福岡県北九州市の夫婦が「まちの保健室のような場所」をオープン。カフェと、気軽に相談できるスペースを併設しています。
体調不良をきっかけに食堂をオープン
福岡県のJR小倉駅からモノレールで4分、香春口三萩野(かわらぐちみはぎの)駅から歩いて3分の場所に「comichiかわらぐち」という通路があります。ここは、築50年近い長屋を10軒の店舗が入るように改装した建物。このうちの1軒に、大西夫妻のお店「café&bar smile room」があります。
カフェや美容鍼灸院、ヘアサロンや旅道具店など、さまざまな店が入っているcomichiのなかでも、大西夫妻の店は新しく、1階はカウンター5席、2階は8席、メインのランチタイムはチキン南蛮と豚のショウガ焼きから選ぶ、一見ごく普通の食堂です。
夫妻がお店をオープンしたのは2024年3月。店を出そうと決めたのは前年の秋。夫の勝之さんは長く飲食店チェーンの店長として全国を転々としていましたが、体調を崩してしばらく休養していました。奥さんの亜友実さんは看護師をしており、病院に勤めながらも「病気になる前にできることがあるのではないか、自分になにかできないか」と考えるようになっていたそう。
そんなとき、夫妻が気に入って通っていたcomichiの食堂が閉店することになり、その店主から「ここの店舗を使ってみたら?」と声がかかったそう。
「まちの保健室のような場所」をコンセプトに
comichiの店舗は1軒5坪とスペースが限られ、ガスも自前で設置するなど厳しい条件はありますが、その分、家賃が安く、改装のおかげで古くても清潔感はあり、最寄り駅からアクセスも良好。もともと潤沢な資金がなくてもビジネスを始めやすい場所として活用されていて、閉店する店も学生が起業に挑戦していました。
ただし店舗を借りるには、事業が建物のコンセプトにマッチするか審査があります。それに、今まで店を出すことなど考えたこともなかった夫妻は迷います。気持ちをあと押ししたのは、勝之さんの「そろそろ地元で腰を据えて仕事をしたい」という希望、そして、亜友実さんの「病気になる前にできることがあるのではないか」という思いでした。
「やるなら今しかない、comichiでならできるかもしれない」と、思いきって応募。競合をおさえてとおったその事業のコンセプトは、「健康にいい食事と、病気になる前に頼れるまちの保健室のような場所」です。
グルテンフリーのメニューと気軽に集えるスペースを提供
店名のsmileは「あなたの1日に、少しでも笑顔になれる時間を」という思いから。1階のカフェは勝之さんが担当し、2階は現在も看護師を続ける亜友実さんが不定期に保健室として使用するスタイルです。保健室として使わないときはカフェとして、またはコワーキングスペースとして貸し出すことも。近所のママが子連れでの集まりに予約することもあるそう。
「まちの保健室では、病院に行くほどではないけれど、だれかに相談したい人がふらっと寄って、お茶を飲みながら話をして、笑顔で帰っていただけるような場の提供を目指しています」と亜友実さん。
相談内容は体調のほかにもダイエットやタスク管理、夢についてまでさまざまで、できることはなんでもサポートしているそう。
勝之さんのカフェはグルテンフリーの料理が中心。ヘルシーなだけではものたりないし、健康だけでなくおいしさにもこだわりたいと、亜友実さんのアイデアも取り入れながら試作を繰り返します。「いろいろな事情で食事に制限がある方でも、日常生活の範囲で気軽に食べられるようなメニューにしたい。おいしいといわれるときがいちばんうれしいです」と勝之さん。
取材しながら、名物の揚げないチキン南蛮と定番のショウガ焼き、デザートにバナナときなこのしっとりケーキをいただきました。
チキン南蛮は米油で揚げ焼きし、みそ汁はしっかりだしからとります。野菜には店主の地元、福岡県築上町(ちくじょうまち)の「きくいも丸ごとドレッシング」を使うなどのこだわりも。ケーキは小麦粉不使用で、甘味はバナナとてんさい糖。きなこの風味が効いていました。
まちのにぎわいスポットを目指して
オープンから約一年。まだコンロは1口、仕込みも試行錯誤です。亜友実さんの保健室も途上。看護師と二足のわらじを履きつつ、ペースや方法を考えながらも、徐々にお客さんは増えているそう。
今後はマルシェなど外の出店にも力を入れ、お店の認知度を上げていき、たくさんの人に来てもらいたい、ゆくゆくはまちのにぎわいスポットとなるような場所にしたい。サッカー観戦が大好きな勝之さんは、同じ趣味でコミュニティもつくれたら、と理想を掲げます。
健康にもお客さんにも寄り添った、「まちの保健室」は、今の世の中にぴったりで必要な存在だと感じました。
<取材・文/江崎帆春>