コウノトリを守りたい。ビオトープの米で日本酒をつくる取り組み

徳島県鳴門市には150㎞離れた兵庫県豊岡市からコウノトリが飛来し、子育てを行っています。このコウノトリを守るためビオトープをつくり、そこで取れた米で日本酒をつくる試みを、ご当地グルメライター大村椿さんがレポート。

兵庫県豊岡市からのコウノトリが徳島に飛来

提供/NPO法人とくしまコウノトリ基金
提供/NPO法人とくしまコウノトリ基金

 日本全国に『都道府県の花』や『都道府県の木』などがあるのはご存じでしょうか? 同じようなくくりで、『都道府県の鳥』というものがあります。私の出身地である徳島県の鳥は、1965年(昭和40年)に制定された「シラサギ」です。昔から市街地へ行くと、田んぼや大きな葉が広がるレンコン畑(ハス田)などに、白い大きな鳥がウロウロする姿は珍しくなく、現在でも見慣れた風景です。翼を広げると1.5m程度でしょうか。白い鳥なので、緑のなかでたたずんでいるとよく目立ちます。

 ところが、5月に仕事で徳島に行っていた友人が「コウノトリの子育てのシーズンだっだよ」と言っているのを聞きました。「ん? シラサギじゃなくてコウノトリ???」と思ったところ、なんと徳島県鳴門市に国の特別天然記念物であるコウノトリが飛来していたのです。コウノトリのためにビオトープがつくられ、そこで育てられたお米を収穫し、日本酒にするという取り組みも行われていました。

 コウノトリは、両翼を広げると2mにもなる大型の鳥で水辺を好みます。かつては日本中を飛び回っていました。ところが明治以降、乱獲や生息環境の悪化などにより激減。ついに1971年に野生のコウノトリは絶滅してしまい、自由に空を舞う姿を見られなくなったのです。ニュースなどでご存じの方も多いと思いますが、兵庫県豊岡市では、絶滅する前からコウノトリの人工繁殖と野生復帰を行っていました。人々の協力や研究により少しずつ周辺の地域での繁殖も成功し、現在は200羽を超えています。

 そんなコウノトリが2015年、徳島県鳴門市から150km離れた兵庫県豊岡市より飛来しました。2017年には徳島県内で初めてヒナがかえり、昨年までに11羽が巣立ったといいます。これは県内の湿地帯に生息する生物が豊富な証拠でもあり、現在の日本で失われつつある自然環境あってこそです。

 今年、鳴門市で子育てしていた「あさひ」と「ゆうひ」というペアから生まれた3羽のヒナたちは、「えがお」、「にじ」、「花」と命名されて、6月に無事巣立ちました。

ビオトープでコウノトリを守る取り組み

コウノトリ ビオトープ

 飛来先である鳴門市大麻町にある、文化元年(1804)創業の本家松浦酒造では、2020年にこのビオトープの一角で栽培されたお米を収穫してお酒を醸造したそうです。今回、10代目蔵元の松浦素子さんに、ビオトープとコウノトリの巣を案内してもらいました。

 現在、ボランティアや地元の農家さんたちの協力のもと、鳴門市内でコウノトリの生息環境を整えようと、約1.8haに「ビオトープ」が整備されており、今後はさらに拡大の予定だそうです。市内の休耕田を活用し、エサとなるフナやオタマジャクシなどの生物調査を行い、繁殖させる実証実験が行われています。

ビオトープ

「ビオトープ」はドイツで生まれた概念で、ギリシャ語の「bios(生物)」と「topos(場所)」の合成語です。生物群集の生息空間を示す言葉で、小さな生態系こと。従来の田んぼのように、農薬や化学肥料を使うと、稲は育てやすくなりますが、その一方で生物の生育に影響が出ます。そのため、ビオトープの一角にある田んぼでは農薬と化学肥料を通常の半分にして、生態系を守るようにしているのです。

 このビオトープに来たとき、大きな看板の前にこのイラストと同様のコウノトリの模型が置かれていました。写真を撮ろうと近づいていくと、その模型が動いたのです。

 わ、模型じゃない。ホンモノだった!

コウノトリ

 慌ててカメラを構えましたが、コウノトリは奥のほうへチョコチョコと歩いて行き、翼を広げてさらに奥へと飛んで行きました。翼の下部が黒く、その姿はオーラがあるというか、真っ白なシラサギとは明らかに違う。おどかしちゃったかもしれないと思ってちょっとドキドキ。想像より大きくなかったので、どうやら育ったヒナだったようです。

電柱の上にコウノトリの巣を電力会社も協力して見守る

コウノトリの巣

 保護のためにあまり近づきすぎてはいけないということで、少し離れた場所から巣を見せてもらいました。
「遠いからわかりにくいかもしれませんが、あれがコウノトリの巣です」。松浦さんが指さす方向を見てみたら、10m以上ありそうな長いポールの先端にカゴっぽいものが見えました。

「あんな高いところに巣をつくるんですね。でもあれ電柱っぽいような…」

 そうなんです。2015年に初めてコウノトリやって来たとき、電信柱の上に木の枝や草などを運んで巣をつくってしまったのです。「コウノトリが電線に触れて感電してしまう」「フンが送電の妨げになる」などの可能性がありました。かといって、巣を移動させるには落下するリスクなどもあったため、県は電力会社や専門家と相談し、電線を撤去し、そばにコンクリート柱を建ててつなぎ変えたのだそうです。

 なるべくコウノトリの邪魔をしないように最大限の計らいをしたということですね。こうしてここは『人工巣塔』となり、コウノトリは無事に子育てができるようになりました。

ビオトープ米で日本酒つくり、プロジェクトを継続

本家松浦酒造
本家松浦酒造

 2020年秋に、このビオトープで特別栽培されたお米を使って本家松浦酒造で仕込んだ日本酒は、あさひとゆうひの2羽にあやかって、『鳴門鯛 特別純米 コウノトリの酒 朝と夕(あさとゆう)』と名づけられました。スッキリした辛口のお酒に仕上がり、4合瓶(720ml)で約1300本つくられ、県内を中心に販売されてすでに完売しています。

 本家松浦酒造は、その売上から1本当たり200円を『特別非営利活動法人とくしまコウノトリ基金』に寄付しています。そして今年もこのプロジェクトは継続となり、米の栽培は品種も変更し作付面積を増やしました。2021年は6月10日に田植えも終えています。

 松浦さんは笑顔で、「地域の皆さんと共に自然を守り、お酒をつくり、応援してくれる方たちが購入してくれる。みんなが幸せになるプロジェクトなんです」とお話してくれたのが忘れられません。

 未来につながる環境保全に賛同し協力する大人だけではなく、子どもたちが自然に触れ合って生態系を学習するチャンスでもあります。この取り組みは、まさに国連が提唱している『SDGs(エスディージーズ・Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)です。

 このように地元の人たちや農家さん、企業などが一丸となった取り組みが、もっともっと広がっていくことを願ってやみません。それがきっと、コウノトリと共に地域の皆さんの幸せを運んで来てくれるのではないかと思っています。

※追記
 私が目撃したこの鳥はアオサギだったようです。こちらがビオトープにいる本物のコウノトリです。

ビオトープとコウノトリ
姿を見せたコウノトリ(写真はコウノトリ基金提供)
 とくしまコウノトリ基金の皆さま、ご指摘ありがとうございました。

<文・写真/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。