毎年ノドグロを楽しむために海を休ませる。資源を守る漁法とは?

秋の足音が近づいてくると、気になるのは旬の食べ物! 高級魚のノドグロも9月に旬を迎えまさに食べ頃です。新潟県糸魚川市の筒石漁港では、ノドグロの底曳網漁が解禁を迎えたことで一際活気づいているそう。その地の漁師の息子でもあるおさかなコーディネータのながさき一生が、環境に配慮した漁法をレポートします

ノドグロの旬を迎え、活気づく筒石漁港

新潟県糸魚川市の筒石漁港

 新潟県糸魚川市にある筒石漁港。現在10隻ほどの漁船が水揚げをするこの漁港は、小型船による底曳網漁が盛ん。この地域の底曳網は、水深200~400m程の海底に掛け回す形で網を入れ、1隻の小型船で網を曳き揚げます。「手繰り網」とも呼ばれるこの漁法は、網の形や曳く場所、曳き方がさまざまで、狙う魚やそのときの海流などによってそれらを変えていきます。

水揚げされたノドグロ
9月は高級魚ノドグロの水揚げも活発(写真:上越漁協)

 さらに、小さな魚を逃したり、狙った魚のみを捉えたり、環境にも配慮して漁を行います。それらを総合的に考え、売上を上げていくのが船頭の腕の見せどころなんです。そんな筒石は、漁場が近いことに加え、全船に滅菌冷却水装置を完備するなど魚の扱いもいいため、魚の鮮度は抜群で評判も上々。とりわけ、9月は、主力魚種のニギスや高級魚のノドグロの水揚げが活発になるため、浜は一際活気づきます

7、8月を禁漁期間にして水産資源を守る

魚が並ぶ漁港のセリ場
9月は高級魚ノドグロの水揚げも活発(写真:上越漁協)

 そんな活気のある浜も、7月、8月は少し様子が違います。主力の底曳網が禁漁期になるのです。夏の禁漁期の間、底曳網を営む漁船は、海底ではなく表層や中層を曳く「ごち網」と呼ばれる漁を主に操業します。そのため、夏場は比較的浅いところにいるタイやカワハギ、カレイ、タチウオといった魚が主力に。

 さらに、昔はイカ釣り漁やタコ箱漁などを営む船もありました。夏場は凪ぐ日が多く操業日数が増えますが、漁法の関係で1操業あたりに獲れる魚の量が減り、お盆前を除くと魚の需要も多くないため魚の値段も安くなりがち。

禁漁の取り組みは明治時代から

魚をさばく漁師
漁師のことを教えてくれた筆者の父

 なぜ、夏場を禁漁期とするのかというと、海を休ませることで、海の環境を維持していくため。そして、海の資源を有効に使い、自然と共存していくためです。地元の漁師によると、夏場を禁漁期とする取組みは、明治期から続くそう。当時から、底曳網を営むにあたって、資源を維持していくため、1年のどこかで海を休ませないとならないという考えが漁師の間にあったそうです。

 あとは、禁漁期をいつにするのか。それを決める際の理由となったのが「夏場は魚の需要が多くない」ということ。魚を獲ってもどのみち値段が安くなってしまうであれば、その時期を禁漁期として海を休ませよう、との考えに至ったのでした。

 このような禁漁期を設ける取組みは、ほかの地域でも見られます。限られた海の資源を有効活用し、なるべく高く売ることで自らの生活も成り立たせ、海に負荷を掛けないようにする。このような自然と共存していくという考え方は、元々日本の漁村で受け継がれてきたことなのです

日本の環境にあった資源の管理方法が大切

魚を仕分けする漁師

 筒石の漁師は20代以下の若者も多く、昔ほどではないにせよ活気が失われていません。それは、先人の漁師たちが知恵を使い、努力をして資源を未来に残し、自然と共存していく姿勢を貫いてきた結果です。最近では水産資源に関する議論が活発化しており、さらに今年は気候変動が激しく海の環境に変化が生じています。ただ、先人の漁民たちはそのような変化にも対応をしてきました。

 水産資源の管理にはさまざまな方法や考え方があり、欧米的な考え方も導入され始めてきています。しかし、これからの水産資源管理を考えるなら、日本特有の状況や食文化、先人たちの思いや努力を忘れてはなりません。単に欧米的な考え方を導入するのではなく、先人たちが自ら考えて創り出してきたように、日本の環境に合った管理方法を自らつくり上げていくことが重要です。そのためには、消費者を含め様々な人の意見や協力が必要ですよね。旬の底曳網解禁によって得られる海の幸を堪能しながら、そのようなことを少しでも考えていただけたらうれしいです

<文・写真/>
ながさき一生
おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」の参加者は、延べ1000人を超える