東京からも近い伊豆大島。自然景観と生態系が豊かな島として日本ジオパークにも認定されています。そんな伊豆大島には、海のギャング「ウツボ」を使った仰天グルメがあるそう。おさかなコーディネータのながさき一生さんと東京海洋大学大学院生の小菅綾香さんがレポート!
伊豆大島の隠れた名物「ウツボ」料理
伊豆大島は、東京から約120kmに位置する伊豆諸島最大の島です。アクセスも東京の竹芝から高速ジェット船で1時間45分ほど。都会から手軽に行ける離島であり、観光業も盛んです。そんな伊豆大島では、椿や焼酎、明日葉、くさやが特産品。さらに、べっこう寿司や大島牛乳といった名物もありますが、まだあまり知られていない仰天グルメがありました。それが今回紹介する「ウツボ」料理です。
ウツボは、その見た目の恐ろしさや鋭い歯から、「海のギャング」と呼ばれています。伊豆大島の海には、ウツボが多く生息しており、エビなどの漁獲物を捕食することから、駆除を目的として漁獲されています。しかしながら、ウツボは流通先がなく、これまで漁具で捕まえた後は捨てるしかありませんでした。そこで、「ウツボを利用しよう!」と立ち上がったのが、伊豆大島漁業協同組合の加工部が営む食堂「浜のかあちゃんめし」。今回は、浜のかあちゃんめしの岡村京子(おかむら きょうこ)さんにうつぼ料理についてお話を伺ってきました。
ウツボが食べられる食堂 浜のかあちゃんめし
「メニューに『ウツボ』って書いてあると、たいていのお客さんはひきますね。」と、話してくれた岡村さんは、伊豆大島漁業協同組合の加工部代表。漁協直営の「浜のかあちゃんめし」は岡田港のすぐ近くにあります。浜のかあちゃんめしでは、ウツボ天丼やウツボ丼、ウツボの旨揚げなど、ウツボ料理を通年食べられます。とくに、ウツボの旨揚げは、天気がよくないと食べられない限定品。島の特性上、湿度が高いため、天気が悪い日はウツボの旨揚げが湿気てしまうため、提供しないそうです。
頭・骨・皮・尻尾まで食べられるウツボ!
浜のかあちゃんめしでは、ウツボの内臓以外をすべて加工し、販売しています。骨つきの身は蒲焼に。尻尾は柔らかくしたのちつぶしてドレッシングやつくねに使用。頭は粉砕して、サプリメントとしているそうです。また、うつぼの皮には、コラーゲンがたっぷり含まれており、美肌効果が得られるとのこと。こんなにたくさんの利用方法があったとは驚きです。
ウツボ料理を提供するまでには大変な苦労があったと岡村さんは言います。ウツボ料理の取組みが始まったのは、2018年。ウツボは知名度こそ高いものの、食用としての利用も少なく研究が進んでおらず、分からないことだらけだったそう。「どの時季に、どれぐらい獲ればいいか。ウツボについてなにも分からいゼロからのスタートでした。ウツボについて勉強し、年間の漁獲量の制限や禁漁期の設定を行いました」。
邪魔もの扱いされていたウツボですが、やみくもに取れば資源が枯渇につながります。岡村さんは、持続的な観点でウツボを「資源」として大切に扱いました。また、ウツボの漁獲にあたり、加工部で漁具を購入し、漁師さんには無償提供することに。
さらに岡村さんたちを苦しめたのは、ウツボの恐ろしさ。加工部に運び込まれるウツボのなかには、ときどき生きているものがいたそうで、鋭い歯、強靭なアゴ、そして恐ろしいビジュアル。初めの頃は、ウツボの怖さに泣きながらさばいていたんだとか。なかには、ウツボが怖くて、「辞めたい」と言い出す職員もいたそう。
「大島に来れば、ウツボが食べられる」そんな存在にしたい
ウツボは、浜のかあちゃんめしで食べられるのはもちろんのこと、現在は島のホテルにも食材として提供しています。ホテルのシェフが調理したウツボを食べたとき、自分たちがつくり上げてきたものが、こんなにもおいしいものになると、感動したそう。
「ウツボの取り組みは、漁獲から加工、販売に至るまでトータルで行っているので、かなり大変。やはり、ウツボに対して思い入れがないと続きません。伊豆大島に来ればウツボが食べられる、そんな存在にしていきたいです」。と岡村さんは話します。
今回の取材を通じて、岡村さん達のうつぼに対する強い気持ちが伝わってきました。伊豆大島を訪れた際は、「ウツボ料理」を堪能してみてはいかがでしょうか。
<写真・伊豆大島漁業協同組合 文・ながさき一生、小菅綾香>
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。
東京海洋大学大学院生・小菅綾香さん
マグロで有名な神奈川県三浦市三崎生まれ・育ち。釣り船の娘として生まれ、釣り歴21年。現在、東京海洋大学の大学院生をしながら、釣りや魚の素晴らしさを発信している。