伝統工芸の職人が大集結。沖縄県大宜味村の展示即売会「いぎみてぃぐま」

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第49回:池田麻里子アナ]―

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は沖縄に移住した池田麻里子アナが、北部の大宜味村(おおぎみそん)で行われる職人の展示即売会「いぎみてぃぐま」についてレポートします。

年に一度、職人が集結する展示即売会「いぎみてぃぐま」

「いぎみてぃぐま」会長の山上學さんの工房・ギャラリーにて

「いぎみてぃぐま」とはそもそもなんでしょうか? 最初に耳にしたとき、日常で使う言葉がひとつも使われていない響きに、一体なんだ? と思いました。舌をかみそうになるような…。答えは「いぎみ」=「大宜味」、「てぃ(手)ぐま」=「匠の技をもつ人・手先が器用な人・職人」という沖縄の言葉なんだそうです。つまり、大宜味村の職人、大宜味村で匠の技をもつ人、という意味です。

 どの地域にも、その土地に根ざした伝統工芸を扱う匠の技をもつ職人がいますよね。沖縄にも「やちむん(焼き物)」や「紅型(びんがた・琉球染物)」、「芭蕉布(ばしょうふ・織物)」をはじめ、琉球藍での染物や、サバニと呼ばれる木の船など、あげればキリがないほど、じつにさまざまな伝統工芸品と呼ばれるものが各所に存在します。

「いぎみてぃぐま」会場となった大宜味村農村環境改善センター

 そして、どういうわけかそれら匠の技をもつ職人は、沖縄北部の大宜味村に多く集まってくるようです。毎年、大宜味村で開催されている「いぎみてぃぐま」は大宜味村の職人が集結した伝統工芸品の展示即売会で、今年20回目を迎えました。

 テーマを「過去・現在・未来」とし、訪れてみると意外や意外、伝統工芸品に新しい匠の技の仲間入りとでもいいましょうか。古きも今も、よきものは今後も受け継いでいこうという思いと、沖縄と諸外国が混在した多様性を感じる展示即売会となっており、食の販売からワークショップまで楽しめる内容でした。筆者もとあるワークショップに参加して人生初の体験をし、大満足のお気に入りができましたので、それも含めてレポートします。

大宜味が誇る伝統「芭蕉布」の着物試着

芭蕉布の着物を着る筆者

 なんと言っても大宜味が誇る伝統工芸と言えば「芭蕉布」です。大宜味村のなかでも喜如嘉(きじょか)という地域を中心に、12~13世紀の頃から織られていたとされ、琉球王朝時代には献上品として徳川幕府や中国などの国外にも輸出されていたんだとか。薄くて軽くて風通しのいい生地の芭蕉布は、沖縄の気候に合っていたのでしょう。庶民の普段着から晴れ着など王族までもが身にまとう衣服の生地として幅広く使用されてきました。

 しかし、今ではこの伝統工芸技術を受け継ぐ職人さんが10人にも満たない状態です。2022年には芭蕉布の復興と継承に人生を捧げた人間国宝、芭蕉布職人の平良敏子さんが101歳で亡くなり、今後の芭蕉布の未来が後継者たちに委ねられました。

 芭蕉布はバナナの木(実芭蕉)の仲間の糸芭蕉の繊維を職人が1本1本、手作業でつなぎ、紡いでつくり上げていきます。糸芭蕉の栽培から生地の仕上げまで、すべての工程を地元で手作業で行うという、非常に希少な伝統工芸品です。

 その工程は気が遠くなる作業です。まずは糸芭蕉の栽培。糸の元になる繊維が採取可能な状態になるまで、手間暇かけて3年かかります。そのうえ1本の糸芭蕉から取れる繊維の量はたった20gほど。1反の布を織るためには200本の糸芭蕉が必要なので、この時点で私なら気が遠くなってギブアップしたくなります。

 ところがまだまだ序の口。さらに白目をむきたくなるような作業が待っています。糸芭蕉を煮て、皮をさいて竹ばさみでしごいて不純物を取り除き、繊維からできた糸によりをかけたり、色つけのために染めたり、同じ太さの繊維を手作業で結んで長い糸にしていきます。
 最後の糸にしていく工程がもっとも時間がかかるそうです。およそ2か月かけて1反が織り上がるそうですが、織りは工程のほんの1%ほどだそうで、ほとんどの時間は糸づくりにかかっているのだとか。

「いぎみてぃぐま」では、そんな貴重な芭蕉布を使ってできた着物を試着できるということで、私も羽織らせていただきました。糸を紡ぐ職人さんの思いや、琉球の歴史の重みが、とっても軽やかな着物とは裏腹に、ずっしりと私の肩や背中にのしかかかっているようでした。

会長はやんばるの自然を立体で表現する陶芸家

山上學会長と作品たち

 はじめてその作品を目にしたとき、「これはなんだ…遺跡か、ジブリか、珊瑚礁か…だれがこんな作品を生み出しているんだ⁉ なんとしても会いたい‼」と冗談抜きで感動に打ち震えました。沖縄の、やんばるの海の中、山の中、動植物たちが脈々と自然のなかで力強く生きる様子を、立体的な陶芸作品として生み出されている方が、今回の「いぎみてぃぐま」の会長で陶芸家の山上學さんです。

 山上さんは、大宜味村の山間に「蛍窯」(じんじんよう)という工房とギャラリー「TATI」を構えていらっしゃいます。じつは筆者、はじめて作品を目にした日の夜に、山上さんと知人経由で連絡先がつながっていたことがわかり、びっくりしたということがありました。その後は工房にお邪魔したり、作品を購入したりと交流が続いています。

 山上さんは「いろいろな物づくり職人が集まる大宜味で、職人が一堂に会する『いぎみてぃぐま』をぜひファミリーで楽しんでほしい」とおっしゃっていました。
 展示即売会ではお値打ち品が出ていたり、ワークショップや食でも楽しめるのはもちろん、開催会場の喜如嘉(きじょか)という地域には見ごたえあるスポットがたくさん。芭蕉布の工房、芭蕉布の歴史を知ることができる芭蕉布会館、各種工房を構える喜如嘉翔(旧喜如嘉小学校)、その道中では見ごろを迎えたオクラレルカ(菖蒲)の花が畑を賑わせます。ぜひあちこちをお散歩がてら巡ってほしいということでした。

タイから持ち込んだハンモックづくりのワークショップ

ハンモックをつくる筆者

 出展されたワークショップでは、シークワーサーの木を使ったマイ箸づくりや、紅型染めグッズづくり、コマや木製ペンづくりなどが並びましたが、筆者の目をひと際引いたのは、今回初出展されたハンモックづくりのワークショップです。もともと興味もあったので、夫と体験してきました。

 ハンモックブランド「方舟」代表の中島一臣さんの指導で、まずはハンモックをつくるためのひも選びから。軸になるひもと編んでいくひも2種類が基本です。同じ色でもいいのですが、初心者にはどこを編んでいるかわかりやすいように2色以上がおすすめとのこと。筆者は4色選び、半分まで編んだら次の2色にチェンジして、4色のハンモックを目指しました。

 中島さんは2021年から沖縄発のハンモックブランドとして「方舟」を展開しています。かつて中島さんが世界を旅していたときに出会ったタイの山岳地帯のムラブリ族という少数民族がつくっていたハンモックの乗り心地があまりに素晴らしく、沖縄に持ち帰ったとのこと。ただ、それだけではなく、文明社会に足を踏み入れたムラブリ族の収入になるようにと、ハンモックを商品としてプロデュースもされたのだとか。

 2021年以前は、ムラブリ族からハンモックを買いつけての販売だったそうですが、コロナ禍で渡航が難しくなり、以前よりムラブリ族からつくり方を教えてもらっていたハンモックを、自らつくって販売するようになったのだそうです。

 ワークショップでは1時間半ほどでハンモックの座面が出でき上がり、中島さんが仕上げをしてくださいます。なんだかメルヘンでカラフルなものが完成! 森の木に吊るしブランコとして早速、使用しています。綿素材のしっかりとしたひもでできたハンモックは、本当に乗り心地抜群です。

古きを受け継ぎ新しきを取り入れる、てぃぐま文化

大宜味村喜如嘉地域

 22工房の作品展示販売と5店舗による大宜味の食材を使った食の出展、6工房によるワークショップの開催に加えて、20年を振り返る展示や芭蕉布の着物羽織体験など、盛りだくさんで開催された第20回「いぎみてぃぐま」。
 まだまだお伝えしきれていないものも多いのですが、テーマが「過去・現在・未来」で、琉球時代からの芭蕉布や伝統のやちむんなど根ざしてきた文化に加えて、6工房もの初参加があり、海外から入ってきたハンモックづくりまで、大宜味のてぃぐまはこれからも、古き伝統を受け継ぎながら新しいよきもの、おもしろいものを快く受け入れ、独自の文化を築きながら未来へ突き進んでいくのだろうと感じました。

 過去と現在、そして未来が見事に調和した姿を見せてくれた「いぎみてぃぐま」。沖縄県北部やんばるの地にある大宜味村を訪れた際は、あちらこちらの工房で日々、ワークショップを開催していますので、スケジュールを確認のうえ、ぜひ参加していただきたいです。作家さんと直接お話することや、おいしい食文化を堪能することも可能です。大自然に抱かれた地で、ぜひ古きから新しきまでよき文化が融合する感覚に触れてみてください。

<取材・文・撮影/池田麻里子>

池田麻里子さん
東京・埼玉・宮崎・沖縄を担当。テレビ宮崎の「スーパーニュース」でスポーツキャスターを務め、J:COMデイリーニュース担当、ネットニュースなどにも出演。現在はFMやんばるにてパーソナリティーを務める傍、話し方・見せ方・聴き方などのコミュニケーション力向上の講座を開き、講師も務めている。

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第49回:池田麻里子]―

地方創生女子アナ47
47都道府県の地方局出身女子アナウンサーの団体。現在100名以上が登録し、女子アナの特徴を生かした取材力と、個性あふれるさまざまな角度から地方の魅力を全国にPRしている。地方創生女子アナ47公式サイト