「おせち文化」がない沖縄の正月料理。では、重箱はいつ使う?

 中国の文化が色濃く残る沖縄では、年中行事の多くが旧暦に基づいており、お正月も旧正月を中心に新年を祝っていました。現在は新正月を祝う地域や家庭も増えてきましたが、重箱に詰めるおせち料理は沖縄の文化には存在せず、重箱は別の用途で使われます。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格を持つ津波真澄さんが、沖縄の重箱料理と正月の食事についてご紹介します。
 

見た目は地味な沖縄の重箱料理

重箱料理
 
 一般的に重箱が登場するのは、「おせち料理を入れるお正月」。ところが沖縄では、写真のように重箱料理はあるものの、これはおせち料理ではありません。カラフルなおせち料理のイメージとは違い、なんとなくシンプルですよね。
 
 それもそのはず、このような重箱料理が登場するのは、法要や沖縄の伝統行事の1つ「清明祭(シーミー、中国伝来の行事で先祖供養をする日)」のときなど。つまり、仏前や墓前にお供えする料理なのです。
 

重詰め料理には食材や詰め方の決まりごとがある

かまぼこ

 重詰め料理には大きく分けて、「通常のお盆や清明祭、お祝い用」のものと、「法事や新盆などの仏事用」のものがあり、目的に応じて入れる食材に違いがあります。先の写真は、ひと目で前者だとわかります。
 
 見分けるポイントは、中央の赤いかまぼこ。「赤かまぼこ」と呼ばれる沖縄独特のかまぼこで、鮮やかな色がもてなしの心を表します。後者の際には、色をつけない「白かまぼこ」を入れ、全体的に無彩色に仕上げます。
 
 昆布にも違いがあり、写真のものは「結び昆布」になっていますが、仏事では切り込みを入れた「返し昆布」と呼ばれる形のものに代わります。結び昆布には、縁を結ぶ意味が込められているのですが、仏事では、それが「先に逝った人に引っ張られる」意味合いを持ってしまうため、同じことを繰り返さないように、という意味で返し昆布が使われます。
 
 沖縄で初めて見た、整然と詰められた重箱はまるで市松模様のようで、とても不思議な感じがしました。入れる料理の品数は、必ず奇数にするように決められており、9品詰められているものをよく見かけます。
 
 その内容は、豚三枚肉、揚げ豆腐、赤かまぼこ、昆布、こんにゃく、ゴボウ、カステラかまぼこ(卵で黄色く色づけたもの)、田芋のから揚げ、魚の天ぷらが一般的で、4段重箱の場合は料理が2段、もちが2段、2段重箱の場合はそれぞれ1段ずつとなります。
 
 詰める場所も基本的には決まりがあり、またきれいに詰めることができるよう、すべての食材の幅を揃えます。よく使われる重箱の内寸は21センチなので、7センチ幅に揃えることになりますが、楽に詰められるよう、多くの食材が7センチ幅で売られているので便利です。
 
 赤・白のかまぼこも約7センチ幅になっています。上の写真の一番右に写っているかまぼこが「カステラかまぼこ」です。
 

沖縄の正月料理ってどんなもの?

お正月料理
 
 おせち文化のない沖縄では、何が食べられているのでしょう。戦後、本土の文化が入ってきて、おせちやお雑煮を食べる家庭もありますが、伝統的には「豚正月」と言われるほど豚肉がよく使われるのが特徴です。そして料理は重箱に詰めるのではなく、お皿に盛ってお盆に並べます。
 
 写真のお膳はあくまで一例ですが、左下から時計回りに、赤飯、酢の物、クーブイリチー(昆布の炒め煮)、田芋でんがく(田芋でつくったきんとんのようなもの)、中身汁(豚の胃や腸のお吸い物)。そのまま一式、同じものが仏前にもお供えされます。
 
 一方、最近では、スーパーなどでオードブルセットを購入して、手軽にワイワイ過ごす家庭も増えているようです。年末が近づくと、スーパーや飲食店のオードブルセット予約の広告が出回り、年末年始には店頭にもずらりと並べられます。
 
 その風景を見ると、個人的には寂しさを感じます。おせち料理も伝えていかなければならない大切な日本の食文化ですが、琉球時代から先人が残してくれた沖縄の食文化遺産も忘れることなく伝承していきたいものです。※今回ご紹介した重箱の食材、詰め方、種類は一般的なものであり、地域や家庭によって異なります。
 
<取材・文/津波真澄>  
 
津波真澄さん
 広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催し、企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞。