台風被害のリンゴでタルトタタン。シェフがレシピで農家を支援中

全国各地に甚大な被害をもたらした2019年の台風19号。その直後、被害を受けたリンゴを買ってもらいたい、と1人のシェフがSNSで声をあげました。それが少しずつ広がって、さまざまな人を巻き込んで、大きな取り組みへと発展しています。

被災したリンゴ農家の支援に「タルトタタン」のレシピ

 豪雨や震災など天災で被害を受けた農作物は、たとえ残ってもなかなか売りものにならず、農家にとっては大打撃です。「#CookForJapan」活動は、そんな農家を支援したいと思った1人のフレンチシェフのツイートがきっかけで始まりました。

 2019年10月、南仏カーニュのレストラン「La Table de Kamiya」のオーナーシェフ神谷隆幸さんは、twitterのタイムラインで、長野県の千曲川が台風19号の猛烈な雨により決壊したこと、とくにリンゴの産地で「アップルライン」と呼ばれる国道18号付近の浸水被害が大きかったことを知りました。タイムラインには連続して偶然、自身のお菓子教室の生徒さんが習いたてのリンゴのデザート「タルトタタン」をつくったという画像が流れてきます。そこで神谷さんが思わずツイートした内容が、すべての始まりでした。

 1万人以上のフォロワーをもつ神谷さんのこのツイートをきっかけに、レストランのシェフやパティシエ、料理研究家といった食のプロたちが続々と「#被災地農家応援レシピ」というタグをつけ、リンゴを使ったレシピを公表し始めました。さらには、「レシピは書けないけれどなにか力になりたい」とレシピのまとめページをつくる人が現れるなど、レシピ以外の被災地支援の動きも起こります。

活動の発起人、神谷隆幸さん(写真:さくらいしょうこ)

被災地のリンゴ1000kgがレシピのおかげで見事完売!

 神谷シェフのツイートを見た1人、秋元里奈さんは、自身が運営している生産者の直販サイト「食べチョク」で、浸水被害にあった農家で残ったリンゴの販売に協力していました。「リンゴは買いたいけれど、そんなにたくさん消費できない」というお客様の声をなんとかしたいと神谷シェフに連絡をとり、情報発信に協力してもらったところリンゴ1000kgが見事に完売! これを機に各農家の産品が売りきれになる活動になりました。

1000kg完売した「フルプロ農園」のリンゴ

継続した支援と災害時の活動に向けて法人化

 「被災地農家応援レシピ」は長野のリンゴ農家支援だけにとどまらず、千葉の豪雨で被害を受けた落花生や、シイタケ、大根、ニンジンなどの農作物のレシピや、ワインとのマリアージュを公開する人など、徐々に広がっていきました。神谷シェフは今後も継続した支援を続けること、災害時に動けるようにとの想いで、「#CookForJapan」を法人化します。

 メンバーは初期の段階で自主的に活動に取り組んでいたフランスの神谷シェフはじめ、東京、横浜、愛知、石川、兵庫、徳島、新潟佐渡島など、日本の全国各地から15名で構成。1月には千葉県の「葛西スペース」というキッチンつきスペースを借り、twitterに投稿されたレシピをつくるワークショップ「#被災地農家応援レシピを作る会」を開催。はじめて包丁を握るという子どもたちも参加し、1000kgが完売した「フルプロ農園」のリンゴを使って、サラダやシチューなどの料理をつくりました。

法人メンバーを中心に、食のプロ集団!(写真:さくらいしょうこ)

「フルプロ農園」が中心に進めている「長野アップルライン復興プロジェクト」のクラウドファンディングでは、リターンとして#CookForJapanメンバーがフルプロ農園のリンゴや信州プライムミートを使って日替わりで料理コラボレーションをするディナーチケットを提供。1万5千円のチケットが5時間ほどで完売となりました。購入者の9割は長野県外からだったそうです。
 
 ディナーは2月7日から3日間、長野市にあるレストラン「オステリア・ガット」で開催されました。#CookForJapanからは神谷シェフ、神谷シェフの妻でパティシエールのクレールマリさん、カステリーナグループの統括シェフ関口幸秀さん、軽井沢の「Le Bon Vivant」の梅田正克シェフ、横浜・戸塚の「Hitotsu」オーナーの野田一寿シェフが参加。さらに現地に行けないパティシエが、全国からミニャルディーズ(お茶菓子)で協力したそうです。

デザートの盛り付けをするシェフ神谷とクレールシェフ。(写真:石川雄一郎)

活動方針は「できる人ができることをできる範囲で」

 さらに今後は、レシピブックとして通年使える被災地農家応援レシピの書籍化や、ワークショップのようなイベントも継続して行なっていくとのこと。SNSでは「#被災地農家応援レシピ」「#CookForJapan」のハッシュタグをつけて投稿すると、運営サイドでリツイートやまとめを随時行い、引き続き拡散していくそうです。

 できる人ができることをできる範囲で…神谷シェフの活動方針が物語るように、ちょっとしたツイートから始まったこの活動は、大それた行動を起こさなくても、小さな力が集まれば、結果的に大きな助けになることを体現しているのではないでしょうか。#CookForJapanの活動に、今後も注目していきたいと思います。

<取材・文/さくらいしょうこ>