おいしいビールとパンが人気。湘南のノスタルジーあふれる酒蔵「熊沢酒造」

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第40回:高柳美枝子アナ]―

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回はリポーター、局アナを経て現在はフリーランスとして活躍する高柳美枝子アナが、神奈川県茅ケ崎市の「湘南唯一の酒蔵」を紹介します。

森で誕生した湘南ビール

ビールで乾杯!

 茅ケ崎に引っ越してから半年、美しい自然と小都会が共存する生活にも慣れてきました。せっかく海街の住人になったので、今年から毎朝1kmだけ(笑)海辺をジョギングしています。とはいえ冬に湘南を訪れるなら、寒い海辺よりも今回ご紹介する、森の中で6代目まで続いている「湘南唯一の酒蔵」に行くのがおすすめです! すでに友人4人を連れて行きましたが、みんな大満足。

いろいろな商品

 まずはこの酒蔵名物「湘南ビール」で乾杯しましょう。冬のビールもなかなかいいものです。このビール、泡のキメが細かく、普段あまりビールを飲まない私でもすんなり口に入っていきました。ほかにも「大磯」や「江の島ビール」など、有名な湘南ご当地ビールはすべてここ、熊沢酒造でつくられています。もともと日本酒の酒蔵で、「天青」という地酒の生誕地でもあります。

酒蔵入り口

 茅ヶ崎とはいえ、海から離れた森の中。シンと静まり返った敷地内は、どこを切り取っても絵になり、時空を超えたノスタルジーであふれています。ここにいると欧米を旅行している錯覚におちいるのはなぜでしょう? なんかこう……映画に出てくる中世の世界観というような。一眼レフで園内を写真に収める方も多くいました。

 湘南ビールをはじめとする、さまざまなご当地ビールが、このファンタジー感あふれるドアの向こうで醸造されています。ここにいると、ビール酵母の香ばしい香りがふんわりと伝わり、ビール党の方なら気分が高揚すること間違いなしです。

廃業寸前の蔵を救った若き湘南民たち

若き蔵人さんなど

 酒蔵のわりには欧米風ですし、ユニークなビールや日本酒をつくったり、ビール酵母の香り高いパンを売ったり、なんだか不思議……。せっかくなので蔵人さんに質問してみることに。

「それはですね、日本酒を造っていた5代目の時代に廃業話が出たため、海外留学中の6代目が帰国し、欧米で得たセンスを生かして蔵のコンセプトを再建したからなんですよ」

 なるほど! だからここは日本の蔵らしい雰囲気とは少し違うのですね。6代目が舵取りしてからは、おいしい日本酒を造ることばかりではなく、湘南をアピールした商品開発に励み、起死回生を狙うようになったとのこと。だからこそご当地ビールがいくつも誕生し、より多くの老若男女の心を掴めたのでしょう。

 敷地内でビールを造る際の酵母を利用し、パンをつくるというのもご当地ビール醸造所らしい発想です。ちなみに私が仕事で行き来するドイツでも、ビール醸造所では酵母パンも一緒につくるのが定番。そのことをお話しすると……
「6代目はドイツのビール名人のもとで本格修行しましたから、ドイツでの知見が経営に生かされているとは思いますね」
 なるほど!

地酒は防空壕で熟成

防空壕

 エモーショナルに訴える仕かけは、ほかにも見られます。たとえば敷地の奥に進むと見えてくる、こちらの貯蔵庫。じつは、元「防空壕」だそうです。ちょっとビックリですよね。入り口に扉をつけたとはいえ、背後にある小さな山の斜面を掘ってつくった、れっきとした防空壕です。

 安定した低温が保たれる防空壕の利点を生かし、そのまま貯蔵庫として利用してしまう斬新さ。樽に詰められた酒はここで1年間ほど貯蔵され、その後は湘南地酒「天青」として誕生します。

 評判を聞きつけた大手飲料メーカーが共同開発を提案しましたが、6代目は「地域色を大切にしたいから」と、どれも断ったといいます。もし5代目の時代にそのまま廃業していたら、湘南に酒蔵はひとつも残らなかったことになります。地域色にこだわった6代目の強い意志と、同じく地元愛が強い若き蔵人や醸造家達が、この場所の世界観を確立していったのです。

 地域の産業を、地域の純度を高く保ちながら、新時代にも受け入れられるように再生させた工夫。湘南の森に潜むラスト蔵元は、明光風靡なビーチにも勝るとも劣らない魅力にあふれています。

<取材・文/高柳美枝子(地方創生女子アナ47)>

高柳美枝子
山梨県出身。ブルームバーグTVリポーターを経てテレビ宮崎アナウンサー。フリー転身後は、英語と経済の知識を生かし、東京MXやテレビ朝日等に出演。現在日本とドイツの二重生活。日本ではミスコンテスト出場者向けに日本語と英語のスピーチを指導、ドイツでは著作権に関する法務に就く。

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第40回:高柳美枝子アナ]―