まるでリゾート!コロナ倒産したホテルが老人ホームに再生

 2020年4月、山口県萩市のホテルが県のコロナ倒産第一号となりました。それが6月には有料老人ホームへ再生されることが決まり、今では「グッドタイムホーム・グランド萩」として入居者を迎えています。このスピード再生が実現した裏には何があったのか、萩市在住のライター石田洋子さんが、立役者である阿部哲司さんに話を伺いました。

娯楽施設がそろったホテルが老人ホームに変身

有料老人ホーム

 老人ホームに生まれ変わったのは、萩市の中心部にある「グランドホテル天空」。元ホテルが老人ホームに再生されると、バイキングレストランから屋内グランドゴルフ場、カラオケ、マッサージルーム、フィットネス(リハビリルーム)、シアタールーム、麻雀や囲碁・将棋、ポーカーができる娯楽室、パチンコ&スロット、天然温泉までが完備された夢のような住居に様変わり。

 使用者は、部分的な介助があれば基本的に1人で生活できる「要支援」の高齢者で、健康寿命を延ばす施設として、地域の人たちの活躍の場にもなっています。

屋内グランドゴルフ場

「なにが地元のためになるか」を考え抜いた

天然温泉施設

 コロナ倒産したホテルに異例のスピードで再生が決まった背景には、ホテルを社会福祉法人「創生会」が買収したことがありました。負債を抱える銀行のコネクションから、この場を活用できそうな創生会に声がかかり、市長と理事長の対談が実現、買収の判断は即決だったそうです。「萩市の未来のために、ここを廃墟にしてはいけない」という理由からでした。

 もし、運営できる企業が現れなかった場合、解体して更地に戻すだけでも何億円ものコストがかり、手がつけられなくなってしまう可能性が高かったのです。中心部にある大型ホテルが廃墟になったら、町の雰囲気への悪影響ははかりしれません。

 老人ホームとして立て直す役目を請け負った阿部さんが、理事長から与えられたミッションは、「なにが萩市のためになるか考えて実行しなさい」というただそれだけだったそう。だから、地元の人たちの活躍の場を設け、年齢に関わらず、自分が「行きたい」と思える場をつくったのだとか。

責任者の阿部哲司さん

 阿部さんは、もともとレコード会社に勤務しており、エンターテインメント業界出身ですが、転職した現在は介護の仕事に大きな喜びを感じているそう。エンタメ業界で培った経験は、グッドタイムホーム・グランド萩の場づくりに生かされています。

再生は、地元のニーズに合わせた形で

萩市中心部

 じつは、萩市では有料老人ホームはたりている状態でした。ただ、「要介護」の方を対象とした施設はたりていても、「要支援」の人に向けたサービスが少ないという課題があったそうです。そこで、グッドタイムホーム・グランド萩は、「要支援」を対象とした施設として、その状態を維持し、健康寿命を伸ばすことを目指しています。
 
 もしも入居者が「要介護」の状態となった場合は、周囲の施設に受け入れをお願いして、ほかの施設と共存していくというスタンス。萩市のニーズを受け入れ、生活保護費の範囲内でも入れる料金設定の部屋もあります。
 この地域ではまだまだ有料老人ホームへの入居のハードルが高いため、家で生活しながらでも気軽なデイサービス利用も促進したいと、阿部さんは考えているそう。

 交流の場を生み出したいという阿部さんのはからいで、毎週金曜日には、駐車場に地元で人気のキッチンカーが出店。総菜やスイーツ、カレーなどが販売されるようになりました。

 こういう施設があれば、介護移住もありうるかもしれません。都市部に住む親や親戚、友人におすすめできるし、自分に支援が必要となった場合、家事や生活面で楽をしながら、生きていく選択肢になりそうです。もちろん、さまざまな手続きや十分なリサーチと準備、地元の理解などが不可欠ですが。
 人生100年時代、「高齢者」として生きる決して短くはない時間を謳歌する選択肢のひとつに、リゾート感覚の介護移住も選択肢のひとつになるかもしれません。

<文・写真/石田洋子>

石田洋子さん
2017年、山口県萩市に移住。萩とその周辺の暮らしを伝える「つぎはぎ編集部」で活動中。2020年、自宅の蔵を改装し、泊まれるフリーぺーパー専門店「ONLY FREE PAPER」HAGIをオープン。民泊体験を提供しています。