八重山地方ではよく使用されますが、沖縄本島ではあまり知られていないピィパーズ(島コショウ)。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級など食に関する資格をもつ津波真澄さんが、沖縄本島でピィパーズの普及活動に励む生産者を訪ねました。
琉球王国時代に伝来したピィパーズ
ピィパーズは石垣島(八重山地方)の言葉で、島コショウのこと。琉球王国時代に伝来したコショウ科の植物で、沖縄地方ではピパーチ、ピパーツ、ヒハツ、フィファチなど、さまざまな呼び名をもち、和名ではヒハツモドキ、英語ではジャワロングペッパーと呼ばれています。
細長くて小さい粒々におおわれており、八角とシナモンを合わせたような香りがします。八重山地方の八重山そば屋には、必ずといってよいほどテーブルに常備されているのですが、沖縄本島ではまだまだ知名度が低いのが現状。そんなピィパーズを沖縄本島北部と南部で栽培し、普及活動の日々を送っているピィパーズ生産者・宇根良則さんを訪ねました。
八重山地方では当たり前の香辛料を沖縄本島でも
最初に訪ねたのは、沖縄本島北部・本部(もとぶ)町にある「本部りーじ農園」。農園に一歩足を踏み入れると、早速ピィパーズの香りに包まれます。宇根さんは、自然豊かな環境で、農薬を使うことなくピィパーズ栽培をされています。現在は那覇市在住ですが、高校まで過ごしたこの土地でピィパーズ専門農場を経営。
以前、沖縄県経済農業協同組合連合会の八重山支所に配属された宇根さん。那覇に帰任後、市内で新古住宅を購入すると、以前の所有者が偶然八重山出身で、家屋の裏にピィパーズが植栽されていたそうです。しかし当時は現役で働いていたため、利活用することはなくそのまま放置。ですが、今では自慢のピィパーズ屋敷になるほど、家屋や垣根をおおっています。
また八重山出身の知人が、ピィパーズの認知度向上活動を目的とした「ピィパーズを生かす会」の会長であると知り、その会に入会し積極的に普及活動に参加しました。
2017年には、野菜づくりをしていた農園をピィパーズ専門農場として生まれ変わらせ、2020年にピィパーズを生かす会の発展的解散を受け、「沖縄県ピィパーズ生産推進協議会」を立ち上げ会長に就任し、今に至ります。
一見、青々と元気に育っているように見えるピィパーズですが、昨年夏の台風被害、今年の梅雨の長雨で根腐れ、梅雨明け後の灼熱で立ち枯れと天候との闘いです。宇根さんは農園には週2日しか行けないため、「手をかけられないのでピィパーズ自身のたくましさに頼っています」。
那覇中心部にも農園を開設
次に訪れたのは、那覇市中心部にある宇根さんが自ら開墾した農園です。モノレールも垣間見られる住宅街の中に、突如現れる緑のオアシス「まきしピィパーズ園」。荒れ果てた敷地を有効活用して欲しいと地主から頼まれた場所だそう。沖縄本島の南部にあるためか、すでに本部りーじ農園よりも多くの実が赤く色づいていました。
こちらには週に5日通っているものの、課題は水やり。そもそも畑ではなかったので、水道がありませんでした。運よく近くに水道栓があったため契約をして、自ら考案した「点滴法」で対処しています。
農園内に設置した水タンクとホースと水を利用して、栓をひねれば一気に農園全体に水やりができる方法。とはいえ独自のやり方のため、水の供給量の調整は株ごとに毎日手作業で行っているそう。大変な作業です。
ピィパーズ栽培は健康の源
畑作業は大変だけれど、もっと多くの人にピィパーズのよさを知ってほしいから続けていくという宇根さん。「昔ここに大きなシミがあったの。でもないでしょう。あくまで自分の所感だけれど、ピィパーズを毎日食べているからじゃないかと思うんです」と指さすほおを見ると、確かにシミは見当たらず。それどころか、とても喜寿を迎えた肌とは思えないほどツヤツヤです。
ピィパーズに期待できる血行促進作用や抗酸化作用を考えると、ピィパーズのおかげというのもまんざらでもないような気がします。私も毎日食べ続けてみよう!と心に決めました。
週に2日は本部町、残りの5日は那覇市の農園へ通い、剪定や水やりに汗を流す日々。健康長寿の秘訣の例として「食事」「運動」「生きがい」といわれますが、「食事=ピィパーズ」「運動=畑仕事」「生きがい=ピィパーズの普及」と、まさにそれらを日々実践している宇根さん。今はまだ大きなビジネスではないけれど、ピィパーズの世話をして健康を手に入れているのが最高の報酬だと笑みを浮かべます。
ピィパーズを手軽に食事に取り入れる
ほんのりスパイシーなピィパーズは、シナモンのようにコーヒーやココアなどに入れたり、コショウの代わりに炒めものなどに使うと、辛味だけでなく、やさしい甘い香りも楽しめたりします。みそ汁に入れるとコクが増しますよ。
粉に加工したびん入りは、道の駅許田(名護市)などで、お得なパウチパックはお取り寄せで購入可能。お茶や天ぷらにできる葉っぱや、自分で潰して使える乾燥実はファーマーズマーケットくがに市場(南風原町)で販売しています。
<取材・文>津波真澄
津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞