漢方の原料になるシャクヤクを特産品に。花摘みツアーも人気

岡山県の西の端に位置する、穏やかな気候と豊かな自然に恵まれた井原(いばら)市。この町で新たな特産品が産声をあげました。見て美しく、食して体によい「薬用シャクヤク」。その魅力と、井原の人々の取り組みについて地域おこし協力隊の船越なお子さんがレポートします。

シャクヤクを特産品にするために手を挙げた井原市

シャクヤク

 シャクヤクを知っていますか? シャクヤクの大きく豪華な花は観賞用としても人気ですが、じつは根っこも貴重で漢方薬の原料になるのです。
 現在、漢方薬の原料は8割以上が中国産といわれていて、以前から国産化が求められていました。そこに手を挙げた町のひとつが井原市でした。

 シャクヤクの生育には土地の性質などが大きく関係するのですが、井原の温暖な気候と粘土質の土壌は最適。農産物のなかでは比較的栽培に手がかからない点も、高齢化が進んだ井原の事情にぴったり合っていました。
 賛同者はすぐに集まり、自分たちの手でシャクヤクを特産品に育てていこうと数年前から試験栽培を重ねてきました。そして、2021年度、満を持して井原のJAのなかに「薬用植物部会」を立ち上げたのです。

 2021年11月の初めての収穫時に、視察に来た人は全国から20人以上。世界的な会社のバイヤーも参加していて、薬用シャクヤクへの期待の大きさがうかがわれました。

井原市長
取材を受ける井原市・ 大舌市長

 井原市長も作業着姿で参加、自らテレビの取材に応じていました。市としても期待度大の様子です。圃場(ほじょう)には夢に向かう、明るい雰囲気が満ちていました。

「みんなで成功」の土地柄があってこそ

根っこ
掘り出したばかりの根っこ

 シャクヤクの栽培には手はかからないと言われる一方、辛抱強さは必要かもしれません。なぜなら根っこが収穫できるまで4年間大事に育てる必要があるからです。
 長い間土の中で育った根っこは大きく重たく成長しています。よく育ったシャクヤクの根のかたまりはひと抱えもあり、力持ちの農家の人でさえ持ち上げるのがやっと。人の手では無理なので共同で重機を借りて、一株ずつ丁寧に土の中から掘り出します。

 掘り出された大きなかたまりから土を取り除き、根っこを1本ずつはずして大きさごとに分けて…。それらはすべて手作業で行われます。しかも、乾燥しないように掘り出した根はその日のうちに仕分けしないといけません。栽培そのものには手がかからなくても、収穫時は体力とチームワークが必須です。

ばらした根っこ
一本ずつ堀って外した根っこ

 薬用植物部会のメンバーは「今日は〇〇さんの圃場、明日は△△さんの圃場」と、みんなでみんなの畑の収穫を協力し合います。大変かもしれませんが、つながった農家さんたちが、連携を深め協力し合って、チームとしてシャクヤクで町を盛り上げようとしているのです。ご年配の方が多いのに、とてもパワフルで夢があり、元気をもらえます!

 井原の人たちは「みんながうまくいく」ことがとても大事と思っている印象を受けました。だれかが困ったときにはなにも言わず手を差し伸べ、助け合うのが当たり前な土地柄のようにも思います。

根っこだけじゃなく、花にも注目

満開のシャクヤク畑
満開のシャクヤク畑

 元々は漢方の材料として根っこだけを出荷するはずでしたが、花もとてもきれいなので、売ってくださいとの要望がひきも切らず。そこで今年から花も市場に出荷することに。

 それと同時に旅行会社と組んで、花を自分の手で摘む体験ツアーも開始。ツアーでは、観光タクシーで美星町の流れ星伝説にまつわる神社をめぐり、地元の青空市でお買い物。昼には井原の季節の食材をいただき、最後に花を摘んでお土産に持って帰る、という井原を満喫できる内容です。

大好評の花摘みツアー
大好評の花摘みツアー

「お花畑の中で、自分でお花を摘めるのが楽しい」「きれいなお花を持って帰れるのがうれしい」と、参加者からは大好評でした。

 薬用植物部会の会長・森本潔さんは「井原をシャクヤクのふるさとにすること。市内どこに行ってもシャクヤクの花が見られるようになるといいなと思っています」と、笑顔で話してくれました。

 そのために井原JAではシャクヤク農家さんの応募も随時受け付けています。農業の技術的な面だけでなく、井原市からの移住のサポートもあります。「空き農地もたくさんありますので、シャクヤクを育ててみたい方はぜひご一報を!」(森本さん)

 シャクヤクの満開の時季は短いのですが、5月頃に岡山方面に来られる機会がある方は、ぜひ井原のシャクヤク畑にも立ち寄ってみてください。

取材協力/JA井原 薬用植物部会

<取材・文> 船越なお子

■ 船越なお子(岡山県井原市地域おこし協力隊)
都会にも田舎にも外国にも暮らした経験があり、引っ越しは20回ほど経験。井原の昔から受け継がれてきた丁寧な暮らしや助け合いの心、豊かな自然の恵みに惹かれて移住。協力隊として、草刈りからお年寄りの支援、商品開発やイベントの企画など、様々な活動をしている。地域のみんなで改修した古民家「塩飽笑店」をコミュニケーションの場として運営、町の新聞「のがみタイムズ」も発行している。