X JAPANラブな女性養蜂家。ゆかりのスタジオを園内に移設

千葉県の房総半島では温暖な気候を利用して、養蜂が盛ん。今回は、館山市ではちみつと『X JAPAN』に情熱を傾ける女性養蜂家、尾形玲子さんのユニークな活動を紹介。尾形さんは毎日ミツバチの世話を行いつつ、バンドゆかりのスタジオを養蜂場に移設、一般開放しています。

非加熱のやさしい味わいのはちみつをつくる女性養蜂家

ひふみ農園の入り口
 
 1年中花が咲き誇る、温暖な南房総エリア。美しい花々は目を楽しませるだけでなく、おいしいはちみつももたらしてくれます。

 そう、南房総は知る人ぞ知る養蜂地。寒い季節になると青森など北のミツバチが越冬しにやって来たりもします。

 プロからアマチュアまでたくさんの養蜂家がいて個性豊かなはちみつを楽しむことができますが、館山市の老舗「ひふみ養蜂園」は別格。非加熱国産はちみつのやさしい甘さとのどごし、「幻の」と称されるビワはちみつなど豊富なバリエーションで日本中のはちみつ好きを魅了しています。

ミツバチの巣を手に持つ尾形玲子さん

 そのひふみ養蜂園の2代目を継ぐ尾形玲子さんは、ミツバチと『X JAPAN』をこよなく愛する女性養蜂家。養蜂というとはちみつを採取する採蜜のイメージが強いのですが、じつはハチを育てることが仕事の大部分を占めています。気候や花の開花状況に合わせて巣箱を移動させたり、暑さでバテているハチにえさを与えたり。

 養蜂業はオートメーション化が難しく、20キロを超える重い巣箱の移動もすべて手作業で行います。想像以上の重労働なうえ、生き物を育てる畜産業は休みをとることもままならないと聞き、どうしてそこまでがんばれるのだろう? そんな言葉が思わず口をついてしまいました。

園内のミツバチの巣箱

「ハチが大好きなの。一生懸命に蜜を集める姿がかわいくて仕方ないの」。

 穏やかな笑顔で玲子さんが答えてくれました。ミツバチ1匹が生涯に集める蜜の量はわずかティースプーン1杯ほど。その貴重な蜜を分けてもらうのだから、快適な環境を整えるための労力を惜しんでいられない、とも。

「自然環境の変化や、外来種のスズメバチの増加によって養蜂が年々難しくなってきています。あまり知られていませんが、ハチを使って受粉しなければ農業は成り立ちません。元気なハチが育つ環境、自然を守ることが人間にとってどれほど重要かをこの仕事を通じて伝えていきたいと思っているんです」。

ひふみ農園のはちみつ

 ハチへの愛情、養蜂への情熱。はちみつは養蜂家の思いの結晶でもあることに気づかされました。国産はちみつの占有率はわずか6%(令和元年 養蜂をめぐる情勢/農林水産省)。養蜂業の過酷さやハチの生涯採蜜量を知ると、1滴も無駄にできないという気持ちになります。

 つくり手はさらにその気持ちが強く、多くの人にハチミツの魅力を伝えようと「菜花とハチミツのドレッシング」「ハチミツソフトクリーム」など地元農産物と組み合わせたオリジナル商品の開発にもチャレンジしています。
 

大好きな『X JAPAN』ゆかりのスタジオを養蜂所内に移設

農園に移築された音楽スタジオ

 そんな玲子さんは『X JAPAN』にも情熱を注いでいます。数年前、世界を舞台に活躍する館山市出身のアーティストYOSHIKIさんがデビュー前に練習していた、市内の音楽スタジオが取り壊されることを知り、仲間とともに立ち上がります。

 そして交渉の結果、そのスタジオを私費でひふみ養蜂園の敷地内に移築、保存してしまったのです(現在は無料で一般公開・要予約)。

 壁面に残されたサインや当時の貴重な資料の数々が展示された「MJGスタジオ」は、ドキュメンタリー映画『We are X』撮影時にYOSHIKIさん本人も訪れた特別な場所。玲子さんは地域を盛り上げたいという地元愛を原動力に、館山の魅力発信にも努めています。

食事にも美容にも。はちみつはさまざまなシーンで活躍

はちみつを使ったプレスリーサンド

 ひふみ養蜂園のはちみつは、わが家の生活必需品でもあります。はちみつと溶かしたチーズをのせたハニートースト。チャンクタイプのピーナツバターとはちみつを塗ったトーストに、輪切りにしたバナナを並べる「プレスリー」(歌手のエルビス・プレスリーが好きだったのでこの名がついたそう)は朝の定番。肉や乳製品との相性もよいので料理にもよく使いますし、自家製のはちみつレモンを夏には炭酸水、冬には熱湯を注いで飲んでいます。

「殺菌効果が高い」と聞いてからは、寝る直前にティースプーン1杯のハチミツをなめていましたが、最近これが「はちみつダイエット」として話題になっていることを知りました。はちみつの成分が睡眠の質を上げることで脂肪燃焼が促されるのだとか。甘いはちみつを口に含んで幸せな気分で眠りにつくから熟睡できるのかと思っていましたが、ちょっと違ったようです。

ひふみ農園の商品

 ハチからのうれしいプレゼントがもうひとつ、蜜蝋です。ハチが蜜や花粉を食べて分泌するワックスには保湿効果や抗炎症作用があるといわれています。ひふみ養蜂園ではキャンドルづくりのワークショップを行っていて、その材料である蜜蝋も販売。私は、この蜜蝋に南房総産のカレンデュラオイルを混ぜて自家製クリームをつくっています。リップクリーム、全身の保湿のほか切り傷や口内炎にも◎。安心して使えるマルチクリームは1年中大活躍しています。

 ひふみ養蜂園のはちみつは店頭のほか通信販売、ふるさと納税でも入手可能です。玲子さんの心意気を、ぜひ食べて応援してください。

<取材・文/房州未来研究所>

房州未来研究所
雑誌編集者として働いたのち、千葉県館山市に移住。現在は、よそ者目線で南房総のすてきなヒト・モノ・コトを掘り起こしている。