心打つ名句が続出! 高校日本一を決める「俳句甲子園」がスゴい

2019年は弘前高校が東北勢初の優勝を果たす

 2019年も6月から地方予選が全国各地で行われ、8月に全国を勝ち上がった32チームが愛媛県松山市に集結。見事、青森県立弘前高校が東北勢初の優勝を果たし、幕を閉じました。

弘前高校優勝の瞬間
見事優勝を果たした青森県立弘前高校

 そんな熱い戦いが繰り広げられる俳句甲子園では毎年、数多くのドラマが生まれます。高校生たちが自分の感性や感受性を駆使して、俳句を作りそれを試合でぶつけあう様は俳句がわからない人たちですら、感心して頷いてしまうほど。筆者もじつは高校時代に俳句甲子園に出場し、今は大会のスタッフを務めています。毎年、地方予選や全国大会でスタッフを行っていますが、2019年の大会を通してとても記憶に残った句がありました。

ぶらんこや あの日へかえる 時の舟

 福島県立須賀川桐陽高校2年生の土居陽香さんが詠んだ句です。

 残念ながら須賀川桐陽高校は地方予選で敗退。全国大会に進むことはできませんでしたが、この句を見た瞬間に胸がキュッと引き締まる思いがしました。

 福島県須賀川市は2011年の東日本大震災時に大きな被害を受けた地域です。高校2年生の土居さんにとって、「あの日」とは一体どんな日のことを思っているのだろうと想像しただけで胸がいっぱいになりました。こちらのただの深読みかもしれません。

「あの日」とは悲しい思い出ではなく、もしかしたら無邪気に遊んでいた幼少時代のことかもしれません。筆者は、もはや自身で俳句を作ることはあまりしていないので、俳句を深く語れるほどの知見はないですが、俳句の醍醐味、短い言葉から生まれる世界の広がりの凄さに改めてうならされました。

 こうした高校生たちが賢明に作った句が生まれる俳句甲子園は、数多くの人間に支えられて成り立っています。大会はNPO法人俳句甲子園実行委員会を中心に運営され、松山市役所や大会の協賛企業、地元の大街道商店街、全国大会当日には数多くの松山市民や大会に出場したOBOGがボランティアスタッフを務めています。

 先述の福島県須賀川市の地方予選も須賀川市全面協力の下、2019年に完成したばかりの市民交流センターtetteで大会が行われました。須賀川大会の審査委員長を務めたのは須賀川市在住で俳人の永瀬十悟さん。須賀川市は松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅で滞在し、松山市と同じように俳句が盛んな街です。そうした縁もあり、永瀬さんが市に働きかけて俳句甲子園地方予選を須賀川市に誘致してくれたのです。

須賀川大会会場のtette (須賀川市民交流センター)
須賀川大会会場のtette (須賀川市民交流センター)

 また2019年度の優勝チームである青森県弘前高校には、弘前市から餞別のTシャツがプレゼントされ、優勝後には弘前市長に表敬訪問を行っています。このように全国各地域に、俳句甲子園を応援してくれる俳人や行政の方が数多くいるのです。

 俳句甲子園は愛媛県松山市のイベントですが、地元に密着しながらも全国にも裾野を広げ、関係人口を増やし続けている地域活性イベントの成功例の一つと言えるのです。

<取材・文/浅沼知季 写真提供/NPO法人俳句甲子園実行委員会>