクを全面的に押し出している「小商いヤッテミレバ!キャンプ」に出会います。自分とは違う価値観や行動力を不思議に感じつつも、興味を持って参加を決めてくれました。

 キャンプに参加して最初に感じたのは現代らしい自由な働き方をする参加メンバーたちの価値観。ふみえちゃんの新卒就職時は、女性は実家から通える範囲が望ましいという制限があったなど、まだまだ前時代的でした。当時の自分と同世代のメンバーが、ダブルワークをしながらキラキラと夢に向かっている姿を見て、「すごい!」と感激したそうです。

試行錯誤しながら自分だけの工房をつくり上げていく

 また「自分の本当の気持ち」より「みんなの気持ちを優先させる」ことに慣れてしまっている自分に気づいたりもしました。小商いだけに限らず、やりたいという気持ちからつながっている「自分がワクワクすること」へフォーカスするというみんなのあり方に、刺激を受けたそう。

 仲間とワイワイ意見を出しながら小商いを育てていくことで、自分の思いや企画のよさを再確認したり、新たな意見をもらったり。そんなふみえちゃんは、キャンプ最終回で「わたしのあざみ工房」を出店。お客さんと積極的にお話をしてワクワクが高まり、「気に入った人だけが買ってくれればいい」と受け身な気持ちから「より選んでもらえるような商品をつくりたい!」という気持ちに変化し、誰のものでもない「わたしのあざみ工房」をつくり上げていきます。

特技も家業も自分らしく

イベントに参加するふみえちゃん

 キャンプ卒業後もコンスタントに活動を続け、積極的に情報共有をしているふみえちゃんの姿から、仲間への思いと自身の小商いが進化し続けていることを感じます。シェアしてくれる新作の写真は、柔軟なアイデアが形になっていて面白いだけでなく、楽しんでつくっている様子がいつも伝わってきて、こちらまでワクワクします。

 「こうしなければ」と誰かに気を使うのではなく、自分のワクワクを大切にしつつも気負わずに、お父さんが織った織物を現代の女性にも使ってもらえる形でつくり続けていくそう。

 「お父さんと同じように織りの技術を伝承することまではできなくても、織りが気になるという人がいれば『ヤッテミレバ?』と気軽に声をかけられるようになりたい。肩ひじ張らずに自分らしく続けていくうちに、10年後くらいには胸を張って織りを教えられるかな?」と、無邪気に笑うふみえちゃんのあざみ工房の今後も楽しみでなりません。

―[しもすわで小商いヤッテミレバ]―

今野由香里さん 綿引遥可さん
長野県下諏訪町の地域おこし協力隊として、2017年から在住。2020年、合同会社 chiokoを設立し、下諏訪を「小商い=自分らしい暮らし方・働き方の育つ場所にしたい!」と奮闘中。