岡山県美星町で会員制農園「アグリゾート」がスタート。採れたて野菜をみんなでシェア

30歳を目前に「海沿いに住みたい!」「一軒家でのんびり暮らしたい!」と考え、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住した女性が日々の暮らしや岡山県の魅力をご紹介。今回は、岡山県井原市美星町(びせいちょう)で始まる新たな農業の仕組み「アグリゾート」についてレポート。

生産者と消費者がつながる会員制農園「アグリゾート」

大根などのつくった野菜を手に持ってる大人や子ども
農家と消費者がつながる会員制農園 アグリゾート

 新しい農業といえる「アグリゾート」が、新たな拠点として、2024年岡山県美星町でもスタートするべく動き出しました。

 アグリゾートは、2019年7月に福岡県北九州市で発足した農家と消費者が協力、シェアしあい農業を営む会員制農園。会員のひとりひとりが農園のオーナーで、毎月定額で農園に自由に出入りができ、好きなときに収穫ができる、いわゆるサブスクリプション型の農業。「次はこんな野菜をつくってみたい!」「料理がしやすいのはやっぱりこの品種かな」など農家さんや仲間と相談や情報交換をしながら、野菜を栽培しています。

 大きな特徴は、「ここからここが◯◯さんの畑!」という区分けがなく、畑全体を会員と農家みんなで管理し面倒を見て、育った野菜をみんなで分かち合って思いも一緒にシェアする点。また、名称の「リゾート」には、いつでも何度でも来られて、いつでも土に触れて自分をリセットできる、そんな意味が込められています。

地域おこし協力隊と一緒にアグリゾートを美星町へ

畑でしゃがんで作業をしている男性
アグリゾートの運営を行う小村泰秀さん

 いまや250世帯を超える会員数となった北九州のアグリゾート。運営を行っているのが小村泰秀さんです。小村さんがアグリゾート開設の次なる地に選んだ美星町は、岡山県の南西に位置し「日本三選星名所」にも選ばれている、その名のとおり星が美しく見える町です。そんな自然あふれるこの町と、小村さんとの出会いをうかがいました。

広々とした畑の風景
豊かな自然溢れる美星町

 きっかけは2022年に出版された『アグリゾート物語 農業がリゾートに変わる日』。会員制農園ができるまでや今後について、小村さんが執筆したこの本を読んだのが、美星町で地域おこし協力隊員として活動する農家の柏野翔さんでした。

 小村さんの活動に興味をもった柏野さんはその足でアグリゾートへ。アグリゾートの仕組みや小村さんの考えに共感し、美星町の協力隊受け入れ団体の一員として、アグリゾートの素晴らしさを関係者に力説しました。

 アグリゾートの仕組みが美星町で定着すれば、田舎での問題解決にもつながり、日本の農業全体の問題解決にもつながると確信したそうです。その後、小村さんは地域おこし協力隊員として美星町へ移住することとなります。

美星町の仲間とアグリゾートオープンに向けて始動

3人の男性がポーズをとっている
左から、小村さん、柏野さん、三嶋さん

 アグリゾート美星を支えるメンバーは3人。おもにコミュニティ運営や仕組みづくりを行う小村さんと、同じく美星町地域おこし協力隊員の三嶋太地さんはホームページやSNSなどを通して情報発信を行っています。

 そして作物を育てるのに欠かせないのが地元農家さん。興味があった柏野さんだけが手をあげ、公募のもと一緒にやっていくことが決まりました。

幼い子どもと笑顔の女性と農作業をする笑顔の男性
会員さんと共に畑作業を行う柏野さん(右)

 アグリゾートオープンまでの約1年間は、情報発信や認知拡大の活動に力を入れていったのだそう。その甲斐もあり、美星町から車で約2時間の備前市から話を聞きに来てくれる人がいたり、詳細情報を公開している公式LINEから先行予約が15~17人ほど埋まっていたりと、オープン前から楽しみにしている人がたくさん。

 会員希望者にはアグリゾートの概念、仕組み、メリットだけでなくリスクの面もしっかりシェアしているそう。

 農業を学べたり、安全な野菜を育て食べられたりだけではなく、こういったサポートがあるからこそ、利用者さんも安心して信頼できるのが、アグリゾートのもうひとつの魅力なのではないかと感じました。
 

幼い子どもが鮮やかなオレンジ色のニンジンを持っている
色鮮やかで新鮮な採れたて野菜

 実際に、北九州のアグリゾートでは生産者と消費者の信頼はもちろん、会員同士のコミュニティーも強固なのだそう。仲よくなった会員さんがミツバチの養蜂を行う「ミツバチ部」をつくったり、ハーブソルトを生産、販売する「加工部」をつくったり。

 また、敷地内には「無人直売所」があり調味料やお米など、オーガニック商品を会員さんが購入できます。購入したものを紙に書いて、お金を入れておいて。まさに信頼関係の塊! 食生活に必要なものがすべて敷地内で手に入って、まるで畑の中がひとつのまちみたい!

 一方、ときには仲違いがあったり、コミュニティだからこその難しさももちろん伴ってきます。

「人が集まるときにそこは必ず生じます。しっかりと向き合っていきますし、だれと一緒に農園を育てていくかがいちばん大切なので、美星町にはどんな人たちが集まるのかとても楽しみです。北九州アグリゾートで得た失敗や学びもここでいかしていきたいです」と小村さんは話します。

の作業で野菜の弦を結んでいる様子
農作業を行う農家と会員

 また、北九州と異なる点は立地条件。北九州は利便性のいい市街地から車で約10〜15分ほど走ると畑があり、アグリゾートの仕組みとしては好条件でした。市街地に住む会員さんが畑に定期的に訪れやすく、「自分の畑」という気持ちで継続して利用しやすいためです。

 一方、美星町は町全体が自然にあふれ、農業が生活の一部であったり、身近なものとなっています。北九州の月額や仕組みをそのまま美星町に、というのは難しく、運営側と会員さんが気持ちよく楽しくつき合っていけるところを模索していくようなことが大切です。

全国に広げ未来ある農業につなげたい

農作業の服装で老若男女が記念写真風に並んでいる

 アグリゾート美星は年内に始動予定。仮運用としてまずはモニター会員を募集します。

「地元の人にもこの仕組みについてお話しましたが、本当にうまくいくの? と疑問をもつ人が多かったんです。まずはこの地で実績をつくって、同じような仕組みを取り入れる人がどんどん増えていってほしい。農業を新たに始めたい人がこの仕組みを使ってくれたら、耕作放棄地の解消、新規就農者や人口増加につながります。その未来までつなげていきたいんです」

 そう語る小村さんからは、たくさんの人にワクワクが伝染していくような気がしました。また、美星町は観光業にも力を入れているまち。現在市役所や観光協会と話をしたり、コラボ企画なども視野に入れているのだそう。

 いつか、日中に野菜を収穫して、宿泊所で調理して食べて、夜は星を眺める、なんて日常のようで非日常なすてきな一日が美星町で実現するかもしれません。

<取材・文> mamiko

mamiko
栃木県茂木町出身。大学時代は京都で暮らした後、大阪の老舗ヴィンテージショップにて販売員に。30歳を目前に、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住。ブログやSNS等で笠岡市の情報発信をしたり、地域交流イベントを開いたりなど、さまざまな活動を行っている。