兄妹の鬼伝説。沖縄では鬼餅を食べて鬼を撃退します

旧暦の12月8日(2021年は新暦の1月20日)、沖縄では「鬼餅(ウニムーチー)」を食べる習慣があります。節分でもないのに「鬼」が出てくるのはなぜ? 12月8日に食べる由来は? 今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターの津波真澄さんが「鬼もち」を紹介します。
 

「鬼餅」(ウニムーチー)の由来は、沖縄版『鬼滅』!?

紅いもムーチー
 
 「ウニムーチー」、一般的には短く「ムーチー」と呼ばれる鬼餅。ムーチーを食べるようになったのは、ある兄妹の伝説が由来となっているとされています。伝説には諸説あり、地域によってもさまざまなようですが、私が聞いた由来は『琉球国由来記』巻十二に基づくもので、要約すると以下のような内容です。
 
「昔、首里金城に兄妹がいた。兄は鬼になって大里の洞穴に住みつき『大里鬼』と呼ばれ、村人から恐れられていた。大里鬼は夜な夜な集落を襲い、鶏や山羊、牛を盗んで食べたり、ときには人間まで食べたりしていた。ある日、村で鬼退治の部落会議がもたれ、そこに首里から妹が駆けつけてきた。
 
 妹は自分の兄が迷惑をかけていることを詫び、自分がなんとかすると申し出た。そして、怖い鬼となった兄を退治するため、兄の好物のもちをつくって中に鉄を入れ、一緒に食べようと首里の崖の上に誘う。硬くて歯が立たない鉄入りのもちと格闘している兄の横で、妹は普通のもちをおいしそうにパクパク食べて見せる。
 
 驚く兄に向かって、『私の上の口はもちを食べる口。下の口は鬼を噛み殺す口』と言い、着物をまくりあげて兄に迫った。びっくりした兄は、不意をつかれた思いで飛び上がるや、足を踏み外して崖から落ち、死んだ」
 
『鬼滅の刃』では妹が鬼となり、兄はそんな妹を人間に戻そうとしますが、沖縄の伝説はちょっと違うようですね。
 

厄払いから子どもの成長祈願へ変化

 伝説によると、妹が兄を退治したのが旧暦の12月8日だったことから、沖縄ではその日は厄払いの日として、ムーチーをつくって食べるようになりました。時を経て、今では子どもの健やかな成長も願ってつくられるようになっています。
 
 小さい子どもがいる家庭では、子どもの歳の数だけ連ねて、軒下に吊るします。また、赤ちゃんが生まれて初めて迎えるムーチーは「初ムーチー」と呼ばれ、たくさんつくって親戚や隣近所に配る風習もあります。
 そんな沖縄では、ムーチーの日が近くなると、スーパーなどにムーチーコーナーが登場します。
 
ムーチー粉の棚

 お気づきでしょうか。沖縄では「もち」と言っても、もち米を炊くのではなく、もち粉を練ってつくります。火の入れ方は違いますが、どちらかと言えばちまきに近いものです。つくったもちは一般的に月桃(げっとう)の葉で包み、葉の一部でつくったひもで結ぶのですが、手軽に輪ゴムやビニールひもを使うケースが多いようです。その後、蒸して完成です。
 

ムーチーに欠かせない月桃の葉

月桃の葉
 
 月桃は、昔から邪気払いや魔除けに使われている植物で、梅雨入り前の時期にスズランのような白くてかわいい花を連ねます。県内随所で自生しているほか、庭に植えている家庭も多いのですが、需要の高いこの時期には販売もされます。その独特な芳香が、蒸される工程で中の餅に移り、香り豊かなムーチーができあがります。
 また、沖縄の言葉で葉っぱのことを「カーサー」と呼ぶことから、ムーチーは「カーサームーチー」とも呼ばれます。
 

ムーチーは色も味もいろいろ

ムーチー粉いろいろ

  ムーチーの材料を揃えてみました。基本的には、もち粉に水を加えて練るだけのシンプルなものですが、最近ではさまざまな材料を混ぜて、カラフルなムーチーがつくられています。紅イモ粉を混ぜると紫色、粉黒糖を混ぜると茶色のムーチーになります。そのほか、カボチャやウコンで黄色、ニンジンでオレンジ色、ヨモギで緑色、白砂糖を加えただけのシンプルな白もちも人気です。
 
 こしあんやマッシュポテトのフレークを混ぜる変わり種もつくられるようになりました。「トーチナン」(写真中央)は高きびのことですが、昔は高きびが多く栽培されていたので、高きびでムーチーをつくっていたとか。ちなみにトーチナンを混ぜると、ういろうのような食感になります。
 
 今年はコロナ禍で中止になっているところが多いのですが、例年この時期には地域の集会所や保育園などで大きな鍋に大量のもちをつくり、子供たちが思い思いに丸めてムーチーづくりを楽しむのが、沖縄の風物詩となっています。
 
 最後にもう1つ、この時期にまつわる話を。毎年この時期は寒さの厳しい時期になり、「ムーチービーサー」と表現されます。「ビーサー」とは冷えのこと。昔の人はよく言ったもので、今年もとても寒い時期に当たっています。「寒いねえ、ムーチービーサーだねぇ」と、あちらこちらから聞こえてきそうです。
 
<取材・文/津波真澄>
 
津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催し、企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞。