新型コロナウィルスによる飲食店の営業自粛で食品の流通が変化しています。中でも海産物は飲食店向けの品目も多いことから、その影響は大きなものがあります。消費者がネット通販で産地から直接海産物を取り寄せる動きが増えているという話も聞きますが、実際のところはどうなのでしょうか。おさかなコーディネータのながさき一生がレポートします。
コロナで変化する魚の流通
4月の新型コロナによる緊急事態宣言以降、水産業界のいろいろな方々にお話を伺ってきましたが、飲食店向けの需要が減る一方、ネット通販(EC)での需要がかつてないくらいに伸びているという話をよく耳にしました。実際、5月頃に産地の水産品を扱う複数のECサイトに伺うと、「出品者とそれを買うユーザー、ともに登録が急増している」というお話でした。
しかし、海産物のECサイトの中でも特に生の魚も扱うサイトは、これまでもっぱら飲食店向けに行われているサービスが大半。消費者向けのECはそこまで盛んではなかったのです。この状況がコロナによって変わりつつあるといいます。
どう変わった?鮮魚のECサイト
今回は、最近の状況の変化について、産地直送の海産物を扱うECサイト「サカマショップ」を運営する株式会社SAKAMAの柴田社長にお話を伺いました。
コロナが蔓延する前、サカマショップもどちらかというと飲食店向けに展開していたサービスでした。創業のきっかけについて、柴田社長はこう語ります。
「山口県の萩市に行ったときに、魚が揚がる漁港を訪れたのですが、そこで売り物にならずに捨てられる小さなアジなど、いわゆる雑魚の山を見まして。もったいないと思って食べてみたら、すごくおいしかったんです。『これは何とかしないといけない』と思い、2015年に創業しました」
そして、鮮魚は種類も産地も数多く、調理方法もさまざまなものがあるなかで、魚のことをある程度知っている人が多い飲食店向けの販売に至りました。しかしそれが、このコロナ禍において状況が変わりだしたと言います。
「産地から魚を売りたいという声が増えていますが、それよりも驚くくらいに増えているのが、一般消費者のユーザー登録です。これまでは一般消費者の登録はほとんどなかったのですが、顧客全体の3、4割まで迫る状況になっています」
おうち時間を魚で楽しむ お魚体験直送便!
一般消費者のニーズ拡大を受け、「これまでの売り方ではいけない」と感じた柴田社長。新たなこと販売方法へのチャレンジを始めました。その1つが「お魚体験直送便!」というパッケージ商品の販売です。「お魚体験直送便!」は、コロナ禍で増えたおうち時間を産地直送の鮮魚を通して、親子で楽しんでもらうための商品です。
第1弾の「こどもと、いわしのつみれにチャレンジ!」を例に取ってみると、富山県黒部市で揚がったイワシを産地から直送し、それと一緒に体験コンテンツを動画で配信。大学で臨時講師も務める生き物コンサルタントの青木宏樹氏と協力して、イワシを単に売るだけなく、観察しながらさばいて、つみれをつくるプログラムとして提供したのです。
現在では、この第2弾として信州サーモンを使った「こどもと、サーモンのお寿司にチャレンジ!」も展開し始めています。ほかにも、大人向けにオンラインでさばき方教室を行う「おうちで魚を捌きまくる会」を、魚楽団体さかなの会と協力して実施するなど、消費者に向けたさまざまな取組みに奮闘しています。
産地とともにこれからの鮮魚流通の形をつくり上げる
最後に柴田社長は、「ECで消費者に鮮魚を届ける際に、ただ届けるのではダメ。これまでの飲食店向けの販売にはなかった難しさがありますが、産地の方々をはじめ、さまざまな方々と知恵を出し合って協力していく楽しさも感じています」と話しました。
鮮魚の消費者向けECはこれまでも幾度となくトライされてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。新型コロナの流行をきっかけに消費者向けのECが脚光を浴びている状況ではありますが、柴田社長が言う通り「ただ届けるのではダメ」だと思います。産地の魅力やそこでの魚の食べられ方、魚の楽しみ方も合わせて流通させる必要があるでしょう。これからの鮮魚流通をみなさんとつくり上げられたら、と思います。
〈文 ながさき一生〉
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」(http://www.sakana-no-kai.com/)は参加者延べ1000人を超える。