池の水を抜いてきれいに。さいたま市氷川神社をホタルの名所にする試み

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第57回:池田麻里子アナ(埼玉県)]―

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は池田麻里子アナの地元、埼玉県さいたま市にある武蔵一宮氷川神社でのホタル自生復活への取り組みをレポートします。

かつてのホタルの名所を再び取り戻す

巫女が蛍を放っているところ

 埼玉県さいたま市には2500年の歴史をもつ武蔵一宮氷川神社が鎮座し、毎夏「ほたる観賞会」が開催されます。筆者は今年も帰省に合わせて参加しました。

 夏の夜、蒸し暑さも一時忘れるようなやさしい光を放つホタルを眺めるというのは風情があります。この観賞会はそれだけでなく、じつはホタルの自生復活を目指すという別の顔ももっているのです。

 かつて武蔵国と呼ばれていたこの地域は日本有数の素晴らしい湧水地でした。氷川神社には周辺に広がる田んぼの水源もあり、自生するホタルが神社周辺を飛び交っていたそう。武蔵野の大地が肥沃で豊かな住みよい場所ということで、東京から別荘地や避暑地代わりに文豪が執筆場所としてこぞって訪れたといいます。

 明治時代からは皇室へホタルを献上するほどのホタルの一大名所でしたが、最盛期は昭和20年頃。その後は戦後の都市開発で神社内の神池の水質が悪化、ホタルはどんどん姿を消し、やがてすっかり見なくなってしまいました。

 時は過ぎ2018年、氷川神社の神職や地元の有志が「子どもたちにかつてホタルがいたことを知ってほしい」という思いで「氷川ほたるの会」を発足します。そうして、ホタルの自生復活へ向けた活動が始まったのです。

汚れた池の水を全部抜いてきれいに

氷川ほたるの会のメンバーたちと、氷川神社本殿裏のホタル池前にて

 ホタルが自生するためには、きれいな水が必要です。きれいな水がなければホタルのエサとなるカワニナという貝も生息できないので、氷川神社の神池に50年以上、蓄積したヘドロを取り除き、水質を改善するのが「氷川ほたるの会」の最初の活動となりました。

池の水全部を抜く大作戦

 筆者もほたるの会のメンバーと一緒に、幾度となくカワニナ育生のお手伝いをしたり、ヘドロ除去のために生物を捕獲して避難させたりと、胴長を装備して神池に入水しました。ちなみに神池入水前には、氷川神社本殿でご祈祷を受けます。

ヘドロ除去の様子

 ヘドロを取り除くために、まずは池の水を全部抜くわけですが、そのためには池の中に生息するコイやカメ、小エビに至るまで、生物を保護するために捕獲して一度お引っ越しさせなければなりません。

関係者や参加者で神池の生物たちを避難させるために捕獲しました

 筆者は生物捕獲のお手伝いに奔走しました。初回は2018年晩夏のこと、某テレビ番組の「池の水ぜんぶ抜く大作戦」にも取り上げられ、2018年、2021年と2回に分けての大規模なイベントとなりました。生物を避難させた後は池の水を抜き、ヘドロをなるべく除去し、半年ほどかけて池を乾燥させてから再び水を池に戻しました。

観賞会はホタルを神前に祭ってから

放生祭

 武蔵一宮氷川神社でのホタル観賞会は10年ほど前から、毎年5月末〜6月初旬にかけて開催しています。いつか氷川神社のホタルだけで開催することを目指して、かつて生息していたホタルと同じルーツのホタルを生産者から譲り受け、観賞会で放っています。2023年は6月3日、4日と開催され、1400匹ほどを観賞会用に放ちました。

巫女とあじさいと蛍

 観賞会初日には、事前に放生祭という神事を本殿前で執り行います。カゴに入ったホタルを神前に、無事に観賞会が開催されることや、ホタルが再び氷川神社で自生することへの願いを込めて巫女が舞い、皆で祈りを捧げます。そして観賞会会場へ移動し、ホタルをカゴから放ちます。

観賞会

 放生祭は関係者で行いますが、観賞会はどなたでも無料で参加できます。今年は2日間合わせて1万2000人以上が口コミだけで参加し、入場を待つ列が参道に最大数百mできるにぎわいを見せました。

子供の手の平にも蛍が

 観賞会では日が暮れるとともにホタルがやわらかな光を放ち、ゆらゆらと会場を飛び回り、ときには人を恐れることなく手のひらに乗ってきたりと楽しませてくれました。

自生ホタル復活への兆し

闇夜に飛ぶ蛍

 ホタルの自生復活を目指した活動を始めて5年以上が経過した武蔵一宮氷川神社で、2匹ほどのホタルが観察されたのは2022年のこと。2023年にはなんと10匹程度、氷川神社本殿裏のホタル池周辺で見ることができたそうです。

 いずれまた皇室に数万単位のホタルを献上するためにも、ホタル狩りの聖地として復活するためにも、ホタルの自生復活へ向けて大きな一歩を踏み出しました。このまま来年、再来年と自生するホタルの数が右肩上がりに伸びていくことを祈るばかりです。

 筆者は沖縄へ移住してから、ほたるの会の活動に参加できていないのが心苦しいですが、毎年、観賞会のタイミングでは帰省して、ホタルを見守れたらと思っています。広報活動なしで観賞会に1万人以上の人が集まったことを考えても、地元住民のホタルへの関心は高いと感じます。

 地域ぐるみで水質改善やホタルの住みやすい環境づくりに取り組めたら最高だと思います。まだまだホタルのシーズンは続きます。ホタル観賞ができる地域は都心から離れると意外とあるので、蒸し暑い夏の夜に、やさしく光を放つホタルを眺めて心を落ち着かせ、ホタルが自生できる環境について考えてみてはいかがでしょうか。

<取材・文・撮影/池田麻里子>

池田麻里子さん
東京・埼玉・宮崎・沖縄を担当。テレビ宮崎の「スーパーニュース」でスポーツキャスターを務め、J:COMデイリーニュース担当、ネットニュースなどにも出演。現在はFMやんばるにてパーソナリティーを務める。話し方・見せ方・聴き方などのコミュニケーション力向上の講座を開き、講師も務めている。

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第57回:池田麻里子]―

地方創生女子アナ47
47都道府県の地方局出身女子アナウンサーの団体。現在100名以上が登録し、女子アナの特徴を生かした取材力と、個性あふれるさまざまな角度から地方の魅力を全国にPRしている。地方創生女子アナ47公式サイト