大型ショッピングモールの進出や後継者不足などにより、全国の多くの商店街で「シャッター街」化が進行しつつあります。地方の新しい楽しみ方を提唱するライター・大沢玲子さんが、街の賑わいを取り戻すべく関西のおかんが編み出したユニークな取り組みを紹介します。
「自転車マナーが悪い商店街」からのイメージ脱却を目指す
関西人から通称「アマ」の名で親しまれ、兵庫県にあってどこかベタな大阪モードが漂う尼崎市。特に阪神電鉄・尼崎駅前から連なるアーケード商店街は、阪神タイガース優勝を願う「日本一早いマジック点灯式」が有名ですが、近年、ユニークな競技会でも注目を集めています。
駅北西エリアに広がる三和本通商店街。ここを舞台に年1回秋、開かれる「押し!? チャリンピック」です。
その名の通り、自転車を押す競技ですが、速さを競うものではありません。頭上のヘルメットに取り付けた皿の上にピンポン玉を乗せ、落とさないよう姿勢よく自転車を押し、一定距離を制限時間に近いタイムでゴールインした人が勝ち! というもの。
ネーミングや競技ルールにも関西らしいシャレとパンチが効いていますが、無論、単なるウケ狙いのイベントではありません。背景にあった課題、イベントの目的について、同商店街振興組合理事の鶴留朋代さん、高下光永(こうげみつえ)さんにお話をうかがいました。
「発端は2016年、地元テレビの報道番組で自転車マナーが悪い商店街として紹介されたことでした」
そう明かすのは70年続く「日新てんぷら店」を営む鶴留さんです。
アーケード街は歩行者優先で、事故を防ぐため自転車は押して歩くのがマナーです。しかし、「店主の高齢化、後継者不足により、商店街の加盟店舗が大幅に減少。人通りが減るにつれ、スピードを出して自転車で走行するマナー違反が増える悪循環に陥っていました」。菓子販売店「白光堂」を営む高下さんがそう続けます。
「このままでは事故が起きかねない。そして三和本通商店街が、いや尼崎のイメージが悪くなるばかり。何とかせなあかん」
その思いから立ち上がった2人。
2人に賛同する形で市役所職員、会社員などの有志メンバーが集まり、「ちゃりんこ来恋大作戦」プロジェクトが立ち上がります。
「プロジェクト名には頭ごなしにルールを押しつけるのではなく、ユーモアを交えながら自転車のお客様にも来てほしい、恋しいという思い、そして『ゆっくり自転車を押して商店街を巡っていただければ、もっとええもんあるで』という気持ちを込めています」(鶴留さん)
子どもが率先してマナー向上を呼び掛ける
こうして、月1回のミーティング「ちゃり恋会議」を重ねていくなかで、楽しみながら自転車マナー向上を訴えるさまざまなイベントが生まれていきます。
子どもの目線で自転車の危険度を知る体験会や自転車マナーに関するクイズ大会、近隣の幼稚園や保育園の園児たちに自転車の絵を描いてもらい、絵を鑑賞しつつ尼崎南警察署などの協力を得ながら交通安全パレードなどを実施。
その中でも特にメディアでの注目を集めたのが、17年にスタートした「押し!? チャリンピック」でした。そのユニークなルールや競技内容については、「ちゃり恋会議」でアイデアを出しながらみんなでヘルメットの製作、実験をくり返しながら今のスタイルに定着したとか。
第1回は32人の参加者を集め、その後も30~40人の参加者、数百人の観客が集結。また、近隣の中学校の生徒会メンバーに競技の審判、表彰式授与式を依頼し、幼稚園・保育園の園児たちには、開会式のオープニングセレモニーをダンスや歌で盛り上げてもらうなど、家族ぐるみで楽しめる雰囲気作りに注力しています。
同イベントに加え、その他のハロウィンイベントなどでも必ず自転車マナーに絡めた趣向を取り入れることで、まず変化が表れたのが子どもたちだったとか。
「親子連れで商店街にいらしても、『ここ、自転車降りなあかんねんで』と、子どもたちが率先してマナーを呼び掛ける光景が見られるようになりました」(鶴留さん)
子どもに背中を押される形で、大人のマナーも向上。イベントで同商店街を訪れる機会が増えたことで、これまで大手スーパーで買い物をしていた若い子育て世代が買い物に訪れるケースも増えたといいます。
後継者不足で閉店した店のシャッターを上げる!
2人は、一連の取り組みが成果を上げつつある最大のポイントとして、「外部のパワーを積極的に取り入れ、自分たちが楽しみながら参加していること」を挙げます。
「『ちゃり恋会議』は、地元在住・在勤に関わらず誰でも参加OKで、飛び入りも大歓迎です」(高下さん)
無償のボランティアながら県外からわざわざ訪れてくれる参加者もいるそうで、「最初は交通費も出してへんのにごめんなあと恐縮していましたが、みなさん自身が楽しみながら広い視点からいろいろなアイデアを出してくださる。ありがたいですね」と語ります。
また、会議後には近所の会場を借り、鶴留さんらが店舗手作りのおそうざいや各自の持込みで宴会を開催。お酒を飲みながら、街を盛り上げるアイデア・意見交換で毎回、盛り上がるといいます。
こうしたオープンでアットホームな雰囲気も、幅広い世代のマンパワーを広く引きつける秘訣といえそうです。
「自転車マナーが悪い街」というネガティブなニュースを、町おこしにつなげた2人。今後の目標は「この街で起業したいという人を外部から呼び寄せ、後継者不足で閉店した店のシャッターを上げること」と話します。
19年には阪神尼崎駅近くに尼崎城が復活し、観光スポットとしても注目が集まる尼崎市。下町モード漂うアーケード街で買い物を楽しみ、機会があれば「押し!? チャリンピック」や「ちゃり恋会議」にもぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
<取材・文/大沢玲子>
たび活×住み活研究家 大沢玲子さん
鹿児島出身の転勤族として育ち、現在は東京在住。2006年から各地の生活慣習、地域性、県民性などのリサーチをスタート。『東京ルール』を皮切りに、大阪、信州、広島、神戸など、各地の特性をまとめた『ルール』シリーズ本(KADOKAWA)は計17冊、累計32万部超を達成。18年からは、相方(夫)と組み、アラフィフ夫婦2人で全国を巡り、観光以上・移住未満の地方の楽しみ方を発信する書籍『たび活×住み活』シリーズを立ち上げた。現在、鹿児島、信州、神戸・兵庫の3エリアを刊行。移住、関係人口などを絡めた新たな地方の魅力を紹介している。