「東京からいちばん遠い町」が「まち・ひと・しごと」でやったこと

[まち・ひと・しごとで、地方創生/第1回]

地方創生や地域活性を語るときに「まち・ひと・しごと」というキーワードがよく出てきます。仕事をつくり、人を呼び込んで、町を活性化するという考え方です。今回は、博報堂スマートx都市デザイン研究所所長の深谷信介さんに、かつて「東京からいちばん遠い町」と言われた島根県江津市を例に、この言葉を解説してもらいました。

地方創生のマジックワード「まち・ひと・しごと」って知っていますか?

波子赤瓦
石州瓦が美しい波子のまち並み

 地域を元気に。

 かけ声はいいけど、一体なにしてるの?なにをすればいいの? そんな感じ、正直ありますよね。

 はじめまして、深谷信介です。今月からカラふるに加わることになりました、よろしくお願いいたします。

 5年ほど前から、地方創生のおしごとにも関わるようになりました。もともと企業や商品・サービスのブランディングとか、新規事業開発とかイノベーションとかを生業にしていたのですが、ひょんなことからまちづくり関わるようになり、その難しさとおもしろさに魅せられてしまい、いつの間にか国から派遣されて地方自治体に入って、地域を元気にするために汗をかいている、そんな日々を送っています。

『まち・ひと・しごと』って聞いたことありますか? じつはこれ、地方創生のマジックワードなんです。
『まち←ひと←しごと』こうやって後ろからつなげて読むとよくわかります。

「しごと」を創って/もしくは磨いて
「ひと」を呼び込んで
「まち」を活性化する

『その地域ならでは』の取り組みが、そう地方創生なんです。

 100年連続で人口減少真っただなかの島根県、ちょっとびっくりですよね。そんな島根県は、今から30〜40年ほど前に「過疎」という言葉が生まれたところと言われています。少子高齢化待ったなしの課題最先端地域。あれやこれやといろいろな試行錯誤を繰り返し、うまく行ったり行かなかったり、長い時間をかけ培った経験が、最近少しずつ花開きはじめています。

「東京からいちばん遠い町」がやってきたこと

江の川から日本海を望む
日本海にそそぐ雄大な江の川(ごうのかわ)

「東京からいちばん遠い町」と教科書に紹介されたこともある島根県江津市、「えづ」でも「こうづ」でもありませんよ。「ごうつ」と読みます。

 このあいだの国会での施政方針演説で、安倍総理が紹介したまちですね、ご記憶にある方もいらしゃると思います。この江津も少子高齢化にまさに直面しているまちの1つ、そして私が初めて正面から向き合って地域創生に奔走したまちでもあります。

 製造業で栄えた「まち」がその後厳しい環境下に置かれ、ずいぶんと早くから、そう数十年前からでしょうか、移住定住促進に取り組んできました。当初は「田舎暮らし」ブームにも乗りある程度順調に移住者がきていたのですが、リーマンショック以降激変します。田舎暮らしへの想いはあっても「しごと」がなければ生活が成り立たない、移住できない。

風力発電と日本海を望む
風をチカラに、再生可能エネルギーのまち

 さあ、どうしたものか?「まち」は考えに考え、「しごと」を創る「ひと」を呼び込むビジネスプランコンテストを企画。想いをカタチにする起業から創業後の経営支援まで、しっかりと支えるスキームを地元商工会や金融機関、NPOなどで組成。他に類を見ない、とてもユニークな取り組みは徐々に成果をあげ、20以上の新たな「しごと」が生まれ雇用機会も増えていきました。
 
 地消地産のレストラン、地場産材を使った家具デザインと設計建設会社、ゲストハウス、カフェ、幼稚園、クラフトビール、お茶、お菓子、ゴボウ、パクチー、パン屋さんなどなど、若手起業家がときにタッグを組みながらイキイキと「まち・ひと・しごと」を取り組んでいて、ついに社会増(まちに移住する人がまちから移住する人より多くなる状態)に転じました。

「しごと」をしたい「ひと」を「まち」に呼び込んで全力で支え応援する、その「しごと」が大きくなって、いろんな「しごと」をしている同士が繋がって、「まち」が少しずつ元気になる。そんな持続的な地に足のついた地道な素晴らしい取り組み。「まち」が動く、まさにその瞬間に自分も立ち会うことができたのです。

まずはアンテナショップやふるさと納税から、地方創生の手助けを始めよう

甍街道
天領だった江津本町甍街道

 では、私たちがこうした「まち・ひと・しごと」で地域を活性化するお手伝いをするにはどうすればいいのでしょうか?
 まずは身近なアンテナショップや道の駅、ふるさと納税サイトなんかを見ましょう。おいしい食を通じて、その地域のくらしや文化や営みを朧げに感じられますね。そしてそのまちに興味がわいたら、その自治体のHPをのぞいてみましょう。

 地域のことを想う、想いを馳せる。あなたの知らない日本のくらしが、あなたと地域を結ぶ新しい扉が、ゆっくりそうっと優しく拓いていく。そんな音があちこちから聞こえてきそうです。

[まち・ひと・しごとで、地方創生/第1回]

<深谷 信介(ふかやしんすけ)さん>

博報堂ブランド・イノベーションデザイン副代表、スマートx都市デザイン研究所所長。メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシーなどを経て、博報堂入社。事業戦略/新商品開発/コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究/実践を行っている。富山市政策参与、鳥取県琴浦町参与(内閣府より派遣)、総務省/地域力創造アドバイザー、千葉県地方創生総合戦略策定懇談会委員、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所客員准教授、茨城大学社会連携センター顧問なども請け負う。エッセイ、日本トコトコッ(地域連載エッセイ)をまとめた書籍が発売中。