沖縄で見かける不思議な表記、「ホットぜんざい」。ぜんざいは、もともと温かいものなのに、なぜわざわざ「ホット」と付け加えるのでしょう。それにはれっきとした理由がありました。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格を持つ津波真澄さんが、「沖縄の、名前に戸惑うお菓子」をご紹介します。
沖縄のぜんざいは冷たい食べ物
沖縄で「ぜんざい」を注文すると、温かくなく、小豆でもなく、甘く煮た金時豆の上にかき氷が盛られているものが出てきます。味もいろいろあり、シンプルにあっさりと楽しみたいときは基本の素氷のもの、甘味や風味をプラスしたいときは、イチゴや黒糖、練乳がたっぷりかけられたミルク金時などのバリエーションを楽しむことができます(お店によってメニューは異なります)。
訪れたのは、那覇にある創業70年近い老舗。創業当時は小豆を使っていたらしいのですが、戦後、アメリカから入ってきた金時豆が煮崩れせず取り扱いやすいことから、金時豆に変更したそうです。
ふわふわに削られた氷の下には、ぎっしりと金時豆が入っていて、20センチ近く盛られた氷をこぼさないよう掘り進め、一緒に食べていきます。食べ終わる頃には体の火照りが取れて、おなかも結構満たされるので、小腹が空いた暑い日のおやつにぴったりです。
冬限定メニューで「ホットぜんざい」が登場
さて、一般的なぜんざいは暖かい沖縄では不評のようで、出しているお店は多くありません。また1年中あるわけではなく、冬の季節限定メニューとして登場させるところがほとんどです。その際、「ぜんざい」と表記するとややこしいので、「ホット」がつくわけですね。
訪れたお店でも、冬限定で提供されているので、注文してみました。「ホットぜんざい」は沖縄風ぜんざいのかき氷なしバージョンを温めたものかと思いきや、煮込んだ小豆に白玉団子が入っている、いわゆる普通の「ぜんざい」。こちらのお店では、おしんこと温かいお茶がセットになっていました。
最近は、冷たいぜんざいも「沖縄ぜんざい」「アイスぜんざい」などと表記し、わかりやすく示しているお店が増えています。
沖縄県人も名前を取り違えがちな「チンビン」と「ポーポー」
次にご紹介するのは、クレープをくるくる巻いたような、白と茶色の2種類のお菓子です。名前は「チンビン」と「ポーポー」。一風変わった響きなのは、どちらも中国伝来のお菓子だから。中国語の発音が沖縄の人たちにはそう聞こえたのでしょう。
実はこの2種類のお菓子、沖縄出身者でも、ただ単に呼び方が2つあると思っている人や、逆に覚えている人、はたまた、「白いポーポーと黒いポーポーがあるよね」と言う人もいるほど、ちゃんと覚えてもらえていない、かわいそうなお菓子です。
正しくは、白いものが「ポーポー」で、茶色いものが「チンビン」。ポーポーは水で溶いた薄力粉を薄く焼いた皮に、アンダンスー(油みそ)を芯にして巻いたもの。表面にちりめんじわができるように焼かれています。漢字では「飽飽」と表記されます。昔はつけ汁をつけて食べていたそうですが、現代は半分に切り、そのままスライドさせて重ねて食べます。というのも、端にはアンダンスーが入っていないので、こうすればどこを食べてもアンダンスーが口に入り、おいしくいただくことができるからです。
一方チンビンは、黒砂糖液で薄力粉を溶いたものを薄く焼いて巻いたもので、こちらは表面に穴がブツブツ開いています。漢字では「巻餅」と表記されます。琉球王朝時代の王朝菓子で、薩摩の殿様に献上したという記録もある、由緒正しいおやつです。
昔はユッカヌヒー(旧暦5月4日)に、どこの家庭でも子供の健やかな成長を祈ってポーポーやチンビンをつくり、神仏にお供えする風習があったそうです。今でもその風習が残っていれば、名前を間違えられることはなかっただろうに、と少し寂しさを感じています。
<取材・文>津波真澄
津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催し、企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞