障害者が神楽の衣装を手づくり。1着300万円のものも

 古くから伝統的な石見神楽が盛んな島根県浜田市。市内には50以上の社中(神楽団)があり、年間500回もの公演が行われています。使用される衣装には緻密な刺繍が施され、高価なものは1着300万円もするそう。そんな神楽の衣装を、障害をもつ人たちが後継者となって制作する仕組みがつくられています。

浜田市では神楽の伝統衣装を障害をもつ人たちが伝承しています

羽織
手の込んだ刺繍の施された衣装

 文化庁の日本遺産にも認定されている石見神楽は、現在も多くの市民が参加し、積極的な活動が行われている伝統芸能。伝統芸能と聞くと、普通は地域のお年寄りが細々と受け継いでいるものをイメージしがちですが、石見神楽には多くの若者たちが参加しています。

「神楽は若い人じゃないとダメ。動きが激しくて体力が必要ですから」と地元の人がいうように、若い人たちが激しく舞う姿は迫力満点です。

 浜田での神楽人気は高く、小学生から社会人まで老若男女が参加して、定期的な公演会だけでなくさまざまなイベントや結婚式でも演じられるそう。

舞台
大がかりな舞台道具を使った石見神楽

 石見神楽の特徴のひとつは豪華で緻密な装飾が施された舞台衣装。さらに、和紙でつくった面や和紙と竹でつくった大蛇などの舞台道具も欠かせません。

 しかし、近年、こうした神楽で使用する衣装や道具のつくり手が高齢化、後継者もなく技術の伝承が危ぶまれていました。

 手の込んだ刺繍を施した衣装は、家内制工業で3年ほどかけてつくられており、時間がかかりすぎて採算性が悪かったのも後継者が出にくい原因のひとつでした。

 そんななか、さまざまな人たちの努力で、障害をもつ人たちが職業として取り組めるような体制がつくられつつあります。

刺繍作業中
細やかな作業を分業して行う

ふるさと納税が障害者の活動を全国に広めてくれました

施設
ふるさと納税を通じて、この活動を知ってくれた人も多いそう

「伝統的芸能の衣装を障害者が職業としてつくっているのは、全国でもまれなケースだと思いますよ」というのは、いわみ福祉会理事の高岩綾子さん。

 高岩さんたちの施設では、障害のある人とパートさんが協力して、50人の分業体制で衣装や舞台道具をつくっています。

「以前は何年もかかっていた衣装が1年ほどで完成するので、社中の人たちにも喜ばれています。踊り手は全員アマチュアなんですが、公演のときにもらったおひねりなどをコツコツためているんです。それを、新しくて斬新なデザインの衣装を求めて、200万円でも300万円でも、競うように買ってくれますよ」

 こうした活動の支援にひと役買っているのが、ふるさと納税と高岩さんは言います。

「浜田市のふるさと納税が障害者支援に充てられていることもありますが、施設でつくった衣装や小物を返礼品として扱うことで、この活動を全国の人たちに知ってもらうことができました」。

 緻密な衣装を障害がある人たちがつくっていることに驚き、興味をもってもらうことが、励みにもなっているそう。

 浜田市の返礼品には、神楽の衣装のほかにも人形や面などが並んでいます。

 今では、よその地域のお祭りの衣装を依頼されたり、古くなった刺繍の修理を頼まれることもあるのだとか。

浜田市ブース
ふるさとチョイスアワードに出展した浜田市のブースにて

 こうした取り組みが高く評価され、「ふるさとチョイスアワード2019」の「絶やしたくない部門」優秀賞を獲得しました。

 ふるさと納税は自治体へ寄付することと同時に、地域の地道な活動を世の中に知ってもらうことにも役だっているのです。

 寄付先は返礼品目当てだけでなく、地域への貢献度合いでも選べます。こうした視点から自治体を見てみると、この制度の違った一面が見えてくるかもしれません。

<取材・文/カラふる編集部>

カラふる×ふるさとチョイス