まちの魅力を伝えたい。山形県小国町でまち歩きマップ制作スタート

山形県南西部の静かな山間にある小国町。豊かなブナの森を「白い森」として大切にしているこの町で、地元の人たちとまち歩きマップをつくろうという試みがスタート。町の見どころとともにレポートします。

町民の有志による「まち歩きマップ制作委員会」が発足

町役場で開催されたマップづくりのワークショップ
町役場の会議室でワークショップを開催

 小国町は飯豊連峰と朝日連峰が連なる豊かな自然に囲まれています。森林の80%以上を明るい広葉樹のブナの森が占め、雪の多い地域ということもあって「白い森」をまちのブランドとして育ててきました。

 2024年、「登山客や観光客、移住希望者に向けてまちの魅力を伝えるマップをつくりたい」という声にこたえて、有志による「まち歩きマップ制作委員会」が発足。メンバーには、子どもの頃から住んでいる人、地域おこし協力隊員、緑のふるさと協力隊員、結婚して町に移住した人など多彩な顔ぶれが集まりました。
 ここに観光ホスピタリティコンサルタントで、観光パンフレット研究家の石田宜久さんもアドバイザーとして参加。プロの視点を交えながら、住民主導のマップづくりがスタートしました。

アドバイザーの石田宜久さん
観光ホスピタリティコンサルタント石田さん

掲載スポットよりマップのコンセプトが大切

オンライン画面で参加した石田さんの話を聞く参加者
当日、石田さんはオンラインで参加

 6月に行われたワークショップでは、他の自治体の地図を見ながら「ここを載せたい」「こんな地図をつくりたい」と積極的な意見が飛び交いました。早速、掲載スポットの選定に入ろうとする制作委員会のメンバーに対して、石田さんは「ちょっと待って!」と呼びかけます。

「掲載する場所を決める前に、『どんな人に手に取ってもらうか?』『どんなテイストのマップにするのか?』『どこに設置する?』など、コンセプトを決めることが先決です」とのアドバイスに、一同考え込んでしまう場面も。

道の駅「白い森おぐに」の全景
新潟県境から続く国道113号沿いにある道の駅「白い森おぐに」
まちの駅があるショッピングセンター「アスモ」の外観
ショッピングセンター「アスモ」内にまちの駅を設置

 しかし、石田さんにうながされて議論を進めるうちに、「アクティブシニアに手に取ってもらいたい」「子育て世代に役立つ情報を載せたい」「道の駅とまちの駅アスモに置きたい」「かわいいイラストマップにしたい」と、マップのコンセプトがどんどん固まっていきました。
「観光パンフレットやマップは『なにを載せるか』よりも、『どんなコンセプトにするか』が大事なんです」という石田さんのワークショップはこれからも続きます。秋には撮影を行って、2025年1月にはマップを完成させる予定。早春には、新しいマップを手にまち歩きを楽しめそうです。

安産のお礼に枕を奉納する「大宮子易両神社(おおみやこやすりょう)」

大宮子易両神社の鳥居
新潟と山形を結ぶ道沿いに建つ大宮子易両神社

そんな小国町の見どころをいくつかご紹介。まずは町の北西にある大宮子易両神社。和銅5(712)年、遠江(とおとうみ)の国(現在の静岡県)から招いた大宮神社と小国町の子易神社が合祀されています。

大宮子易両神社の本殿
広い境内は豊かな緑に囲まれている

 静かな鎮守の森に囲まれたこの神社は、安産の神様として古くから親しまれてきました。ここでは、安産祈願の際に社殿に置かれた枕をひとつ持って帰り、無事に子どもが生まれたらお礼参りのときに、新しく自分でつくった枕と一緒に返納。お守りとして神様のそばに置いておく、という習わしがあります。

大宮子易両神社の和合宮
子授け、縁結びの神様をまつった和合宮

 境内には和合宮(わごうぐう)という子授け、縁結びの神様をまつった社もあり、今なお多くの参拝者を集めています。

移住者との交流スペースにもなる「カモスク」

カモスクの外観
酒蔵をリノベーションした「カモスク」

 町なかには酒蔵を活用した「カモスク」があります。ここは300年以上続く桜川酒造の酒蔵をリノベーション、酒蔵バル&飯豊山麓ワーケーションとして生まれ変わった建物です。
 室内は、木のぬくもりを生かしながらモダンなデザインを採用。食事をするのも仕事をするのも楽しくなりそうな、大きなリビングルームのような雰囲気に。

カモスクの1階内観
木材をいかしたモダンなデザインの室内

 日本酒や地元の味覚が味わえるカフェとコワーキングスペースが一体になったカモスクでは、地元の人と移住者の交流も行われています。立ち上げからかかわった村上友梨さんも福岡からの移住者で、カモスクの運営をとおしてまちの人たちとのかかわりを深くしていったそう。

カモスクで提供される料理
地域の食材を使った料理も提供

「酒蔵の仕事もカモスクのことも、いろんな作業をすべてやっていて大変(笑)。でも、やりがいがあって楽しいですよ」と話してくれました。

山と共生した歴史を学べる「おぐにふるさと文化館 百石(ひゃっこく)」

おぐにふるさと文化館百石の外観
小学校の校舎を利用した「おぐにふるさと文化館 百石」

 まちの南西に位置する百石山。そのふもとに2024年5月にオープンした「おぐにふるさと文化館 百石」は、暮らしや生業を伝える歴史民俗資料館です。2011年に閉校した伊佐領小学校の校舎を利用した館内には、町内の遺跡から出土した石器や土器、近世まで使われていた農業、狩猟、林業などの民具、町内の閉校となった各小中学校の教育資料などを展示しています。

おぐにふるさと文化館 百石の歴史資料
町の歴史とぶな文化を伝える展示物

 この地域の出来事を記した大きな歴史年表や、今も残るマタギの伝統をつたえる展示物が、懐かしい雰囲気の小学校の教室にマッチして、居心地のいい雰囲気に。

資料館のマタギの暮らしの展示物
現在まで残るマタギの暮らしが分かる展示も

 開館準備からかかわってきた地域おこし協力隊の欠端彩乃(かけはたあやの)さんは、山形からの移住者。「就任1年目から学芸員としてがんばってきたので、みなさんに見ていただけてうれしいです。地域の人たちが山と共生してきたことを学べる貴重な場所なので、ぜひ訪ねてください」とコメントしてくれました。

 美しいブナの森のなかの暮らしを体験できる小国町。緑がきれいな時季にぜひ、訪れてほしい場所です。

<撮影/星 亘 取材・文/カラふる編集部>