出荷できない鯛を5670(コロナゼロ)尾直売。さばき方動画も話題に

新型コロナウイルスは、水産業にも大きな打撃を与えました。そんななか、新たな試みがスタート、大きな反響を得ています。おさかなコーディネータのながさき一生さんがご紹介。

真鯛の養殖業が盛んな三重県にもコロナの影響が

5670セット
三重県は水産物の種類が豊富

 三重県では、さまざまな水産業が盛んです。なかでもリアス式海岸が広がる南部では養殖業が盛んで、とくに真鯛の養殖は一大産業となっています。愛媛県などでも真鯛養殖は行われていますが、三重県ではほどよく脂がのり、締りのよいおいしい真鯛が育ちます。

 しかし現在、せっかくおいしく育った真鯛もコロナウイルス感染拡大による自粛の影響で、出荷のキャンセルが相次いでおり、行き場を失っています。

 そんななか、この状況に打ち勝とうと始まった取組みが5670(コロナゼロ)プロジェクトです。

 5670プロジェクトとは、出荷キャンセルとなった真鯛をネットを通じて直接消費者に丸1尾、または丸1尾に近い状態で、5670尾売るというプロジェクトです。逆境のなか、遊び心から生まれたこのプロジェクトは、数多くのメディアにも取上げられ、話題を呼んでいます。

 今回はこの取組みの詳細を、友栄水産の橋本純さんにお話を伺いました。

大きくなりすぎた養殖魚は出荷できない

橋本純さん
今回お話を伺った橋本純さん

 まず、実際にコロナウイルスの被害はどのくらいなのかについて伺ったところ、「飲食店や観光施設などからの注文が相次いでキャンセルとなり、莫大な量の真鯛が出荷できない状態になっています」とのこと。

 養殖の魚は出荷に適するサイズがあり、それ以上大きくなってしまうと売り物にならなくなってしまいます。その場合は廃棄するか、放流するかしかありません。しかし、莫大な量を廃棄すればコストが甚大となり、放流は周辺の環境維持の観点から難しい。まさに、八方塞がりの状態なのです。

逆境のなかでひらめいた5670プロジェクト

鯛のぼり
5670プロジェクトで売られている鯉のぼりならぬ「鯛のぼり」

 この状況に対応するため友栄水産では、まずネット通販に活路を見出しました。ちょうど、生産者が直接販売するプラットフォームである「ポケットマルシェ」を使って開始したばかりの段階。しかし、当初は慣れていなかったこともあり、「思うようには売れませんでした」と言います。

 そんなとき、同じようにコロナ禍の飲食店自粛の影響を受けていた食肉を扱う業者から、「5670円で売ってみたら予想以上に売れた!」という話を耳にしたそうです。

 橋本さんもすぐに、「そうだ!コロナに打ち勝つために、コロナゼロにあやかって5760セットの真鯛を売ってみよう! そして、5670人に真鯛をさばいてもらって、魚食文化を未来につなげていけたら、すごくすてきなことになるんじゃないか!」と、思い立ちます。

 こうして、5670プロジェクトをスタートさせました。プロジェクトを始めると、それまで思うように売れなかった状況が一変、商品は飛ぶように売れるように。メディアの取材も受けた後はさらにまた商品が売れるという、理想的な好循環が生まれました。

オンラインでの魚のさばき方教室も大好評

鯛の捌き方講座
オンラインでの鯛の捌き方講座の一場面

 5670プロジェクトでは、魚を1匹丸々送ることにこだわっています。なぜかというと、「魚は部位によって味が違うことや、手元に1匹あるといろいろな楽しみ方ができることを体験してほしい」という思いがあるからです。

 しかし、大きな真鯛をさばくのは一般消費者にとってはなかなかハードルが高いこと。そこで実施し始めたのが、テレビ会議システムを使ったオンラインでの魚のさばき方教室です。この教室は開催日時が事前にアナウンスされ、橋本さん自身が画面を通じてレクチャーします。これが非常に好評で、「さばき方をマスターできるようになった」というだけでなく、「魚をさばくことによって、家族の仲が深まった」といううれしい声まであったそうです。

逆境を楽しみながら乗り越える

橋本さんチーム
5670匹達成は目前

 最後に、橋本さんに5670プロジェクトの手応えを伺いました。

「正直、こんなに買ってもらえるとは思っていませんでした。それくらい反響が大きくて、購入してくださった皆さんには本当に感謝しています」

 橋本さん自身が打ち立てた5670プロジェクトの目標販売数、「5670匹」達成も、もう目前まで迫っています。皆さんも南伊勢のおいしい真鯛が楽しめるこの機会を、ぜひ活用してみてください。

⇒橋本純さんの5670プロジェクトで販売している鯛

〈取材・文/ながさき一生〉

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。