地元の人や観光客でにぎわう朝市。「町おこしは朝市から始めるのがおすすめ」というのは、茨城の真壁で20年地域再生に関わってきた西岡勇一郎さん。その理由を教えてもらいました。
町おこししたいなら、朝市から始めるのがおすすめ
近隣の農家や生産者が集まる朝市は、地元の人との交流を楽しみながら新鮮な食材を購入できると観光客に好評です。私も過去に朝市を主催しておりました。実際に朝市を開催してみて、気づいた点をいくつか書いてみたいと思います。
朝市は手間をかけずに小さく始められる
町おこしの取っかかりに何かイベントを、と考えているのでしたら、まずは朝市をオススメします。〇〇マルシェのような物販+飲食+音楽のイベントを開催するより、資金も抑えられ準備にもあまり手間のかからない朝市がグッドです。
風呂敷1枚で店を開けるのが朝市の魅力。昨今はミニ店舗のような感じで出店するおしゃれなマルシェが多いですが、朝市なら出店者向けにキャンプ用のミニテーブルが1つあれば十分です。
告知についても、SNSはもちろんのこと、手書きのチラシを印刷にかけて、町の回覧板に挟んでもらったり、町角の掲示板に貼ったりすればOKです。手の込んだポスターは必要ありません。
町おこしの一環の朝市であればあるほど、地元住民向けのものを基本に考え、背伸びせずに小さな駐車場レベルから開催する。そこから、ユーザーのニーズを汲んだ朝市に成長させていくと、中身の濃い朝市になっていくはずです。
朝市は一方的にサービスを与える「イベント」ではなく、お客さんと出店者の「生活」を成り立たせるものを「おもてなし」で結ぶものと捉えるべきかな、と思っています。
朝市で町おこしの仲間が見つかる
朝市は人とコミュニケーションをとるにはすばらしい手段だと思います。主催者・出店者・お客さん、それぞれが朝のすがすがしさの中で「おはようございます」を合い言葉に、すんなりと会話を楽しむことができます。それぞれの交友関係が広がり、その後の町おこし活動にとても有用な人脈をつくることができます。
町おこしで苦労するのは、いかにして自分の価値観を認めてくれる仲間を見つけ出すかだと思います。日々孤軍奮闘して、それに共感してくれる人が徐々に集まってくるのを待つのもいいのですが、それはかなり忍耐力を要します。
そこで朝市! 何度か朝市を開催していると、いつも見かける人がいるんです。そう、とてもアツい心を持った迷える子羊が(20年前の私もそうでした)。商工会や消防団といった団体活動にはなじめない、だけど町おこしには興味がある。そんな雰囲気を醸し出していそうな迷える子ヒツジを見つけたら勇気を出してそっと声をかけてみてください。きっと新たな展開が待ち受けていると思います。
町おこしが必要な町において、朝市を開催する一番のメリットは「人の発掘」です。同じ思いを持った仲間を増やせば、想像力豊かな町おこしが展開できます。町の未来を憂えているのは自分1人ではありません。そして町おこしは1人でやるものでもありません。
町の意外な一面を発見できる
私の住む真壁町の商店街は、昼間でも人の気配を感じないほど静まりかえっています。しかし朝市を開催してみると、普段見かけない人々がジワリジワリとどこからともなくやってくるのです。高齢の方や若夫婦にチビッコなどなど。ゴーストタウンかと思っていた町なのに…。
つまりそれは、これからの町おこしを考える上で大きな情報源になります。高齢者向けの朝市、子ども向けにスタンプラリーなど、町を盛りたてるための策を練るうえで、とても有用な情報を得られるはずです。
朝市の主催者も楽しめる
主催者と運営スタッフが「心底楽しんでいる」朝市は、ある一定の成功をおさめていると言えるでしょう。千客万来で出店者が潤うことはとても大切なことですが、町おこしの思いを込めた朝市の場合は、主催者が納得したものにならないと意味がありません。
まずは開催スタッフが、その次には住民が楽しむこと。住民が楽しんでいるイベントには自然と観光客が集まってきます。「観光客に人気の朝市」に成長できるように、まずは小さくコツコツと。継続は力なりです。
私自身も主催者として次のような喜びを得ていました。
ゴーストタウンに小さな賑わいが起きていることが面白い。朝市終了後は、またゴーストタウンに戻ることが面白い(朝市の影響力を感じることができます)。家族サービスができる(子どもを地元で楽しませることができる)などなど。
でも、朝市開催がゴールではダメ
朝市開催で町おこしを狙うのは正しい選択です。ただ、開催=ゴールではありません。主催者は開催するだけでそれなりの疲労を伴いますから、つい「開催=町おこし成功」の図式を感じてしまいがちですが、朝市開催はスタートであり、町おこしのためのツールです。
「朝市は観光客に好評」と冒頭に書きましたが、好評を得るためには観光客が一定数いることが条件になります。「閑古鳥が鳴く町が朝市を開催、観光客が押し寄せる、消費が発生し町が潤う」という論法は危険です。
町おこしが必要な町における朝市は、そう簡単に潤いません。よくある話しですが、「補助金があるから、朝市を開催」という役所や某協会や某会議所的な発想もおすすめしません。いずれも「開催=ゴール」の典型だからです。
町おこしという言葉で、その場しのぎのイベントをしても長続きましません。補助金が出なくなったら開催が危ぶまれるようでは、その朝市は一時しのぎの延命措置にしか過ぎないのです。今まで寝ていた町が起きるには、それなりの時間と手間がかかるものです。
<文/西岡勇一郎>
西岡勇一郎さん
茨城県桜川市真壁町の酒蔵、西岡本店社長、桜川本物づくり委員会。大学卒業後、一般企業勤務を経て実家の酒蔵を継いで以降、酒造りと並行して、20年に渡り真壁町の町おこしに携わってきた。