東京から真庭市に移住した若者が感じた、地方都市のすごさとは

岡山県の北中部に位置する真庭市。市の面積の8割近くが山林のため、緑豊かで林業・農業ともに盛んな地域です。今回は自身も移住者である平澤洋輔さん(真庭市役所産業政策課)に、移住のきっかけと真庭市の魅力、新たな試みである「GREENable HIRUZEN」について聞きました。

「地方っておもしろいな」東京の代理店勤務から岡山へ移住

GREENable HIRUZEN
GREENable HIRUZEN

 生まれも育ちも神奈川県の平澤さん。しかし、転機が訪れたのは7年前のこと。東京の広告代理店で働いていたときに地域の仕事に携わったことがきっかけで、考え方に少しずつ変化があったそうです。

「広告業界でキャリアを重ねていたタイミングで、地域の取り組みをPRする案件を担当することになったんです。地域の特色を生かした取り組みに関わるうちに、地方ってかっこいいじゃん。地方っておもしろいなとポジティブな気持ちになりました」

平澤さん
今回取材させていただいた、真庭市役所 産業政策課 平澤さん

「ちょうど地方創生がブームになるタイミングだったことと、東京でのキャリアを地方で発揮する挑戦をしてみたいという気持ちが重なって、思いきって地方に移住することに。真庭市の前に、岡山県の西粟倉村というところで2年ほど過ごしたあと、ご縁あって今の真庭市役所に就職しました」

真庭市の蒜山は「西の軽井沢」とも呼ばれるリゾート地

ジャージー牛
写真提供:岡山県観光連盟

 人口約4万4千人。鳥取県との県境に位置し、岡山県で1番大きい市である真庭市。県外出身の平澤さんから見た、真庭市の魅力について教えてもらいました。

「蒜山は高原地帯なのですが、緑に囲まれてロケーションがすごくよく、西の軽井沢とも呼ばれている西日本を代表するリゾート地なんです。ジャージー牛の飼育頭数が日本一のため、バターやヨーグルトなど乳製品の特産品が全国的にも知られているところです」

ひるぜん焼きそば
写真提供:岡山県観光連盟

「ご当地グルメとして、B-1グランプリでゴールドグランプリを受賞した『ひるぜん焼きそば』が有名。ひるぜん焼きそばの材料は、かしわ肉、高原キャベツ、焼きそばの3つに、お店や家庭ごとにちょっとずつ違う濃厚なみそベースの甘辛だれを合わせて焼き上げます。市内に何店舗もお店があるので、蒜山に来たときはぜひ食べ比べてもらうのもおすすめですね」

湯原
写真提供:岡山県観光連盟

「ほかには、露天風呂番付で西の横綱と認められた湯原温泉もおすすめ。ほとんどが源泉かけ流しで川沿いに施設があるので、温泉で温まった後に、少し風にあたって自然を感じる、なんてこともできます。そのほかにも勝山・久世エリア、北房・落合エリアや新庄・美甘エリアもありますが、蒜山と湯原は季節を問わず楽しむことができるので、初めて真庭市を訪れる方はどちらかに行かれるのがおすすめです」

役目を終えた木造建築を移築、SDGs活動の拠点に

GREENable

 観光地としても人気の真庭市。その魅力を語るうえで、外すことができないのが、主要産業である農業と林業でいち早くバイオ液肥やバイオマス発電などサステナブルな取り組みをスタートしていること。

「林業・農業ともに、真庭市では早くから価値のなかったものを価値あるものに変え、活用していました。これは未来を見すえて、地域資源を守りながらどう活用していくか? という話し合いを積み重ねた結果たどり着いたものです。地方では、東京みたいな経済はつくれないですが、こうやって資源を活用しながら地域内で経済が循環するという『サーキュラー・エコノミー』に取り組んでいるんですよね。これが真庭市の最大の魅力というかすごさだと思います」

 こうした取り組みが評価され、真庭市は2018年に「SDGs未来都市」に選定されました。そして、2021年には人と自然環境における持続可能な開発の探求、地域振興に関する思想や取り組みを表すコミュニティ・ブランドとして、「GREENable(グリーナブル)」を立ち上げました。

 GREENableとは、自然や緑を意味するGREENと、持続可能を意味するSustainableをかけ合わせた造語。これには、「すでに進んでしまった環境破壊や気候変動は、みんなで取り組めば、地球本来の豊かな自然(GREEN)に戻すことができる(able)」という願いが込められています。このGREENableに込められた思いと持続可能な循環型社会を世界に発信する拠点として7月にできたのが、『GREENable HIRUZEN』(隈研吾氏設計)です。

 この建物は、真庭市でつくられたCLT(直交集成板)を使用し2019年11月東京・晴海に建設された、隈研吾氏設計の『CLT PARK HARUMI』が役目を終えて、真庭市に建築物が「里帰り」したもの。解体しても再生できる木造建築の特性を生かした移築可能な素材、構造システムを実現することで、木材の新たな活用方法、建築物のアップサイクル例として、持続可能性を体現しています。

サイクリングセンターを茅で建築

GREENable02
サイクリングセンター

 同様に注目されるのが、茅(かや)でできている「サイクリングセンター」です。ここはGREENableの考え方を体験する場として位置づけられています。

「農家の屋根などで使われていた茅を、現代建築にアップデートした取り組みです。茅は放っておけばいずれ山林になりますが、人の手を加えることで自然景観が維持されて、そこの生物も守られます。このサイクリングセンターは、自然に人の手がうまく加わったことでできた、人と自然の共生を体験できる場所です。建物自体の素晴らしさはもちろん、人と自然のかかわりみたいなものなど、新しい気づきや学びを与えてくれる場所になれるのではないでしょうか」(平澤さん)

 今後もGREENable HIRUZENでは、新たな学びや気づきを与えてくれるツアーや、サステナブルな商品などを扱っているショップにてワークショップなどの体験型のようなコンテンツも計画しているそう。

 最後に、平澤さんは真庭市の取り組みと夢に関してこう語ってくれました。

蒜山高原
写真提供:岡山県観光連盟

「GREENableは、まだまだスタートライン。これから真庭市の取り組みも、第2期、第3期とどんどん広がっていく予定です。だから、遠く離れていても、一緒にこの取り組みを盛り上げてくれる人が増えてくれたらうれしいですね。僕が挑戦というキーワードが好きだからというのもありますが、真庭市は広くフィールドはたくさんあるので、これからGREENableがいろんなかけ算が生まれる場所になってくれればいいなと思ってます」

 平澤さんのような若い力を取り込みながら、新たな試みを続ける真庭市。これからどんな取り組みが行われていくのか楽しみです。

<取材・文/カラふる編集部>