ちゅうちゅう吸って食べられる。ほかでは買えないパッションフルーツ

部屋に置いておくだけで甘酸っぱい香りが立ち込める、パッションフルーツ。沖縄で盛んに栽培され、沖縄の夏を代表する果物の1つですが、オリジナルの品種の培養にこだわり、メディアでも度々取り上げられている農園があります。今回は、野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級など食に関する資格を持つ津波真澄さんが、特別なパッションフルーツを紹介します。

メインは黄色いパッションフルーツ

パッションフルーツ3個

 パッションフルーツといえば、赤い果皮のものが一般的ですが、今回お邪魔した「トロピカルファームちゅらび」の主な品種は黄色とオレンジ色。そしていずれも、園主の城間正守さんが独自に培養したオリジナル品種で、誰も同じものを作ることはできません。

 現在開発している品種は7種類。そのうち品種登録を完了して販売しているのは3種類で、写真右から、ひときわ大きな「オボ・ドロ・ミラクル」、皮が柔らかい「ちゅうちゅう」、そしてコロンと丸い「ちゅらみやらび」です。

約5年かけてオリジナル品種が誕生

パッションフルーツ カット

 食べ比べてみると、それぞれ酸度や糖度が異なり、甲乙つけ難いのですが、中でも興味深かったのが、ソフトタッチという品種の「ちゅうちゅう」。栽培の元になったものはボリビア原産の小さい果実のもので、大きな実をつけるようになるまでに5年かかったそうです。

 写真では、撮影のためにナイフでカットしましたが、皮が柔らかく、果肉もたっぷり入っているため、上部を手でちぎって、そのまま「ちゅうちゅう」と吸って食べるのがおすすめだとか。私もやってみましたが、パッションフルーツを吸いながら食べるという新しい経験に心が躍りました。柔らかい果実なので、丸ごと冷凍も可能。暑い時季に最適な天然100%のシャーベットになります。

「パッション」は「情熱」ではなく「キリストの受難」

花

 パッションフルーツを育てているビニールハウスにお邪魔しました。ビニールハウスで栽培するのは、温度管理ではなく雨よけのためです。入ってすぐに目に飛び込んできたのが、パッションフルーツの花。じっくり観察すると、3つの雌しべが時計盤の長針、短針、秒針のように見えます。その形状から、パッションフルーツはトケイソウ科の仲間だとわかります。

 実際、パッションフルーツの和名はクダモノトケイソウ。ちなみに英語名のパッションは、「情熱」という意味ではなく、「キリストの受難」を意味します。花が咲き、受粉したら約60日で収穫の時期を迎えます。

傷防止のために1つ1つ袋がけ

袋

 パッションフルーツの収穫は、枝から摘み取るのではなく、自然にぽたりと落ちた実を拾います。樹上完熟だからこそ得られる芳醇で甘酸っぱい果肉。しかも午前中には落下せず、午後2時ごろから落ちると聞き、その日の太陽を存分に受けてから親元を離れるのだなと、自然の摂理に妙に納得しました。そして、自然落下に備え、熟し始めた実には1つ1つ丁寧に袋がけをしていきます。これは、落下の衝撃で傷がつき、そこから雑菌が入ってしまうことを避けるためだそうです。気の遠くなるような作業に感服します。

化学肥料は使わず栄養分はヤギのフン

肥料

 農園を見学していると、どこからともなく、ヤギの鳴き声が聞こえてきます。沖縄らしいなと、あまり気に留めていなかったのですが、化学肥料を使いたくないので、すべての果樹にヤギのフンを使っていると説明を受け、肥料のために飼っているのだとわかりました。コロコロとしたヤギのフンはまったく異臭がなく、道端に置いてあっても言われるまで気づきませんでした。地球や人に優しい肥料が、城間さんのつくるフルーツのおいしさの理由の1つです。

何年もかけて交配、理想の果物をつくる

城間さん

 城間さんは、パッションフルーツだけでなく、ほかにもバナナやドラゴンフルーツも栽培しており、いずれもオリジナルの品種。だれにもまねできない独自のものにこだわり、何年もかけて交配を繰り返し、理想のものができあがったら販売を開始するのですが、精魂込めてつくりあげたフルーツを自分で味見するのは怖いと言います。

 理由は、もしもおいしくなかったらがっかりするから。だから絶対に嫌なのだそう。代わりに妻が審査官を務めます。「妻の味覚を信じているから任せている。彼女がおいしいと言ったら合格。ダメだと言ったらつくり直すだけ」と笑顔で語る城間さんの言葉を聞き、妻は「でも、ダメ出ししたら、ものすごく落ち込むんですよ」と笑って返します。そのやり取りに、ご夫婦で楽しみながら苦労を共有しているのだと感じました。

特別なフルーツは通信販売でも入手可能

パッションフルーツ箱

 城間さんの特別なパッションフルーツは、通信販売でも購入可能です。ツヤツヤの黄色いパッションフルーツ「ちゅらみやらび」は「こだわり農家」から。その他のフルーツは直接トロピカルファームちゅらびにお問合せください。

<取材協力>
農園名 トロピカルファームちゅらび
住所 沖縄県南城市大里稲嶺2423-1
電話 098-946-8346

<取材・文> 津波真澄

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞