販路を失い倒産の危機に。無添加・無塩のだしで復活した長崎の食品会社

和食はもちろん、洋食や中華の隠し味として料理に欠かせない、だし。おさかなコーディネータのながさき一生さんが、無添加・無塩にこだわる長崎県のだしメーカーを取材。若い世代に届けるための挑戦をレポートします。

焼アゴの香りがただよう、のどかな平戸市

材料になるアゴ(トビウオ)
だしパックの材料になるアゴ(トビウオ)

 長崎県の北西部に位置する平戸市は、大小40の島々で構成されています。北は玄界灘、西は東シナ海の豊かな漁場が広がり、だしの原料となる良質なイリコ(カタクチイワシ)やアゴ(トビウオ)も漁獲。とくにトビウオ漁が最盛期を迎える9月末~10月末は、町のあちこちで焼きアゴづくりが行われています。この時季は、1匹ずつ串に刺し備長炭でこげないよう丁寧に仕上げた焼アゴのいいにおいが、町じゅうに漂います。

無添加・無塩のだしパックをつくる長田食品

素材のうま味がつまっただし
素材のうま味がつまっただし

 そんな平戸市には、だしパックをつくるメーカーも数多くあります。そのひとつが、1991年創業の長田食品(ながたしょくひん)。地元に水揚げされる新鮮なカタクチイワシやトビウオを使い、「無添加」さらには「無塩」にもこだわっただしパックを製造しています。

離乳食向けのだしパック
離乳食向けのだしパックも

 だしは和食に欠かせない食材。長田食品のだしパックは、「赤ちゃんからお年寄りまで安心・安全に食べられるだしを提供したい」との思いから生まれました。そのため食品添加物や化学調味料はいっさい使用していません。また、長田食品の長田香奈子(ながた かなこ)さんは、「世の中にはたくさんの種類のだしパックが販売されていますが、無塩のものは少ない」と話します。塩分をひかえている人や離乳食でも使えるのはもちろん、無塩だからこそ味わえる素材本来の味を大切にしています。

 だしパックは、いりこやアゴを100%使用した商品だけでなく、独自に買いつける北海道産のコンブや枕崎産のカツオ節、さらにはシイタケをブレンドさせた複合だしもあり、「味の相乗効果でうま味が増すんです」と長田さんは話します。そんな長田食品のだしパックは元々評価が高く、かつて日本全国に店舗があった食料スーパーマーケット「サティ」(現在はイオンに統合)のプライベート・ブランド商品としても採用されていたほど。

販売先のスーパーが統合され、経営危機に

無添加・無塩
無添加・無塩がこだわり

 1990~2000年代にかけては、商品の8~9割をサティに卸していたといいます。しかし、2011年にイオングループがサティの運営会社マイカルを吸収合併したのを機に、大きな販売先を失ってしまうことに。

「このままでは倒産してしまう」と、長田さんは会社を存続させるため、営業活動を開始。しかし、長田さんにとって初めての営業で売り方も分からず、取引が成立しない日々が続いたと言います。それでも毎日諦めずに、足が棒になるまで駆け回り営業を続けた長田さんは「当時は、いちばんつらい時期だった」としみじみ。

 はじめのうちは苦しかった営業も、回数を重ねるごとにコツをつかんでいき、徐々に販売先が広がることに。そんななか、百貨店の催事に出店すると「無添加・無塩のだしを探していた!」と、お客さんに直接声をかけられたそう。そんな出来事に「うれしさを感じるとともに、無添加・無塩の強みを再確認しました」と長田さん。

若い世代にも無添加・無縁のだしを届けたい

長田食品
長田食品の皆さん

 さらに今後について長田さんに伺ってみると「無添加・無塩のだしパックを求めている人々は全国に広くいるはずで、そんな方に1人でも多く、長田食品のだしパックを届けたい」と話します。長田食品のだしパックは年配のリピーターが多い一方、若い世代への認知が低いことが現在課題となっているため、昨年からインスタグラムを通じた情報発信も開始。「こだわりのだしパックをお探しの方とつながってよろこばせたい」と話すように、挑戦はこれからも続きます。
 こだわりのだしが、求めている人に届くよう、応援いただけたらうれしいです。

<写真・長田食品 文・ながさき一生>

株式会社さかなプロダクション 代表取締役 おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」を主宰。テレビ、雑誌、webメディアなどで魚や水産の魅力を伝えているほか、多数のイベント・商品プロデュースなどを手がけている。