雪深い魚沼の正月料理「ホッケずし」。雪国の知恵がつまっています

雪深い新潟の北魚沼では、塩漬けのホッケを使ったなれずし「ホッケずし」が正月料理として親しまれているそう。山村に移住して木工製品をつくっている中川光嗣さんが、このユニークなすしづくりを紹介します。

雪国の暮らしの知恵がつまったホッケずし

笹の葉でくるんでつくるホッケずし

 新潟でも屈指の豪雪地帯である魚沼の入広瀬地区には、昔から食べられてきた個性的なお正月料理があります。塩漬けのホッケに米麹と炊いたご飯を笹で包み、漬け込んで発酵させたシンプルな料理。なれずしの一種で名前はそのまま「ホッケずし」といいます。

 昭和初期頃まで新潟の山間の地域では、現代ほど物流が行き届いていなかったため、食卓にあがる魚の種類も保存性のいいものに限られていました。定番は身欠きニシンや棒ダラ、塩鮭に塩ホッケなど。雪国の冬を生き抜くための、暮らしの知恵がギュっと詰め込まれたような伝統食です。

独特の酸味とうま味が日本酒によく合う

箱に詰められたホッケずし

 昨年は私も笹で包む作業だけお手伝いさせてもらいました。工程の一番初めは初夏、青い笹を山から採って、干すか冷凍にして初冬まで保存しておきます。いい塩ホッケが流通する11月下旬頃、季節の風物詩として各家庭で仕込み作業が行われます。あとは涼しい場所に置いて1か月、いい味になることを願うばかり。

 保存場所の気温や湿度、ホッケの塩加減などによって発酵の具合が変わり、毎年味が微妙に異なるのもこの料理の面白いところ。もちろん各家庭の味があり、ホッケずしをご近所で交換することも。魚臭さはなく、独特の酸味とうま味が日本酒とよく合い、ついついお酒が進んでしまう逸品です。

ホッケずしは入広瀬地区の民宿でも味わえる

皿にのせたホッケずし

 家庭以外では、地域の道の駅で冷凍されたものが販売されているほか、入広瀬地区の民宿でこれからの時期に食べることができます。「ホッケずし」と越後の酒を目当てに、真冬の雪国で静かに過ごすのもいいかもしれません。

<取材・文/中川光嗣>
神奈川県湘南地方で育ち、大学で建築を学び、首都圏の建築事務所などで住宅建築や都市設計などに携わる。30代で新潟県十日町市に地域おこし協力隊として移住。その後、県内の魚沼市に移り、「小屋丸」の屋号で地元の木材を使った木工作品を制作している。