備前市の中南米考古学美術館。マヤ文化のチョコレートの歴史に触れる展示も

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第82回:木村彩乃]―

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は、キャスター・リポーターを経て現在はショコラアドバイザーとしても全国で活躍する木村彩乃アナが出合った、カカオにまつわる貴重なコレクションをレポートします。

備前市にある日本で唯一の中南米考古学美術館

木村アナとBIZEN中南米美術館の館長

 1975年に設立された岡山県備前市にあるBIZEN中南米美術館は、今年で創館50周年を迎える日本で唯一、中南米の考古学的遺物を常設展示している美術館です。創設者の故・森下精一さんは岡山県出身で「日本と古代アンデスを繋いだ4人の日本人」と称されるうちの1人。実業家としても知られています。

 筆者はバレンタイン期間中に東京・銀座三越で開催されていた展示『濃厚なカカオの歴史』を訪れたことで、この美術館の存在を知りました。

美術館の中の様子

 岡山の美術館には、メキシコからペルーにかけて中南米11か国の考古学美術品や民族学的資料など約2700点(2025年2月時点)が収蔵され、常時約300点を展示しています。現在、館長を務める森下矢須之さん(精一さんの孫)によると「国別や時代別の美術館はあるものの、古代中南米の長い歴史、全域に渡る展示は、世界でも4、5か所しかないと思います」とのこと。 

 東京の展示では、カカオにまつわるコレクションが集められており、閲覧者のなかには、「レアすぎる。これは岡山に行かないと!」と興奮する様子も。この美術館が中南米の理解を深めるだけでなく、岡山県の地方創生にも寄与していることを感じました。チョコレートオタクの筆者にとっても見逃せない情報が満載。新たな発見をレポートします。

用途不明の土器が、チョコレートポットと判明

カカオポット3種

 写真上のポット3種は、いちばん左が紀元400~後250年、マヤ文化で先古典期後期のグアテマラのもの、写真右から2つは紀元700~1550年、エクアドルのもので、半年前まで「靴型土器・用途不明」といわれていました。

 ところがBIZEN中南米美術館を訪れた海外のマヤ研究者から「同型作品を調査した結果、内部にカカオ豆の残滓(カス)が残っていた事例が報告されている」という指摘があり、協議の結果「カカオ型チョコレートドリンクポット」と名称を変更したそうです。

カカオ豆型のポット

 3種のうち2種には取っ手がついていて、ここを持てば中でドリンクがこぼれないように保持される点も、理にかなっています。

チョコレートを泡立てるポット

 続いて衝撃だったのは「注ぎ口つきチョコレートポット」。紀元600~900年、マヤ文化で古典期後期のグアテマラの作品です。そもそも、チョコレートは現在のような固形ではなく昔はドリンクでした。カカオパウダー・バニラ・食紅・唐辛子・水などを混ぜたものです。当時は甘味がないので「泡がおいしい」とされ、高いところからチョコレートドリンクを何十回も落とし入れる作業を繰り返し、泡がつくられていました。

 ここまでは、チョコレートオタクの共通認識なんですが、今回の展示で、別の泡のつくり方が存在したことを知ることができたのです。なんと、写真手前の注ぎ口から息を吹き入れていたそうなんです。注ぎ口はそのままストローのように飲み口にもなっていたそう。

ポットの注ぎ口

 海外のチョコレート博物館へ行ったり、さまざまなチョコレートの文献を読んできた筆者でも初耳で驚いていると、森下館長が「私の知る限り、これまで3つくらいしか出土例がないレアな容器なんですよ」と教えてくれました。

 側面にはっきりとした線で描かれているのは、王族の書記が王の歴史をマヤ文字で描いている絵。よく見ると手の部分には大きな鳥の羽のペン、下にはノートが。聞けば聞くほど、歴史が詰まっていることが感じられました。

王家のチョコレートカップ

王家の守護神カウィールが描かれたカップ

 最後は、紀元600~950年、マヤ古典期後期文化の、グアテマラの「王家のチョコレートカップ」。一見同じように見えますが、よ~く見ると表面がマットとツヤツヤの違いがあります。塗る、焼く順番が逆だそうです。

 右側のカップには王家の守護神、カウィールが描かれています。「大きな目と口、長い鼻、額の鏡の先の石の斧から煙が出ているのが特徴。以前は、鏡の先はパイプかもと想定されていたが、マヤ文字のエキスパートが辞書にも載っていない石の斧を読み解き発覚しました」と森下館長が教えてくれました。左側は王らしき人が4名描かれています。王の持ち物は昔からおしゃれなんですね。

お土産にできるカップ

 美術館のグッズとして、彩文柄のコップもありました。これで王様気分を味わったり、当時のチョコレートドリンクをつくったり、夢がふくらみます。展示品は「いったい何リットル飲むの?」と思ってしまうサイズですが、こちらは現代に合った普通サイズのコップです。

ドネーションの資料

 BIZEN中南米美術館はサポーターになると名前を古代マヤ文字でつくってもらえます。マヤ文字は、なによりとってもかわいく、文字というよりはイラストのよう。

 チョコそのものを楽しむのも充分幸せですが、土器・土偶・石刊彫の形・画・文字などから歴史を遡り、カカオに触れるのは感慨深い時間でした。今後も定期的に東京や大阪で展示やイベントがあるそう。現在は創館50周年記念「進化する展覧会~美術館で古代マヤ文明の謎を掘る!」が開催中。岡山にもぜひ行きたいです。カカオ・チョコ好きの人も、考古学好きな人も、中南米好きの人も目が離せないですね!

<取材・文・撮影/木村彩乃(地方創生女子アナ47)>

木村彩乃アナ
千葉県出身。宇都宮CATVからNHK釧路放送局キャスター・リポーターを経て現在はフリー。アナウンス業のほか、スイーツコンシェルジュ・ショコラアドバイザーなど製菓関連の資格を生かし、全国で食の取材を行う。

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第82回:木村彩乃]―

地方創生女子アナ47
47都道府県の地方局出身女子アナウンサーの団体。現在100名以上が登録し、女子アナの特徴を生かした取材力と、個性あふれるさまざまな角度から地方の魅力を全国にPRしている。地方創生女子アナ47公式サイト