「先が見えない…」から大逆転。山間の桶屋がふるさと納税で人気

[くみくみのふるさと納税ダイアリー/第11回]

香川県の山間の町にある小さな桶屋さんの弁当箱やおひつが、ふるさと納税の返礼品として人気です。一時はどん底の状態でしたが、伝統の技を生かし、長く使える商品で大復活。ふるさと納税ブロガーの小野くみさんが紹介してくれました。

杉の香りがすがすがしい、桶屋さんがつくる弁当箱

杉でつくられた白木の弁当箱

 自粛期間が明け、数か月ぶりにお弁当づくりが始まりました。弁当箱を前に、なにを詰めてた? おかずはたりる? 再開初日はハラハラドキドキの早起きでした。

 さて、お弁当と言えば先日、吉野杉を素材とするちょっと自慢したくなるようなお弁当箱がやってきました。それが今回ご紹介する香川県三木町の桶屋、谷川木工芸さんの『讃岐弁』。

 お弁当と方言の「弁」をかけ言葉にしたネーミング。お弁当箱以外にも気のきいたお茶菓子の器として、2段タイプを選んでおせち風にしてもインスタ映えしそうです。しかしこのお弁当箱、なにかの形に似ていると思いませんか? すでにおわかりだと思いますが、正解は桶。

 1955年に桶屋として創業した谷川木工芸さんならではの発想で、ほかにありそうでないところが自慢ポイントの1つ。直径15㎝高さ12㎝、つくり方も桶屋ならではで、鉄枠に沿って並べた木片を締め上げ隙間をなくし、手に馴染むようにカンナで形を整えるとのこと。

ご飯とおかずをつめた弁当箱

 さすが職人技、じっくり見ないと継ぎ目がわからないほどスムーズで、塗装されていない白木からは杉のいい香りがし、しばらく使うことができませんでした。それでもなんとか色移りを避けてお弁当をつくったら、浅漬けや焼き魚など、普段では考えられないほどカロリー控えめな和風弁当に。ガッツリ系の私はどこへいってしまったのでしょう? 職場で食べた冷めたご飯もおいしくて、ご飯目当てにお弁当タイムが待ち遠しく感じたほどです。

 お弁当箱1つでナチュラルスタイルの私に変えてしまうなんて…。恐るべし『讃岐弁』。

ふるさと納税に参加して一変。注文が殺到した谷川木工芸

桶をつくる3代目の谷川清さん

 さて、谷川木工芸さんとの出会いは、ふるさとチョイスアワード2019。自治体や事業者が、ふるさと納税をとおして起きた変化や取り組みを発表する場に登壇したのが、3代目谷川清さん。

 プレゼンテーションの映像は、自治体担当者さんが返礼品を提供してもらうため、お世辞にもきれいとは言えない工房を訪ねるところから始まりました。

 当時の谷川木工芸さんは海外からの大量生産の物に押され、なにをやっても好転しない大変厳しい時期。もしかしたら落ち込んだのは注文だけではなく、職人としての自信や誇りのようなものも失いかけていたのかもしれません。

 ふるさと納税という馴染みのない制度で「本当に注文が入るもんかいな?」となんの期待もなかった、というのももっともな話です。

 ところが予想はすぐに裏切られ、ふたを開けてみると安くはない寄付額にもかかわらず、讃岐弁、おひつ、風呂桶…。次々と申し込みが入り、その数2000件以上。昔は1つの町に1軒といわれるほど身近な桶屋が、今では県内たった2軒。そんな希少な品だというところに、寄付者のニーズが当てはまったのでしょう。 

 そこから谷川木工芸さんの状況は一変。ついに、この日、総合大賞を受賞することになったのです。

談笑する谷川さん親子

 受賞のインタビューに、「跡を継いでからいちばんうれしい」と語った清さんは喜びいっぱいの笑顔。でも、私にはその笑顔のなかに、これまで抱えてきた晴れない思いが報われ、涙をこらえているようにも見えました。

ふるさとチョイスグランプリの表彰式

 先が見えないといって、息子が跡を継ぐのを断っていた2代目の雅則さん、光が見えず父のやり方を疑問に思っていた3代目の清さん。どんなに厳しくても技術を手放さなかった2代目、この技術は自分が守らなければと思った3代目。

 それぞれの思いが伝わるようで私までもらい泣きしてしまいました。

 今では、ふるさと納税で大きく町に貢献している谷川さんですが、2代目雅則さんは、もともと地域に貢献したいと神社の桶をつくったり、地元消防団の活動をしていたそうです。このような方だからこそ、ふるさと納税の女神がほほえんでくれたのでしょう。

 先日「総合大賞を取れたのは技術を守ってきた父があってのこと。尊敬するきっかけになりました」と清さんからこっそり教えてもらいました。でも、きっと2代目も桶の技術を守ろうとする清さんのことも誇りに思っていると思います。

「おれに任せて桶(おけ)」と頼もしく笑わせてくれる人ですからね!

<写真・文/小野くみ>

[くみくみのふるさと納税ダイアリー/第11回]

小野くみさん
ブロガー。2014年から、ふるさと納税の楽しさに目覚め、返礼品のレビューを中心にブログ「くみくみのふるさと納税返礼品の記録」にアップしている

カラふる×ふるさとチョイス