サブスクより安心?富山の薬売りは優秀な伝統的マーケティング

[まち・ひと・しごとで、地方創生]

サブスクリプションやキャッシュレスなど新しい決済方法が広まりつつありますが、今回は、富山の薬売りが昔から採用してきた「使った分だけ支払う」という配置販売に注目。このユニークな支払い方法を、博報堂スマートx都市デザイン研究所所長の深谷信介さんが解説してくれました。

「ツケ払い」「配置販売」。日本にはおおらかな決済方法がありました

薬がつまった富山薬売りの行李
写真/神島秀樹

 モノやサービスをつくり、ときに体験というパッケージをつくり、それを売ったり買ったりしてきた私たち。「いつもニコニコ現金払い」からクレジット決済へ、そしてローンに、サブスクにと、お金のやりとりも目まぐるしく変わってきました。

 ですが、地域に出向くとまだまだニコニコ現金払いが多く、そこには人と人とのふれあえる機会と機微があって、心が少しジーンとしてきます。

 モノとお金の流れのことをもう少し見つめてみると、日本には独特の形態がありました。お店に行って、食べるだけ食べて、飲むだけ飲んで、くだを巻くだけ巻いて、「じゃあ、マスターまた来るわっ!」と帰っていく、あの「ツケ払い」というシステム。

 月払いだったり、年払いだったり、年越ししてしまえば、すべてチャラなんてこともあったらしい。「お代は後で」というこの信用商売、なんと太っ腹でおおらかなんでしょう。

「サービスが先、お代は後」。薬売りの「先用後利」は素晴らしいマーケティング方法 

たくさん並んだ富山の薬

 そして、信用商売といえば、富山の薬売り。各家庭に薬を置いてもらい、使った分だけ支払う「配置販売」という方法を採用しています。「うち利用してるよ!」なんて方もいらっしゃるかも。

 この度発行された書籍『富山の置き薬』(かまくら春秋社刊)によると薬のまち、富山は、まちじゅうで薬局をたくさん見かけるわけでもないのですが、国内の医薬品生産金額の約10%を製造し、県内に約100の医薬品製造工場がある日本有数の薬業集積地なんです。

 豊かな水に恵まれ、大陸との交易から漢方薬の技術が伝わり、幸いにして海路も陸路も充実していた。そして軽くかさばらず、常に需要があり高く売れる薬を持って、たくさんの方々が日本のあちこちに行商に出ていきました。洪水や積雪などで厳しい暮らしぶりだったこの地の、まさに救世主になったのです。

 暑い夏も寒い冬も定期的におうちまで1軒1軒届けてくれるこのデリバリーシステム。使った分だけお支払い、たりない分を補充する。「では、またきますね」という直接会えて、コミュニケーションがとりやすい仕組み。

 なにかのときに事前に備えて置いておく、薬があるってとても安心なこと。しかも使った分だけお支払なのでお財布も含めて、ますます安心。「売薬さん」「富山さん」と呼ばれた慣れ親しまれた売薬商人は、だいたい6か月から1年に一度、おうちを巡回されたそうです。

重ねられた薬売りの行李
写真/神島秀樹

 この配置販売という信用商売形態。物売りだけでなく、家族の成長を家族以外の人が健康面から見守ってくれるというおつき合いは「お客様へのサービスの提供が先、後でお代をいただきにあがる」という、「先用後利」という考え方からきている。富山が産んだ、かなりユニークな伝統的マーケティング手法だと思いませんか?

 商売を超えたおつき合い、こんなすてきな緩やかな関わりを何百年も続けている日本人。コロナになっても、地震が台風が、たとえ津波がきても、自然と共存してきた私たちだからこその、CSRとかCSVとかSDGsとか、外来語フレームが伝搬するずっと前に生まれていた、独自の独特の知恵だと思うんです。

 今こそ、日本人が日本のよさを自ら見出す。そんなことを感じカタチにできる時間になれれば、そして、そんな目線で地域を見てもらえば宝の山だってことに、日本中で気づけるはずです。

[まち・ひと・しごとで、地方創生/第4回]

深谷 信介(ふかやしんすけ)さん
博報堂ブランド・イノベーションデザイン副代表、スマート×都市デザイン研究所所長。メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシーなどを経て、博報堂入社。事業戦略/新商品開発/コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究/実践を行っている。富山市政策参与、鳥取県琴浦町参与(内閣府より派遣)、総務省/地域力創造アドバイザー、千葉県地方創生総合戦略策定懇談会委員、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所客員准教授、茨城大学社会連携センター顧問なども請け負う。エッセイ、日本トコトコッ(地域連載エッセイ)をまとめた書籍が発売中。