北九州の大学生が営む朝ご飯屋さん。鹿児島の郷土料理「鶏飯」を提供中

北九州市立大学の学生が、ふるさと鹿児島の郷土料理を提供する朝ご飯屋さんを営業中。将来は地元で活躍したいというオーナーに話を聞きました。

鹿児島の郷土料理を朝ご飯で提供

鶏飯を持った店主

 北九州市小倉北区三萩野(みはぎの)にある朝ご飯屋「ねねんち。」は、北九州市立大学3年生の切通寧々さんが2024年4月にオープンした、地元鹿児島県の郷土料理「鶏飯(けいはん)」をメインに提供するお店。夜の営業がメインのバーを9時から14時まで間借りして営業しています。

鶏飯は鹿児島では給食にも出るほど親しまれている料理

 鶏飯は鹿児島では給食にも出るほど親しまれている料理。ご飯の上に甘く煮たシイタケ、錦糸卵、ゆでた鶏ムネ肉、パパイヤのみそ漬けをのせ、シイタケと鶏ガラを合わせただしをかけて食べるのが一般的です。具だくさんで栄養もボリュームもありながら、たっぷりの温かいだしで朝でもさらさらと食べられるやさしい味わいです。

 ねねんち。の鶏飯は、独特なクセのあるパパイヤのみそ漬けはたくあんで代用するなど、だれでも食べやすいようにアレンジしています。

名物の豚みそが具のおにぎり

 ほかのメニューも鹿児島にまつわるものばかり。さつま揚げを使ったちらしずしのような「さつまもすじ」や、鶏肉、サツマイモ、さつま揚げ、といった名産をふんだんに使った「さつま汁」、名物の豚みそが具のおにぎりなど。

鹿児島のものにこだわり

 セットメニューにつ付いてくるサラダのドレッシングや、卵かけご飯のタレまで鹿児島のものにこだわりました。

商売の経験をしたくて北九州市立大学に進学

卒業後、出水市役所への就職を希望している寧々さん

 卒業後、出水市役所への就職を希望している寧々さんが北九州市立大学を選んだのは、起業をサポートしてもらいながら単位を取れるカリキュラムがあるからでした。「学生のうちに商売の経験ができたら、商店街の人たちへの理解も深まって、より出水市の役に立てると思ったんです」

 高校生のときには学生団体の立ち上げに携わり、コロナ禍明けには有志を集めて商店街を盛り上げるお祭りを開催するなど、寧々さんは以前から地域の活動にかかわってきました。今でもクルマで3時間かけて月に2回は出水市に帰り、商店街の人々と過ごす時間が必要不可欠だといいます。

バタバタ出店準備。自分よりも周りがノリノリ。

周りの人たちに助けられてなんとかなった

 先生や友人、お店を経営する知人の手を借りて、起業の準備を始めたのが2年生の9月頃。お店のテーマは、「朝からしっかり食べて元気をチャージしてもらいたい、せっかくなら地元の鶏飯を知ってもらおう」と決めたそう。

 そして、「お店の名前とロゴ、メニュー開発や備品の用意などドタバタだったけれど、どれも周りの人たちに助けられてなんとかなった!」とのこと。

 食品衛生責任者の資格も取得して順調に見えた矢先、決まりかけていた貸店舗の話が白紙になり途方にくれました。でも、周囲に相談しているうちに今の店のオーナーから声がかかり、胸をなでおろすことに。やはり起業は一筋縄ではいかないことを痛感します。

 たくさんの協力を得て4月後半にオープン。応援してくれる人たちのおかげもあり、開店当初からしばらくは大盛況でした。多い日には計10席の店内が2回半回るほどで、一時は友達をバイトとして雇うほど。

朝が苦手で営業開始が遅れることも

朝が苦手で営業開始が遅れることも

 じつは朝が苦手な寧々さん。もともとの営業開始時間は6時でしたが、徐々に8時、9時と後ろ倒しに。遅刻してお客さんを1時間以上待たせてしまったことも。大学の授業やアルバイトもしながら、日々の仕込みにも手は抜けません。始めたからには簡単にやめられない飲食店経営の厳しさを知るうちに、オープンから数か月経った夏休み期間、逃げるように出水市へ数週間帰ってしまいます。すると当然ながら、お客さんも減ってしまったそう。

 気を取り直して再びがんばり始めましたが、1日に1人も来ない日もあり、不安になることも。自前で用意した資金も潤沢なわけではありません。

 「始める前は楽しいことしか想像していませんでした。もともとのなんとかなる精神でやってきたけど、1年限定という終わりが見えて、今は正直ほっとしています」。

とびきりの笑顔で見送ってくれた寧々さん

 悩みながらの日々でも、たくさんの人の協力でお店が成り立っているありがたさを実感したり、0から1をつくれたことは、とてもいい経験になったといいます。

 テイクアウト専門店にした方がもっと売り上げがあったかな、など思うところはあるようですが、「売り上げよりもどっちかというと鹿児島の郷土料理や魅力を知ってもらえればいいかな」と満足はしているようです。

 「無事に出水市役所の職員になれたら、もっと先の将来は、バイクのツーリング中に気軽に寄れるカフェを開くのもいいなと。そんな夢も、この経験で現実的に考えられるようになりました」。

 最後、とびきりの笑顔で見送ってくれた寧々さん。出水市に戻るまであと1年。もっとパワーアップして故郷に戻ることでしょう。

<撮影・取材・文/田村美咲>