元社会人野球の選手が沼津漁港にオープンしたフルーツサンドのお店がおいしいと評判です。賞味期限15分というバナナジュースや果物たっぷりのフルーツサンドを、沼津に移住した榎昭裕さんが紹介します。
旬のフルーツとクリームがたっぷりのフルーツサンド
豊富な魚介類が水揚げされ、年間約165万人が訪れる沼津港に2021年7月オープンした「iiRA fruits」。「キューブサンド」と呼ばれる、正方形で具材がたっぷり入ったフルーツサンドとバナナジュース・酵素ジュースなどを販売しているのが同店の特徴。
お店の面積は25㎡ほどで、ショーケースには常時6〜8種類のフルーツサンドが並んでいます。お店を切り盛りするのは、三浦健太さんと翠さん夫婦。この夫婦が手がけるお店のキューブサンドには、旬のフルーツがこれでもかというほどたっぷり、クリームも後ろまでぎっしり。フルーツとクリームのおかげでおなかいっぱいの幸せを感じます。
キューブサンドのテーマは「手のひらサイズの小さなごほうび」。1個食べただけでも十分満足してもらえるよう、隙間なく具材を詰めているというのが、三浦さん夫婦の思い。
「いろいろなフルーツサンドを食べて研究したときに、見た目がきれいでもフルーツが少ないものや、後ろまでしっかりクリームが入っていないものなど、がっかりしてしまうものもあったんです。一口めからしっかりフルーツに当たって、最後までクリームが詰まっている満足感のあるフルーツサンドを食べたかったんです」という健太さん。
社会人野球で活躍したあと、新たな生き方を模索
大阪府守口市出身の健太さんは、子どもの頃から野球を始め、中学時代も好成績を残し、香川県の野球でも有名な高校に進学。寮生活を送りながら野球部員として活躍しました。このときはプロ野球選手というより、柔道整復師などプレーヤーを支える側の仕事がしたいと思っていたそう。
四日市大学の野球部監督から声がかかったことから、野球をもっと真剣にやってみようと思い、特待生として大学に入学。そして、東海地区大学野球秋季三重県リーグでの春・秋2季連続の完全優勝にも貢献し、3塁手としてベストナインも受賞しました。
沼津で軟式野球に力を入れている企業への就職が決まり、大学卒業後は社会人野球の道に進んだ健太さん。平日はフルタイムで働き、火曜〜木曜は終業後に野球部の練習、土日に試合または練習、という日々を過ごしていきました。チームや監督の信頼を得て、チームの主力である3番バッターに成長した健太さんはここでも活躍し、徐々にメンバーも集まり、チームも強くなって上のレベルまで行けるようになっていったのです。
健太さんは外野手として静岡県野球連盟の令和元年度ベストナインにも選ばれ表彰を受けました。
社会人として5年が過ぎ、健太さんはある決断をします。これだけ忙しい日々を乗り越えていけるのなら、お金を生む仕事を自分でやってみたいと思うようになったという健太さん。「選手生命はいつかは終わる。いずれなにか、自分でやりたい」。以前からそう思っていたのだそうで、新しい自分の道を探すことに。
バナナに活路を見いだし、専門店開設へ
そこから健太さんは、自分の納得のいく道を1年かけて模索しました。居酒屋や焼肉店など、考えは多岐に渡ったそうですが、コロナ禍の今、飲食店なら日中だけ営業するお店がいい。食品ロスをなるべくなくしたい、ロスを出さないためには一品商品の専門店だろう。
地元の大阪に帰ったり、東京に行ったりしては考えを巡らせました。そうしてたどり着いたのはバナナジュースの専門店。2020年6月に三島市広小路に「バーナハウス」をオープン。「東京や大阪にはあるが、三島や静岡県東部エリアにはまだバナナジュースの専門店はそれほどなかったから」と健太さんは当時を振り返ります。
材料にこだわり、バナナは甘さがしっかりあるエクアドル産を完熟させて冷凍。牛乳は近隣の函南町で生産される「丹那牛乳」。砂糖や氷は使わない、バナナの甘味だけで勝負する完熟濃厚バナナジュース。健太さんは新しい商売に全力で取り組みました。ありとあらゆるバナナジュースを研究し、試作を繰り返し、ついに生クリームとアイスの中間のようなふわふわ食感が完成。店ではミキサーからカップに移す様子をカウンターから客に見えるように。賞味期限は「たった15分」というこだわりっぷり。
そしてオープン初日。予想以上の客がお店を訪れ、バナナジュースはすぐに完売。その売り上げは2人が考えていた想定額をはるかに超えたといいます。これでは追いつかない、とその日のうちにホームセンターに行ってストッカーを買いたしたそう。健太さんたちは順調なスタートを切り出しました。
一躍人気店となった「バーナハウス」。バナナジュースだけでなく完熟バナナを使ったバナナサンドやイチゴバナナサンドなどのフルーツサンドも販売するようになりました。そのフルーツサンドはお客さんを喜ばせるために目いっぱいのボリュームにして販売を開始。しかし、しばらくすると女性のお客さんから「ランチ後に食べるにはもうちょっと小さいサイズがいい」という声が寄せられるようになりました。
そこで、お客さんの声に応えるために食パンを4分の1にカットしたサイズをサイコロ(キューブ)に似ていることから「キューブサンド」というネーミングで販売することにした三浦さん夫妻。
新商品のアイデア担当は妻の翠さん。あくまでもフルーツの味を引き立たせる。フルーツとの相性を確認しながら、アクセントとして岩塩やピンクペッパーを使うものもあります。クリームをパンにはさむとき、角までしっかりクリームを入れ、全体の高さが均一になるようにするのがキューブサンドのスタイル。お客さんの満足のために、一切の妥協を許さない。見た目にも美しく、食べても裏切らないおいしさと満足感を与えるフルーツサンドが誕生しました。
地元に人にも来てほしいとキューブサンドの店を沼津漁港に
このキューブサンドをより多くの人に知ってもらうために、沼津港での出店を決めた2人。
「観光地である沼津港で、県外の人にもキューブサンドを知ってもらいたい。それと同時に、地元の方が沼津港に足を運ぶきっかけにもできたらと思う。地元の方は意外と沼津港に行かないと聞いたので、若い人たちも港に来てもらえたらいいな」と健太さん。
負けず嫌いでやるとなったら真剣に、無我夢中に練習するという健太さん。「野球とフルーツサンドはどこか通じるものがあるのかもしれない。やらずに後悔したくないんです。あのときこう動いていればよかったと後悔するのは嫌だから。たとえ失敗しても経験として人生の糧にしていきたい」と照れ笑いしながら話します。
「コロナ禍で先が見えない世の中だけど、自分たちなりに進んでいきたい、そして仕事だけでなく、妻との生活も大切にしていきたいですね」と健太は笑顔で話します。旅行好きな奥さんと出かけて、おいしいご飯を食べてお酒を飲むのが健太さんの喜び。
「キューブサンド」と聞いたらだれもが、三浦さん夫婦が作った正方形のフルーツサンドを頭に思い描いてくれるようになるのが夢だと話す、三浦さん夫妻の沼津港での新たなチャレンジ。ぜひ今後も見続けていきたいですね。
「iiRA fruits」
住所:静岡県沼津市千本港町122−16
営業時間:10:30〜16:00(売切次第閉店)
不定休
<取材・文/榎昭裕>
PRプランナー、沼津経済新聞副編集長。東京亀有生まれ、2014年に沼津に移住し、地域の情報発信、活性化活動を行っている。