伊賀焼、萬古(ばんこ)焼といった伝統工芸が盛んな三重県。歴史あるメーカーが新ブランドを立ち上げたり、若手作家が移住していることから、工芸品・雑貨好きから注目を集めています。そのなかから、今回はクッキーアートデザイナーの栗田こずえさんをご紹介。
個性豊かな動物クッキーが400種以上
名古屋から電車で20分ほどのところに位置する三重県桑名市。北伊勢神宮と呼ばれる伊勢神宮と関わりの深い多度大社や、国の重要文化財・六華苑を有する歴史のある町です。そんな桑名市に、全国から注文のくるユニークな手づくりクッキーの専門店『kurimaro collection(クリマロ コレクション)』(※以下、クリマロ)があります。
店内はまるで絵本の世界のよう。壁面に描かれた珊瑚のまわりをカラフルな魚が泳ぎ、奥には大きな木。ずらりと並んだクッキーは、さまざまな生き物を型どったもの。生き物たちが暮らす楽園に足を踏み入れたような感覚に包まれます。
クッキーの種類は400種以上。ウサギやクマといった「森の動物シリーズ」をはじめ、犬、猫、鳥、昆虫、爬虫類、両生類、魚、海獣、恐竜、そして微生物まで地球上のあらゆる生き物がクッキーに仕立てられています。犬だけでも約50種類あり、随時増えていくのだとか。
「クッキーを通じて、生き物の多様性やかわいさを伝えたくて」とオーナーの栗田さん。「商品にはあえて名前を書いていません。これはなんだろう?と興味をもってもらいたくて。そこからコミュニケーションも生まれるし、その生き物を知ってもらうきっかけになるんです」。
かわいく見せるために飼い主の気持ちに寄り添う
クッキーの型は、薄いアルミの板をペンチで折り曲げてひとつひとつ栗田さんがつくったもの。この形を生み出すまでの過程がもっとも大変なのだとか。
「図鑑や映像を見るだけではなく、実際に、生き物と触れ合い、目のきれいさにキュンとしたり、仕草にかわいいなぁと感じたり、その生き物に対して心が動いて初めて形にできるんです」と栗田さん。また、その生き物の飼い主やお世話をしている人に話を聞くことも忘れません。「毎日、愛情を持って接している人だからこそ知っている仕草や特徴があります。それをクッキーに落とし込みたいと思っています」。
栗田さんにとってこうした現場での触れ合いは、生き物に対する好きという気持ちを深めていくための欠かせない作業。クッキーを生み出す原動力になっていると言います。
コロナ禍でイベントが中止。ピンチをターニングポイントに
三重郡朝日町出身の栗田さんが、隣町の桑名市でクッキー専門店を始めたのは、今から5年前のこと。趣味だったクッキーづくりを仕事にしようと決心し、桑名市内の商店街にある小さなスペースに工房を構えました。
アニマルフェスティバルなどのイベントの出店をおもな販路として活動していましたが、コロナ禍で軒並みイベントが中止に。そこで栗田さんは、以前から目標に掲げていた「さまざまな生き物のクッキーが並んでいる、いきもの王国の設立」に舵をきりました。
そして2020年4月、工房を移転し「いきものクッキー専門店 kurimaro collection」をオープンしました。移転先も同じ桑名にしたことを「縁を感じるから」と栗田さん。
「最初の工房も、桑名の方のご好意で貸していただいた場所。地元のつながりが強いと言われている桑名で、私も助けてもらってばかりです。これからは恩返しをしていきたいですね」と笑顔で話してくれました。
目指すは2000種。地球上の様々な生き物をクッキーに
次なる新作は、掛川花鳥園とのコラボレーションでうまれる鳥シリーズ。大の鳥好きという栗田さん。トロピカルな鳥たちのどんな魅力をクッキーに詰め込んでくるのでしょう。また、生き物が生息するシチュエーションを再現したいきものカフェをつくる、という新たな目標も動き出しているのだそう。すべての発想の原点は、生き物への愛。
「クリマロのクッキーを見てかわいいという気持ちが生まれたら、生き物に優しくなれると思うんです。トカゲも虫も微生物も、どの子もみんなかわいいいところがありますから」。
目指すは、地球上の生き物2000種類。キラキラと目を輝かせながらも淡々と有言実行を地で行く栗田さんには、決して遠くない未来に感じました。
栗田こずえ
1983年、三重県生まれ。2016年、三重県桑名市にある寺町商店街でクッキー専門店「プレゼントクッキーのkurimoaro」をオープン。2021年4月、桑名市内で「いきものクッキー専門店 kurimaro collection」としてリニューアルオープン。クッキーの生地は三重県産の小麦と塩、国産バターを使用。卵不使用、着色はフルーツや野菜のパウダーを使うなど、形だけではなく材料にもこだわっている。
<取材・文>西墻幸(ittoDesign)
西墻幸さん
1977年、東京生まれ。三重県桑名市在住。編集者、ライター、デザイナー。ittoDesign(イットデザイン)主宰。東京の出版社で広告業務、女性誌の編集を経てフリーランスに。2006年、夫の地元である桑名市へ移住。ライターとして活動する一方、デザイン事務所を構え、紙媒体の制作や、イベント、カフェのプロデュースも手がける。三重県北部のかわいいものやおいしいものに詳しい。