北九州市の中心部にある小倉城は2022年からの2年間で8万人、隣接する小倉城庭園は4万人、来場者が増えています。そこには個性的な取り組みがありました。その様子を小倉城庭園の館長、中川康文さんが教えてくれました。
地元民も観光客も楽しめる小倉城下エリアへ
福岡県で唯一の天守閣を持つ小倉城と、その東側に隣接する江戸時代の大名屋敷を再現した小倉城庭園は、北九州を代表する観光地。アクセスもよく、JR小倉駅から歩いて5分ほど、商店街を抜け、デパートやショッピングモールなど大きな複合施設のすぐ横に現れます。
この小倉城と小倉城庭園を、令和4(2022)年4月から私たち「一般社団法人まちはチームだ」と「九州造園」の2社が指定管理者として運営を始めました。目指しているのは、小倉城だけが来場者を増やすのではなく、「城下町小倉をエンターテイメントエリアにする」こと。2年半の間に、さまざまな新しいことを導入しています。
城下の雰囲気を観光地として盛りあげるため、音楽、和傘、行燈(あんどん)、旗、デジタルサイネージなどを設置。演劇集団「小倉城武将隊」が甲冑はじめ江戸時代を思わせる衣装をまとい、日常的に城内外で観光客とコミュニケーションをとっており、武将になりきって演じる様子が観光客に人気です。
展望のいい天守閣には、昼間は休憩できるカフェを、夜はパーティもできるバーカウンターを設けています。天守閣前の城外広場では先日、プロレスイベントを開催。藤波辰爾(たつみ)さん率いるレジェンドレスラーが来城して大変な盛りあがりを見せました。
小倉城庭園では、庭全体を見渡すことができる広縁でアフタヌーンティーを楽しめる会を開催し、チケットは即完売。展示ゾーンでは常設展のほか、北九州の強みがわかるようなコンテンツの発信を意識しています。
2024年12月15日まで開催している「現代アート展」は、館長就任当初から温めていた企画。『北九州 和の現代アート展~Five Mononoke, Japanese Zombies』と題し、北九州を代表するアーティスト石橋髙次・大庭三紀・梶岡亨・上川伸・栗原光峯の作品を並べました。
北九州小倉の伝統とアートを世界に発信
北九州市は今でこそ人口減少、高齢化などの課題に直面していますが、50年前の小倉はすごく儲かった都市でした。金もエネルギーもあふれていた。現代アート展で紹介している作家は全員60歳前後で、そのころの魂を受け継いでいるともいえます。
石橋髙次と栗原光峯の今の北九州を表現するのに適した力強い作品は、北九州市役所の市長室に飾られており、武内和久北九州市長は来客があると作品の前で写真撮影をするのが定番になっているようです。
小倉城庭園は30%くらいが海外からのお客さまで、現代アート展の会期中にも1万人くらい海外の人が来館する見込み。それは、観光でふらっと来た人に北九州のクリエイティブで衝撃を与えられる大きなチャンスともいえます。
現代アート展の次には、黄金の茶室の企画展や、刀剣の企画展などを用意しており、そのなかにも地元の、来年はもっと若いアーティストも紹介する展示を入れ込んでいきたい。エンターテイメントとして楽しんでもらいながら、小倉に残ってきた歴史や文化、そして北九州に今も残るアートやクリエイティブの流れを、国内外に発信できるのはうれしいです。
小倉は新しいことを受け入れる、多様性にあふれた町
館長として2年間、小倉という町について学ぶうち、小倉には昔から続いてきた文化はないということがわかってきました。小倉という地名が始まったのは1000年ほど前。その後、平均して50年ごとに殿様が変わっています。それは今でいう市長など行政のトップが代わるということではなく、まったく違う文化的背景をもつ侵略者に何度も攻められ、新しい文化が流入し続けたということなのです。
そして、長く続いてきた文化がないことが、逆に小倉のよいところかなと思うようになりました。まさに多様性のある都市、それが小倉の強みだと思っています。伝統とエンターテイメントの融合を目指す小倉城と小倉城庭園。多様性にあふれた北九州にはおもしろいい人がいっぱいいるので、スタッフとともに、もっともっと歴史や文化を掘り下げつつ、海外の人にも感動してもらいたいと思います。
<写真・文/中川康文>
中川康文
大手教育系出版会社系列の学習塾で教室長を務めた後、フリーランスとしてコワーキングスペース「秘密基地」を根城に、創業支援、教育、防災、まちづくり、引きこもり支援、動画撮影など幅広い仕事に携わる。現在は小倉城庭園館長を務めつつ、北九州市の観光地化に邁進している。趣味は地元古代史と地元グルメ。