元ヤクルトのエースが伝授。大分「かぼすブリ」のおいしい食べ方

大分県は養殖が盛んで、なかでも養殖ブリの生産量は全国屈指。さらに大分県といえばカボスの一大産地。この2つをかけ合わせ、ブリの飼料にカボスの果汁を添加することで生まれたのが、今が旬の「かぼすブリ」。このブリの魅力を元野球選手の川崎憲次郎さんに教わりました。おさかなコーディネーターのながさき一生さんがレポートします。

全国屈指の生産量を誇る、大分の養殖ブリ

かぼすブリ
今が旬のかぼすブリ(大分県おおいたブランド推進課)

 大分県には「関さば」「関あじ」、伊勢海老などの高級食材もあれば、マグロなど遠洋の魚も揚がっています。そんな大分県の魚を紹介する際にいつも困ることがあります。それは、おいしい魚の種類が多く、「どれを取り上げたら…」と迷ってしまうこと。

2016年漁業生産額
2016年漁業生産額(大分県統計調整課)

 データから大分県の漁業生産額統計を見ると、さまざまな魚が横並びに。しかし養殖業の部分では、ブリの生産額が一頭抜けている状況。そう、大分県は養殖ブリの生産量でも全国屈指を誇っているのです。そんな養殖ブリの中でも一際のブランド力を誇っているのが「かぼすブリ」です。
 

カボスをブリに与えて、身の変色を防止

旬入り宣言で振る舞われるかぼすブリ
旬入り宣言で振る舞われるかぼすブリ(大分県漁業管理課)

 かぼすブリは2010年から生産が始まり、旬を迎える冬に期間限定で出荷されています。大分県の漁業管理課によると、その研究が始まったのは2007年。それまでのブリの切り身は、血合いの部分から変色してしまい、見た目の悪さで商品価値が落ちるという課題を抱えていました。

 この課題を克服するために注目したのが、大分県が生産量全国一を誇るカボスです。県の農林水産研究指導センターは、カボスに含まれるポリフェノールやビタミンCなどの抗酸化作用に着目。カボス果汁を飼料に混ぜ、ブリに与えたところ、変色を抑えることに成功。
 
 さらに、臭みを抑える効果があることが分かり、実用化に至りました。2010年より販売が開始されたかぼすブリは、味よし、香りよし、見た目よしと評判がよく、さらに生産者・漁協・県が一体となって販売促進活動を実施。今では、大分を代表するブランド魚の1つに成長しました。今シーズンは、2020年10月23日に、大分市公設地方卸売市場で旬入り宣言式が行われ、3月末まで出荷される予定です。

川崎憲次郎さんに聞く、ブリのおいしい食べ方

川崎憲次郎さん
大分県の魚に詳しい川崎憲次郎さん

 かぼすブリについて取材をしていると、現地の人たちのブリへの思いの強さを感じます。そう大分県では、ブリの生産だけでなく消費も盛ん。今回そのブリ文化について、かぼすブリの一大産地でもある佐伯市出身の川崎憲次郎さんにお話を伺いました。川崎さんは元ヤクルトスワローズの投手で、現在は大分県内で自身の釣り番組を持っています。祖父が漁師をしていたこともあり、魚の詳しさもプロ級です。

ブリ
大分県は年末のスーパーに丸のブリがあふれる

 川崎さんによると、大分県でお正月に食べる食材といえばブリだそう。

「年末には、スーパーに大きなブリが並びます。それを買って3が日に食べるというのが、地元のお正月スタイル。1日目はゴリゴリの新鮮な刺身を楽しんで、2日目、3日目と日が経ったら『りゅうきゅう』などにします」。

『りゅうきゅう』は、魚の切身を、しょうゆ、酒、みりん、ショウガ、ゴマなどを合わせたタレに漬け込む大分の郷土料理。味つけはさまざまで、各家庭の個性が出ます。

かぼすブリは郷土料理『りゅうきゅう』がオススメ

大分の郷土料理『りゅうきゅう』
大分の郷土料理『りゅうきゅう』

 大分では、ブリはお正月に食べるごちそう。その中でもかぼすブリは、「背にまで脂がのっていてクセがなく、天然ブリに勝るおいしさ。味も安定していますし、本当においしいです。」と川崎さんは話します。

 そんな川崎さんがオススメするかぼすブリの食べ方も『りゅうきゅう』。かぼすブリは、刺身やブリしゃぶで食べるのが、オーソドックス。それを郷土料理に仕立てることで、かぼすブリのよさと大分らしさが際立つといいます。

 さらに、「できれば、富士甚醤油など大分のしょうゆを使うのがオススメです」とのこと。消費地だけでなく現地でも愛されている絶品のかぼすブリ。さまざまな魚がおいしく、舌が肥えた大分県民によって生み出された『りゅうきゅう』で、旬の間にぜひともいただきたいところです。

<写真/大分県漁業管理課、大分県統計調整課、川崎憲次郎、ながさき一生 文/ながさき一生>

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。