神戸の農村病院を里づくりの拠点に。レトロな食堂や駄菓子屋が人気

兵庫県神戸市北部に位置する淡河町には、古くから宿場町として栄え貴重な文化財が数多く残る一方、豊かな自然が残されています。そんな淡河町にある、築65年の病院をリニューアルしたノスタルジックな複合施設をご紹介します。

駅のない里山の廃病院を里づくりの拠点施設に

ヌフ松森医院と本院棟
左:リニューアルした「ヌフ松森医院」/右:改装中の本院棟・母屋

 鉄道路線もなく、昭和の農村地区の原風景が守られている神戸市北区淡河町。神戸電鉄三田線岡場駅から車で20分程のところに今回ご紹介する「ヌフ松森医院」があります。
 江戸時代から丹波篠山の御典医を務めた松森家が明治維新により上淡河野瀬に移住し、1874年に開業した「松森医院」。以来、地域の医療拠点として人々の健康を支えてきました。
ところが、4代目院長を務める予定だった医師が若くして亡くなり松森医院は閉院。そのまま38年間空き家となっていました。

随所に当時の面影が残る本医院棟

本医院棟1階応接室
本医院棟1階の応接室

 450坪の敷地内には、1928年に建設された本医院棟(昭和38年に居住部分を増築)、蔵、若夫婦が暮らした比較的新しいコンクリートの建物が中庭を囲むように建てられ、本医院棟と公道の間には1958年に建てられた新医院棟があります。

松森医院の本院棟・母屋内部
松森医院の本院棟・母屋内部 元々は診察室だった

 本医院棟の1階は松材、2階はヒノキ材でつくられており、建設時の総工費は現在の価格で推定2億円程。令和2(2020)年から少しずつ修復工事が進められており、1階の診察室はたった1枚残された当時の写真を手がかりに再現する予定だとか。

フランス語で“新品の”という意味の「ヌフ松森医院」

ヌフ松森医院の表札
ヌフ松森医院の表札

 今回ご紹介するのは、2021年に新医院棟を「野瀬、里づくり拠点施設」としてリニューアルした「ヌフ松森医院」です。
 ヌフ(neuf)はフランス語で「新しい」を意味します。38年間空き家だった病院を再生し、あえてneufをつけた背景には、今までにない「まったく新しい」地域活動の拠点にしたいという思いが込められています。

1階は大人も子どもも楽しめる地域交流の場

淡河デパート食堂
カセットテエプや新松森商店で購入したものは淡河デパート食堂で食べることができる

 1階は地域交流の場。随所にブラウン管テレビやタイプライターやレコード、現在とはデザインの違うクレパスなどが配置され、昭和を知る世代には懐かしく、知らない世代には新鮮さに心躍る空間です。

淡河デパート食堂の入口
淡河デパート食堂の入口には診察室の文字

「ヌフ松森医院」に入ってすぐ右手の「淡河デパート食堂」は、元々の診療室と薬局を1部屋にした広いフリースペース。
 看板女将のアイコさんがクリームソーダやナポリタンをつくってくれる「カセットテエプ」や「メリーのコッペパン」で注文したものを食べることもできます。この日も地元の女性たちが談笑する姿が。

新松森商店
たくさん買っても300円 大人も子どもも楽しい

 そのほか、放課後の子どもたちに大人気の駄菓子屋「新松森商店」やフレンチレトロがコンセプトのパン屋「メリーのコッペパン」があります。大人から子どもまで、楽しいから自然と集まり地域の人々の交流が生まれます。

キッチン
淡河デパート食堂の奥は元分娩室とオペ室

 ゆくゆくはお試し移住体験者においしい朝ご飯を提供する構想もありますが、今は飲食物の提供は1階の「カセットテエプ」、「メリーのコッペパン」、「新松森商店」で10時~16時の間のみ。

移住お試し住居も併設

お試し住居の居室
元病室とは思えない快適な部屋

「ヌフ松森医院」ではお試し移住をすることもできます。病室だった部屋を明るくリノベーションした2階に1部屋と、1階にも1部屋。部屋の窓の外には長年守られてきたのどかな里山の景色が広がります。

共用のキッチン
共用のキッチン 冷蔵庫や洗濯機もある

 共用のキッチンと浴室、冷蔵庫、洗濯機、洗濯物や布団を干すための広いテラスもあります。ヌフ松森医院にお試し移住する人は約半数が1か月程の長期滞在。1階が地域の交流の場として機能していることもあり、淡河町の人々の暮らしや文化をじっくりと感じることもできます。

「まずは地域を五感で感じてみよう」くらいのまっさらな気持ちでお試ししてみるのにおすすめな施設です。

ヌフ松森医院
神戸市北区淡河町野瀬492
「淡河デパート食堂」「カセットテエプ」「メリーのコッペ」「新松森商店」は月・火・水・祝は休み/営業時間10:00~16:00

取材・文/カラふる編集部 写真/山本博克