熱々鍋に皮ごとミカンが!周防大島の「みかん鍋」がじわじわと人気

 ふたを開けると、ミカンが丸ごと浮いている「みかん鍋」。見た目のインパクトや鍋素材としてのギャップが話題の山口県周防大島町の名物鍋です。この「みかん鍋」の開発には、島民の「地元を盛り上げたい!」という熱い想いが込められているそう。地元で活躍するキッズ食育トレーナーの藤原真希さんが紹介してくれました。

瀬戸内海に浮かぶ「みかんの島」、周防大島

瀬戸内海に浮かぶみかんの産地

 ミカンの三大産地のひとつである愛媛県の離島(中島)から15㎞ほど、温暖な気候の山口県東南部に位置し、瀬戸内海に浮かぶ島では3番目に大きな周防大島。県内生産量の約80%を占める「みかんの島」と呼ばれています。収穫されるミカンは「大島みかん」と呼ばれ、三大産地にも味や品質で引けを取りません。

周防大島の名物料理としてみかん鍋を開発

焼きみかんを浮かべる

 ミカンの産地として周防大島を知ってもらうため、島を代表する名物料理を開発しようと活動を始めたのは、周防大島観光協会、事務局長の江良正和さん。島内の飲食店経営者や料理人(後の「周防大島鍋奉行会」)とともに2006年、開発を始めました。

「ミカンジュースでしゃぶしゃぶをしてみては?」「ウニをだしで溶いてミカン色の鍋にしてみては?」などさまざまな意見が登場したなか、ミカンそのものの味を楽しんでもらえて、かつ、周防大島の魅力が詰まった「周防大島みかん鍋」が完成。町をあげての地域おこしイベントでお披露目となりました。

 しかし、当初のみかん鍋には、ミカンは浮かんでおらず、ミカンを入れると実が崩れてしまったり苦味が出たり、なかなか思うようにいきません。試行錯誤の末、香りもよく苦味を抑えることができる「焼きミカン」を浮かべるスタイルに辿りつきました。

「みかん鍋」の具材や調理法、薬味は「周防大島鍋奉行会」により「4つの定義」が定められています。

定義1:安全・安心の証「鍋奉行御用達」の焼き印が押された小玉ミカンを丸ごと使用する

焼きみかん

 JA山口大島の選定基準や広島県環境保健協会の検査をクリアしたものに焼き印が押されます

定義2:ミカンの果皮を練り込んだ地魚つみれを入れる

みかんを練りこんだつみれ

定義3:青唐辛子とミカン果皮入りの『みかん胡椒』を添える

みかん胡椒を添える

定義4:鍋のシメはふわふわのメレンゲを使った淡雪みかん雑炊にする

泡雪みかん雑炊

 ほかにも、ミカン100%果汁のジュースでつくった白玉団子「みかん白玉」と、瀬戸内海でとれた地魚も必須具材です。下の写真はフグと大粒の瀬戸貝入り。

みかん白玉と地魚

「みかん鍋」のミカンは冷まして口直しに

 鍋にあたためられた丸ごとみかん、お味が気になるところです。山口県に10年以上住んでいる私も、今までみかん鍋の存在は知っていたものの、島に行く機会が少なく食べたことがなかったので、今回の執筆にあたり、実食がとても楽しみでした。

みかん鍋

 ふたを開けた瞬間、焼きミカンのいい香りが広がります。つみれはほんのりミカン風味で魚のくさみはありません。オレンジ色のみかん白玉はモチモチ食感で、白だしベースのスープにみかん胡椒を加えるとマイルドなピリ辛さが増し、いいアクセントに。

 鍋に浮いたミカンはアツアツなので、ある程度、冷ましてから皮ごといただくのが「みかん鍋流」と教えていただき、雑炊に移る前のお口直しとしていただきました。皮が薄いので思ったよりも食べやすく、とてもジューシーで、デザート感覚でいただけました。

 子どもたちは、鍋の中にミカンが浮いているのを見ただけで大盛り上がり。「なぜ?」「どんな味なの?」と興味津々でした。つみれも白玉も「ミカンの味がする!」と笑顔に。

 いちばん人気だったのは、ふわふわのメレンゲと卵黄をまんべんなくかけ、鍋を大きなミカンに見立てたシメの淡雪みかん雑炊です。やさしい味で、アツアツの雑炊とメレンゲを混ぜることで食べごろの温度となるので、子どもでも食べやすいのがうれしい。

「ミカン」と「鍋」、一見ミスマッチのように感じる組み合わせの思いがけないおいしさに、みんなで囲む鍋が一段と楽しくなりました。

 みかん鍋は、周防大島鍋奉行会加盟店の11店舗、11~3月の期間限定で提供されています。また、家庭で簡単にみかん鍋が再現できるお取り寄せセットも販売されていますし、周防大島町ふるさと納税の返礼品にも登場していますので、遠方の方も是非挑戦してみてください。盛り上がること間違いなしです。

みんなでつくり上げた郷土料理をもっと盛り上げたい

大鍋でみかん鍋

 みかんの島・周防大島を知ってもらいたいという思いから、みかん鍋が開発されて15年。開発当初は「ミカンを鍋に入れるなんて非常識だ」と、ミカン農家からお𠮟りの言葉もあったそうです。島内・県内でも食べたことがないという人へアピールを! と、地元学校でのみかん鍋実践や、周防大島一周駅伝をはじめ島をあげたイベントでのみかん鍋のふるまいなども、積極的に行ってきました。

民泊受け入れ学生にみかん鍋を

 また、周防大島町が年間約4000人の学生を受け入れている民泊(農山漁村 生活体験ホームステイ)でも、みかん鍋を郷土料理として紹介したり、ニッポン全国鍋グランプリに出場・審査員特別賞を受賞したりなど、徐々に全国の方々にも認知されるようになってきました。

 今まで、郷土料理というとその土地の歴史あるものというイメージでしたが、周防大島のみかん鍋は、特産のミカンを柔軟な発想で商品化し、少しずつ市民権を得ていきました。

  私も山口県で食育活動をするトレーナーとして、「みかん鍋」とコラボしてワークショップを行うなど、全国の方へもっと知ってもうと同時に、笑いや笑顔を届ける計画をしていきたいと思います。

<取材・文/藤原真希>
<写真・取材協力/周防大島観光協会・江良正和、大島本陣茶屋・近江和江>

[地元の食文化から食育を考える]

藤原真希さん
山口県在住。キッズ食育認定トレーナー/管理栄養士/2児の母。「食で親子のコミュニケーション」・「ママが料理を楽しめる工夫で家族みんなをHappyに」をテーマに、大人も子どももキッチンに立つことが楽しくなる方法を日々考案。(社)日本キッズ食育協会 青空キッチン山口周南スクール主宰。

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