餃子だけじゃない!「元気寿司」を生んだ宇都宮市の熱い寿司事情

栃木県宇都宮市といえば餃子。しかし、じつは寿司に関しても熱い地域で総務省の家計調査では、1世帯あたりの外食での寿司の購入額で年間1位になったこともあるほど。全国展開する回転寿司チェーン「元気寿司」も実は宇都宮市発祥です。今回は、そんな宇都宮市の寿司に関する事情を、おさかなコーディネータのながさき一生がレポートします。

宇都宮 元気寿司
宇都宮にある元気寿司1号店の人気メニュー「まぐろ食べくらべ」

内陸部で食べる魚がおいしい理由

宇都宮で食べたお刺身
宇都宮の居酒屋で食べた刺身盛り合わせ

 宇都宮市は、海がない栃木県の県庁所在地です。しかし、海がなく魚を獲っていないのにも関わらず、市内で食べる魚介は意外にもおいしいという珍しい特徴があります。以前、宇都宮市を訪ねた際に魚がウリの居酒屋を訪ねたことがありますが、そこの刺身盛り合わせがとてもおいしくて驚かされました。

 流通が発達した現代では、魚が獲れる場所から遠くても魚の扱い方次第で魚はおいしく食べられます。例えば、獲れてすぐ冷凍されたマグロは、解凍方法さえしっかり行えば、味を損なわずにどこでもおいしく食べられるのです。

 ひと昔前までの内陸部では魚が手に入りづらく、貴重なものである時代が続きました。このことが内陸部の魚への価値を高めたのと同時に、魚を大事に扱う文化を根付かせてきたのだと思います。ゆえに現在の宇都宮で食べる魚はおいしく、そして魚や寿司への思いも熱い。私はそのように推測します。

 さらに、その思いを昇華させ、全国に名を轟かせる宇都宮発の回転寿司チェーンがあります。「元気寿司」です。

全国展開の回転寿司の本社は宇都宮市

元気寿司
元気寿司1号店・東武店

 全国に「元気寿司」「魚べい」「千両」といった回転寿司チェーンを展開する元気寿司株式会社。その1号店である「元気寿司 東武店」は宇都宮市の中心部にあり、そこから歩いて15分程の大通りぞいに本社があります。今回、その本社を訪ね、法師人 尚史(ほうしと たかし)代表にその歴史や寿司への思いを伺いました。

 関東初の回転寿司でもある1号店をオープンしたのは、1968年のこと。回転寿司の発祥といわれ、当時大阪で名を馳せていた元禄寿司のフランチャイズに加盟し、「元禄寿司 東武店」として出発します。法師人代表によると、「創業者はさまざまな商売を模索していたようだがあまりうまくいかず、最後に決死の思いで始めたのが回転寿司だった」とのこと。

 その後、地元を中心に店舗を展開しながら徐々に県外にも拡大してゆき、1979年には株式会社を設立。1990年には本家だった元禄寿司との契約を解除し、商号を「元気寿司」とします。苦労をしつつも事業が拡大していった背景には、宇都宮の寿司熱が関与していたと思われます。

日本全国・世界に「寿司へのこだわり」を届ける

法師人 尚史代表
元気寿司の法師人 尚史代表

 今や日本だけにとどまらず、シンガポールなど海外にも展開する元気寿司ですが、そのこだわりを法師人代表に伺うとお話が止まりませんでした。何から何までこだわりがあり、とてもここに書いて収まる内容ではありませんが、いくつかかいつまんで紹介したいと思います。

●ネタの大きさと形
「ネタの大きさはとくにこだわっており、その形にも気を遣っています。薄く広く切らずに厚めに切ることで鮮度を落ちにくくし、味のバランスを整えています。規定よりも大きく切ることは許しても、小さく切ることは許していません。定番のマグロやサーモンはとくにこだわっており、正直、原価的に厳しいネタもありますが、うまいお寿司を提供することを最優先に、現場から努力しています」

●シャリの温度
「シャリは温かすぎるとネタの鮮度に影響し、冷たすぎると固く感じてしまいます。ですので、メニューごとにその温度で提供するようにしています。とくに、最近始めた手巻き寿司はシャリの温度を高めにし、ふっくらしたご飯にパリッとしたのりを合わせて提供していまして、ありがたいことにお客様からも大変よい評価をいただいております」

●出来たてで提供する
「『魚べい』を中心に回転レーンを廃止し、全品オーダー制(オーダーを受けてから調理をする制度)をいち早く取り入れました。寿司を回していても結局、直接注文をする人が大半という時代になり、寿司が回ることで結構なロスが生じていたのです。回転寿司なのに回らないなんて本末転倒、最初はそういった声もありましたが、出来立ての鮮度のよいお寿司を提供することを思い切って優先しました。これに加えて、炙る、揚げるといったメニューもオーダーを受けてから調理しています。食品ロスを減らす効果もあり、味にも環境にもよい効果をもたらすことができています」

元気寿司 店内
できたてを提供するため、回転ずしなのに客席の回転レーンをいち早く止めたという

魚を大事に扱う宇都宮の文化が強み

 法師人社長のお話から元気寿司が「大事な魚を最大限においしく提供するにはどうすればよいか」について、いかに追求してきたかがわかりました。その背景には、内陸部である宇都宮の企業だからこそもっている「魚はありがたいもの」という価値観や、魚を大事に扱う文化があるように思います。

 魚そのものは海の恵みですが、魚を大事に扱う文化によってつくり出されるおいしい寿司は、人がつくり出した恵みです。元気寿司はその恵みをこれからも宇都宮から全国・世界に発信し続けることでしょう。

〈文・写真 ながさき一生〉

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」(http://www.sakana-no-kai.com/)は参加者延べ1000人を超える。